思い出の春1
練習試合の翌日、この日は練習が休みなので恭子は少しゆっくり朝の時間を過ごし、家を出る前に遥に「今から出るから起きなよ」とメッセージを送る
朝が弱い遥を自宅のドア前まで迎えに行き、一緒に登校するのが恭子の日課なのだが
今日はなぜか恭子の自宅マンションの駐輪場に遥の姿があった
「あれ?どうしたの今日は」
こんなことは初めてだったので恭子は驚いた
「いや、まぁ...たまには自分で起きようかなって」
「あ、わかった!今日の課題やってないから早めに登校して見せてもらおうって思ってるんでしょ!」
「違うよ」
「ふーん?」
この日の遥は、どこか様子がおかしかった
学校についてからも
「恭子、喉かわいてないか?何か買ってくるぞ」
「恭子、プリント返却私も手伝おうか?」
「恭子、先に食堂の席とっといてやるから昼飯買いに行っていいぞ」
いつもの遥からは考えられない言動に恭子も困惑するばかりだったが、これだけの気の使いようには心当たりがあった
きっと、昨日の事を遥なりに慰めようとしてくれてるのだろう
でも、だからといってここまで気を使わせる間柄でもないはずだ
もしかしたらまだ遥との距離は自分が思っているほど近くは無かったのかもしれない
そう思うと、なんだかとても寂しい気持ちになって、そしてだんだんと会話が無くなっていった
最後の授業が終わり、下校の時間
「さて、帰るか」
遥がそそくさと帰り支度を済ませ声をかけてきたので恭子も遥を待たせる訳にはいかないと急いで鞄に教科書等を詰め込んだ
「あ、待って!今日部活休みだしさ、前原さんとか沢井さん誘ってどっか寄り道していかない?」
「あのさ、今日は2人で帰りたいんだけど」
まさかそんな返答が返ってくるとは思っておらず、恭子は少し驚いた
「え?あぁ...うん、いいよ」
思えば、野球部に入ってからは、一弓や灯とも一緒に帰ることが多かったので、遥と2人で帰るのは久しぶりだった
ふと思い返せば中学の頃も他の部員達とも一緒に帰っていたので2人きりというのはほとんど無かった
いや、少し昔、まだ出会ったばかりのあの頃は2人の帰り道だった
そして2人で...
「なぁお腹すいてないか?今日の昼飯のパン残ってるんだけどいるか?」
「お、自販機発見!恭子も何か飲むか?」
相変わらずこの調子の遥
確かに、昨日は落ち込んでしまって周りに気を使わせてしまったのは事実だが
でも既に切り替えてまたいつも通りの自分に戻ったはずなのに
遥にはまだ昨日の事を引きずっているように見えるのだろうか
だとしてもいつもの遥ならバカ正直に
「元気だせよ!いつまで落ち込んでんだよ!」
なんて言ってくるはずだ
なぜ今日はこんなにまわりくどい励ましをしてくるのか
直接、聞くしかない
これからの、友情のためにも
「あのさ、なんでそんなに気を使ってるの?」
「え?」
「なんか今日の遥は変だよ、私もうそんなに落ち込んでないし大丈夫だから」
「...」
「私の背中をバシーンって叩いて元気出せよ!って言ってくる、それが私の知ってる春日遥なんだけど」
遥は何も言い返さず、じっと恭子を見つめるだけだった
恭子もただ遥を見つめ、返答を待つ
「恭子、グローブ持ってきてるか?」
遥の口から予想外の言葉が出てきた
「え?う、うん一応持ってきてるけど」
「じゃあキャッチボールしよう、久しぶりにあの場所で」
あの場所...
恭子には心当たりがあった
きっとあの場所の事だ
2人の汗と思い出が詰まった、あの場所_____




