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夏を始める準備1

「ね、お姉ちゃん、夏の大会はいつから?」

妹の嗣弓つぐみの問い掛けに一切反応する素振りを見せず、一弓は夕食の唐揚げに手をつける


「大会ねぇ...一弓は1年生だからレギュラーで試合には出ないんじゃない?」


一弓が無視したことで流れそうになった嗣弓の言葉を母の真弓まゆみが拾う


「お姉ちゃんなら1年生でもレギュラーでしょ?強豪高校って訳でもないんだし」


唐揚げを頬張りながら喋る妹とは対象的に一弓は相変わらず何も聞こえていないかのように黙ってテレビに映るバラエティーを眺めながら夕食を食べ進める


「せっかく一弓が野球を続けてくれるんだし、大事な高校3年間だし、カメラ新しく買おうかな」


父の洋平ようへいも会話に混ざり、一弓抜きでだんだんと話しが盛り上がる


「バックネット裏に陣取ってさ、横断幕とか用意して大声でお姉ちゃんを応援しようよ」


嗣弓がイタズラっぽく笑い、一弓をチラッと見なる

流石に一弓も堪えきれず「ちょっと!」と声をあげた。

ウチの両親なら真に受けかねないと思ったからだ。


「ねえねえ、お姉ちゃんは当然レギュラーなんだよね?」


「...まぁ一応1桁の背番号は貰ったけど...」


「うはぁ!やっぱりすごいや、いいなぁ私も高校生になったらもう一回野球やってみようかなぁ」


嗣弓が箸をバットのように構える


「全然上達しなくて泣きながら野球辞めたくせに」


「あの頃とはちがうもん!」


小学校低学年の頃、一弓を真似て同じクラブチームに入り野球を始めた嗣弓は結局1年程で野球を辞めた過去がある。


「お姉ちゃんと同じ高校で同じ野球部に入って姉妹で全国を目指す!なんてかっこよくない?」


「絶対やめてよそれ...」


妄想に浸る妹を全力で拒絶し、一弓は一足先に夕食を食べ終え食器を片付け始める


「ねぇ、ところで大会はいつから始まるの?」


「うっ...」


母から尋ねられては流石に誤魔化せない、と仕方なく抽選会が終わったら教える事を約束した。

嗣弓が言っていたように強豪校で野球をしている訳でもなく、全国に行ける訳でもないだろうし熱心に応援する程でもないんだけど、なんて思いつつ、ふと灯の顔が浮かんだ


(...流石にまだムリでしょ、全然...)



翌日の昼、一弓は食堂にて1年生組揃って昼食をとっていた


「昨日ウチの家族が大会応援に来てくれるって話しになってさぁ」


「へぇ~、春日さん偶然だね。私のとこもだよ」


「前原はまだレギュラーだからいいじゃん!アタシなんて応援に来て貰っても出番無かったら申し訳ないし。恭子のとこは?」


「ん?私のとこまだそんな話しはしてないね。多分観には来るんだろうけど」


「そっか、沢井は?」


「私は...」


一瞬灯は視線を落としたが、すぐに淡々と言葉を続けた


「父が観に来ると思うわ」


灯の父が、というワードを聞いて恭子はハッと思い出した


「あっ...沢井さんのお母さんって確か...」



沢井友利さわいともり...」


金子が職員室で雑誌を広げながら弁当をつつく


「どうかしたんですか?」


隣の席の後藤が金子の机を覗き込んできたので、金子は「これ」と雑誌を後藤に手渡した


「叡智学園、沢井友利監督、有望選手達を率いて全国制覇へ...へぇ~叡智学園って確か全国大会常連の高校ですよね。うわ、すごい、やっぱり強い高校は全国から選手をあつめてるんですね~」


「そうだけどそうじゃなくて...」


「?」


後藤は記事を読んで何も引っ掛からなかった様子だったので金子がそのページのある部分を指差した


「沢井友利監督、ですか?」


「名前、見覚えないですか?」


「沢井友利...沢井...あっ...え?」


「そう、沢井友利、沢井灯の母親です」


驚いた顔の後藤から雑誌を回収して、再び自分の机に広げて金子は大きく溜め息をついた


「ほんと、やり辛いですよ...色々と...」









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