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刹那、駆け抜ける1

父の運転する車に揺られる帰り道、一弓は敗退したという実感がいまだに無く、また明日も試合があるんじゃないかという気がしたまま、ただ窓の外を呆然と眺めていた。


いつもは試合に勝ってもたいして喜ぶ素振りをみせず、負けてもほとんど悔しがったり悲しんだりしない一弓がこの日は明らかに沈んだ様子だという事を察して、いつもは賑やかな家族も口数が少なかった。


家に着き、一弓は自室のベッドで寝そべり天井を眺めていた。

最後の空振りの感覚がまだ全身に残っていて、真っ白な天井に相手投手の幻覚が映し出される。

顔を背ける様に横を向くと、部屋の隅に置かれた部活のバッグが視界に入った。

何故あの時、あの球を空振りしてしまったのだろう、試合終了の瞬間から延々と後悔が湧き上がって来て胸が締め付けられる。

一弓は寝そべったままバッグの方へ手を伸ばすが、バッグはベッドから離れた場所にあるので立ち上がってベッドから出ないと届かない。

伸ばした手は空気を握ると、力なく落下した。


「何やってんだろ、私...」


そう呟きながら一弓はゆっくりと瞼を閉じた。




恭子と遥は帰宅してすぐ、近所の公園に集合しキャッチボールをしていた。

二人ともベンチから試合を眺めていただけだったが、同級生が試合で活躍している姿に刺激を受け、自分達も身体を動かしたくなって居ても立っても居られなくなったので、キャッチボールでもしないかという事になったのだ。


「いや~凄かったね沢井さん、ホームラン打っちゃうなんて」


「そうだな、次はアタシも試合に出てホームランかっ飛ばしてやる!」


「前原さんは4安打だよ、同い年とは思えないよね」


「あぁ、でもそれだけ打っても最後の三振、相当悔しかったと思う」


最後の三振と聞いて、恭子は試合後の一弓の様子が思い浮かんだ。

グラウンドで涙を流していた一弓は、ベンチに戻って片付けをしている時も瞳に涙を浮かべて鼻をすすっており、恭子も遥も声をかけることが出来なかった。


「あんな前原さん、初めて見たね...」


「そうだな」


二人の間に沈黙が流れる。

一弓があれだけ悔しがっていたのは、単に試合に負けたからという訳では無いだろうという事を、恭子は理解している。

だからこそ、どんな言葉を一弓にかけてあげるべきだったのかは分からなかった。

沢井灯ならどんな言葉をかけるだろう、あの時は何も言わなかったが、やはりそっとしておいてあげるのがいいのだろうか。

なんて事を考えながら恭子は黙々と投げては受けてを繰り返していた。


「なあ、明日休みだろ。沢井と前原誘って飯でもいかないか?」


遥が意外な提案をして沈黙を破った。


「え?それは前原さんを励まそう的な?」


「いや、大会お疲れ様的な」


「私達試合出てないのにお疲れ様も何もないんじゃ...」


遥も気を使っているのかと思ったが、いつも通りの能天気な提案だった事に恭子は呆れた。


「そもそも二人共来てくれるかな?」


「来なければ絶交だ」


「いや、前原さんは勘弁してあげようよ!」


「急がば回れだ、早速誘ってみるか」


「善は急げ、ね。もしくは思い立ったが吉日」


遥がメッセージアプリの同級生グループにメッセージを送る


『明日みんなで夕飯食べにいかないか?大会お疲れ様ってことで』


「大丈夫かな...」


二人は一度休憩しようと、自動販売機でジュースを買い、ベンチに腰掛けて返信を待った。

30分ほどして灯から返信が来た。


『わかりました。集合時間や場所が決まっているのであれば教えてください。』


「まさかの参加!!!」


恭子は驚いて立ち上がった。


「あとは前原だけだな」


「前原さんは...まあ色々あるし来れ無くても仕方ないけどね、っていうか沢井さんが来るってだけでもう十分というか...休みでも練習するからって断られると思ったよ」


「夕飯時まで練習してるわけないだろ」


「いや、してそうじゃない?」


「......してないだろ」


「今、してるかもって思ったよね?」


「思ってないし!」


「思ったよね?あと今日帰ってから自分も練習しようとも思ったでしょ」


「うるさい!」


結局その後3時間ほど公園でキャッチボールをして解散したがその間に一弓から返信は無かった。

日も落ちかけ、恭子が夕飯を食べようかという時間になって、恭子の端末のバイブレーションが振動し、メッセージアプリから通知が届いた


『ごめん寝てたよ、夕飯いいね、私も参加する』


一弓からのメッセージをみて恭子は一安心した。

「了解」のスタンプを送ろうとした瞬間、先に遥からメッセージが送られてきた。


『よし、それじゃあ店とか集合時間とかは恭子が決めといてくれるから待とう』


「いや、私が決めるのかよ!!」


恭子は端末の画面に向かって大声でツッコミを入れた。

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