フライが捕れないから2
「知ってる?沢井灯って無名の公立高校に進学したらしいよ」
女子高校野球の名門、修徳舎高校
その修徳舎のグラウンドで部員達がそんな噂話をしていた
その話が本当かどうかは分からないが、沢井灯がこの修徳舎高校にいないというのは紛れもない事実だ
全国からエリートが集まる西の名門修徳舎で4番に座るという事は、全国の女子高校生の中でも1番才能のある打者であるといっても過言ではない。
その修徳舎の4番の座に沢井灯の名前が挙がる事は無い
そして、大田球希にはその可能性がある。
怪物沢井灯と自身を比較し続け、そして比較し続けられた球希の野球人生
しかし、これからは比べられる事なんて無くなるだろう
なぜなら、球希は1年生ながら修徳舎の4番候補なのだから
「次、大田!」
呼ばれて球希は打席に入る
マシンから投じられるボールを捉え、次々にホームランを放つ
「やはり1年生の中ではあの子が頭1つ抜けてますね」
「これで沢井灯や前原一弓もいればまさに黄金時代、向かう所敵無しだったんですがねぇ...」
そんな話をしながら監督とコーチが球希のフリーバッティングに視線を向ける
柵越えを何本打ったかを喜ぶより、柵を越えなかった当たりが何球あったかを反省する
球希の理想は全球ホームランなのでフリーバッティングの中で柵を越えた数より柵を越えなかった数をカウントしている。
それは本気で1年目から4番を目指しているからこその意識である。
(沢井灯、どこで野球をやっているかは知らないけど、私はお前より上だと証明してみせる!)
ラスト1球、球希はフルスイングで振り抜き、打球はこの日1番の大きな放物線を描きフェンスの向こうへ消えていった。