同級生カルテット2
放課後、更衣室で練習着に着替えながら一弓は恭子の様子を伺う
昼間の事もあり、灯に対して何か仕掛けるのではないかと、自分の着替えより恭子の事が気になって仕方がなかった
「どうしたの前原さん?」
恭子も流石に一弓の視線に気が付く
「あ、いや...なんでも...」
一弓は慌てて着替えの手を早める
「先行ってるね」
何事もなかったかのように恭子が更衣室から出て行く、遙も恭子を追いかけるように出て行った
「ねぇ、もしかして小山内さんから何か言われたりした?」
一弓は少し離れた位置で着替えていた灯の元へ近づき周りの先輩に聞こえないように小声で尋ねた
「いえ、何も」
「ホントに?」
「よくわからないけど小山内さんが私に何か用事でもあるのかしら?」
「え?いや、別に」
「訳の分からない事を言ってないで早く着替えたら?」
気が付くと更衣室には一弓と灯しか残っておらず灯も既に着替え終わっていて、荷物を担ぐとさっさと1人で去って行った
一弓も急いで着替えを済ませグラウンドへ向かった
「沢井ー!ちょっとは加減しろよなー!」
練習とはいえ灯はこの部で誰よりも柵越えの当たりを打てる選手なので灯の打球がフェンスを越えるたび誰かがそれを拾いにいかなければならず、1年生の手が空いてない時は上級生が拾いに行くので度々冗談混じりで不満の声が上がる
「沢井さん、凄いですねぇ」
沢井の打撃を眺めていた部長(顧問)の後藤が思わず声を漏らす
「はい...でもあれ程の選手をウチの部で扱いきれるかどうか...」
その隣で監督の金子は複雑な表情を浮かべていた
「私の指導出来るレベルの選手じゃないですよ、あの子は...」
「大丈夫ですよ、沢井さんだってまだ1年生なんだし、完成されてるわけじゃないと思いますよ。きっと金子監督の力が必要な時が来ますって」
「そうですかね...」
「そうですよ!」
そしてその日の練習メニュー全て消化し、クールダウンを終えると恭子が一弓の元へやって来た
「ねぇ前原さん、この後予定空いてる?」
「え?まぁ空いてるけど」
「そっか、遥も多分大丈夫だとして...あとは沢井さんだね」
ちょうどそのタイミングで荷物をまとめグラウンドから引き上げようと灯が一弓達の側を通った
「沢井さん!」
恭子が声をかけると灯は足を止め振り返った
「何?」
「あのね沢井さん...私と...」
恭子は軽く息を吸い、真っ直ぐ灯を見つめ、そして言葉を続けた
「私と勝負してくれないかな」