夏休み前 いつもの一日
世の中の人々は夏と聞いたら何を想像するだろうか。
海、風鈴の音、セミの鳴く声、花火、そんな言葉が並ぶだろう。
だが、自分は違う……。
「夏樹~!二番卓の料理お願い!」
そんな母親の声が響くのは日本の田舎にある小さなレストランだった。
「今行く!」
小さなレストランではあるものの慌ただしい声が響いていた。
夏樹と呼ばれているのは自分、東雲 夏樹これと言って目立つところのない黒髪の高校二年生。
「今日も母上様のためにはタダ働きをするのであった」
「勝手に付け足さないで!あとお金はもらうし何で心読んでるの⁉」
母親とそんなやり取りをしていると奥から一人の女の子が出てきた。
「お母さんもお兄ちゃんも働いて」
「あんたのせいで私が怒られたじゃない」
「俺のせいかよ⁉」
夏らしいタンクトップを着たポニーテールの妹の立夏に怒られた俺と母は仕事に戻る。
綺麗な内装のレストランに地元の人と観光客達が賑わいを見せていた。
「卓数が少ないとはいえ、夏休み前はきついな」
「お兄ちゃんすぐに弱音を吐くんだから……」
「少しはねぎらってくれよ」
「この後は私の肩もみね」
「お兄ちゃん泣いちゃうよ?」
冗談だよと可愛らしく舌を出して立夏も仕事へと戻っていった。
「今日も疲れた……」
仕事を終えた夏樹は自宅兼レストランの自室に戻ってきていた。
「やっぱり田舎でも暑いものは暑いな……」
窓際に座りながらうちわで扇いでいると携帯が鳴りだした。
「もうそんな時間か……」
携帯を見てみるとそこには見知った名前が映されていた。
携帯を掴み自分の部屋を出る。
「夏樹?出かけるの~?」
「ああ、海未に呼ばれたから行ってくるよ」
「襲うんじゃないわよ」
「息子を少しは信頼して!」
サンダルを履き玄関の扉を開けると。
「お兄ちゃん私も行くから待って!」
「三十秒で支度しな!」
「いや、もう出来てるよ……」
どこぞのアニメ映画のようなセリフに呆れ顔の妹と一緒に家を出たのだった……