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フライが捕れないから4

3番桜井が四球で出塁し灯の打席

一弓のホームランを意識することは無い、自分のバッティングを心掛け、初球から振っていく

力んでフルスイングになりすぎないように振ったものの、やや先っぽで捉えてしまった

それでもパワーでレフトオーバーのツーベースにしてみせた。ランナー桜井が返り林ノ宮に2点目が入った

5番高橋がヒットで続くも6番植竹が打ち取られ、ツーアウトランナー1、3塁で7番の遥が打席に入る

初球、2球目と見送りカウント1-1からの3球目

外角よりのボールを逆らわず右打ちし、打球はライト前へ

いつもは常に大振りの遥だが、親友を援護するためにコンパクトなスイングで1点をもぎ取った

しかし、それは恭子にとって更に重みになった

自分以外の同級生が1打席目から結果を出している、いつもなら素直に喜べるはずなのに今はただ唇を噛み締めるしかなかった

8番坂倉が凡退し1回の攻撃が終わった


「よし、頑張ってきて!」


恭子のキャッチボール相手をつとめた浦上が送り出す

マウンドまでの距離が果てしなく遠く感じる。重い足取りでなんとかマウンドへあがる

このままじゃいけない、深く深呼吸をし気合いを入れ直す

ここからは抑える、抑えなければいけない


しかしこの回も相手打線を止める事は出来なかった

1つもアウトをとれず連打を浴びて3失点

林ノ宮ベンチもたまらず投手交代を告げた


マウンドに集まった内野陣から労いの言葉をかけられたが恭子は俯き、力のない声で


「はい、すみませんでした...」


と答えるのが精一杯だった


その後試合は、後続の尾上、中津の好投で相手に点を与えず、打線も追い上げをみせるが結局追い付くことが出来ず終了した。



試合後の更衣室、先輩達から励ましに恭子は気丈に振る舞って応じていたが無理をしているのは明らかだった

さっさと着替えを済ませ更衣室を出る恭子を遥が追いかけ、一弓もマイペースで着替えている灯を急かし、慌てて2人を追いかけた


恭子に追い付いたはいいものの、誰一人口を開く事無く重たい空気のまま駅へ到着した

電車を待つ間、一弓は必死に話題を探した

遥もこんな恭子を見るのは初めてで、どう声をかけていいかわからなかった


「小山内さん、いつまで下を向いてるつもり?」


意外にも、最初に言葉を発したのは灯だった


「下を向いたままじゃフライが捕れないでしょ」


突然灯が放ったそのい言葉の意味が分からず、恭子はきょとんとした顔で灯を見る

灯は表情を変えることなくじっと恭子を真っ直ぐ見つめ返している

それは、灯なりの励ましの言葉だった

2人は見つめ合ったまま沈黙していたが恭子はふと脳内で今の状況を整理し、

灯が突然意味も分からない事を言ったかと思えば、その後は何も言わずただジッと自分の事を見つめてくるという状況を冷静に考えてみると何だかおかしくなり、思わず吹き出してしまった


「...ぷっ...ふふふふ、何それ。

あははははは、はぁ...ありがとね沢井さん」


そして、さっきの言葉は灯なりに励まそうとしてくれたのでは?と恭子は理解し、礼を言う。


「あなた、この前言ったわよね?全国目指す為に一致団結したいって。私も、1人で全国に行けるなんて思ってないわ、どれだけ点を取っても点を取られては意味が無い。だから小山内さん、ピッチャーのあなたにはしっかりして欲しいの、一緒に全国を目指すに相応しい選手になって頂戴」


「うん、わかってる...」


恭子が深く息を吸込み両手で自分の頬をパンっと叩いた


「よし、みんな明日からまた頑張ろうね」


いつもの恭子が戻ってきた、一弓はホッと胸を撫で下ろす

それにしても自分を野球部に勧誘した時もそうだったが、意外と灯は内に熱いものを秘めた女だなと改めて少し彼女のことを見直し、一弓の表情が緩んだ

そしてそんな一弓の視線に灯が気付く


「前原さん、何をニヤついてるのかしら」


「沢井さんもたまには良いこと言うんだなぁと思って」


「あなたは常に余計な事をいう人ね」


「余計な事なんて言ってるかなぁ」


「余計な事を言うわりに肝心な時は何も言えないのね」


「沢井さん性格悪い」


「お互い様でしょ」


「まぁまぁ2人共、喧嘩は良くないよ、団結しなきゃ団結」


一弓と灯を恭子が宥めるように割って入る

もう2度と俯かない、この日恭子は心に誓った。




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