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夏を始める準備2

その日、女子野球部の練習をグラウンドの外から見つめる人影があった

練習の様子を近所の人や通行人が足を止めて見物していくのは珍しい事では無かったが、今グラウンドを見つめているその人物はただの見物とは少し様子が違うというのを、練習をしながら選手達、そして金子と後藤も感じていた


「金子さん、あの人...大丈夫ですかね?」


不安になった後藤が小声で金子に尋ねる


「大丈夫だと思いますよ、多分あれは」


その人物が明らかに一人の選手の動きを観察している事に金子は気付いていた。


「多分あれは?」


「スカウトか、あるいは記者か何かでしょう」


「ス、スカウト!?」


「はい、さっきから明らかに沢井の動きを追っているようなので」


「あっ、沢井さん...なるほど」


「今後ああいう人がもっと来るようになるかもしれませんね。」


「ど、どうしましょう?」


「まぁ、練習の邪魔をしている訳ではないので気にする必要は無いですよ」


といいつつ金子も気にならないはずはなく、選手達もヒソヒソと噂をしながらチラチラと様子を伺っている。

選手達が練習に集中出来ないのは困るが追い返す訳にもいかない。

沢井本人は全く気にする様子もなく淡々といつものように練習をこなしている。

流石、慣れているなと金子は感心する。

後藤に言ったように今後はもっと増えるかもしれないし、沢井灯という逸材を次のステップへと送り出すためには、監督として浮わついている場合ではないよな、と金子は心のなかで自分に喝をいれた。



練習が終わり、一弓と灯は駅のホームで電車を待っていた。

恭子と遥は寄りたい所があるからと先に帰ってしまったので、久しぶりに一弓と灯2人きりの帰り道になった


「知らなかったな、沢井さんのお母さんのこと」


「そう」


「なんでお母さんのいる高校にいかなかったの?」


「怪我をして、母のいる高校からも推薦の話が無くなったからよ」


「そうなんだ...」


一弓はじっと灯を見つめる


「何?」


「もしかして、お母さんへの復讐のために私を誘って全国へ行こうとしてる?」


「前に言ったと思うけれど、私は自分自身の実力を証明したい、それだけ。母にだけ固執している訳ではないわ。私を必要としなかった全ての人間に私の力を見せつけたい」


灯も真っ直ぐに一弓の瞳を見つめ返す


「そっか、じゃあその壮大な復讐劇の共犯にされちゃうんだ私」


「な、何を言って」


珍しく灯が取り乱す、意外な反応に一弓は楽しくなって、イタズラっぽい笑みを浮かべながら続けた


「いいよ、私優しいから最後まで付き合ってあげるよ」


「あのね、これも前に言った事だけれど、私はあなた程の才能が野球を続けないのは勿体無いと思ったからで」


一弓は、必死な灯の様子に初めて年相応の可愛げを感じた


「ほんと真面目だなぁ沢井さんは」


「ちょっと!」


いつもの仕返しとばかりに一弓はしばらく灯をからかい、楽しんだ

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