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問題  作者: 朝馬手紙。
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第九問


話し合った結果、付き合う前と同じように、生活してみることにした。廊下とかで、すれ違ったら声をかけて、昼休みには一緒に話して、一日に一回、必ずLINEや電話をする。

「…」

沈黙。

以前は、どうやって薫の顔を見ながら話していたんだっけ。7月、夏休み目前。薫と向かい合って会館のいつもの席に座っているが会話がない。目の前の彼女は小説に意識を向けていて、壁を感じていた。

「おい」

壁の向こうから話しかけられた。

「な、なに?」

「…なにか喋ってよ」

「えぇ…」

困惑。しかし黙るのも確かに良くないと思い、当たり障りのない話をすることにした。

「次の授業、何?」

「古典」

「へ、へぇ。そうなんだ」

はい、沈黙、終わり。

「…黙んないでよ」

薫が少し怒った様子で言う。それを聞いた私は熱くなった顔を両手で覆う。

「だって、はずかしいよぉ…」

実は廊下ですれ違った時に既に、自分の恋の鼓動と薫の遠慮がちに振った右手にクラクラきていたのだった。すでに致命傷を負っていた。可愛いは火力だ。視線を合わしてくれない彼女の横顔が少し赤くなっていたら、そりゃあ破壊力53万ですよ。

「わ、わた…」

「綿?」

「私だって、はずかしぃ…んだぞぉ…」

本で顔を見られないように隠す素振りをする彼女。止まった。私の心臓は止まった。けれど辛うじて再び動き出した。え?こんなに可愛い人が私なんかと付き合っているの?カノジョなの?実は一度、手をつないだことあるの?昔の私凄過ぎでしょ。



二人で決めたこと。それは少しずつ恋人になっていこう、ということ。面と向かって話せなくなるほど病に侵されてしまっているのだ。恋は完治しない。付き合い始めていきなりベタベタのイチャイチャのチュッチュッは無理だ。顔から火が出るなんてもんじゃない。という訳で友達くらいの仲良しレベルまで経験値を積んでいくことにした。慣れるまで心臓は鳴りっぱなしだが仕方ない。


が、手も繋げないままではデートすら出来ない。祭りの時私達と同じように告白して付き合うことになった彼女に聞くのが良いだろう。


そこで夏帆を連れてきた。

「で、なんで私までいなきゃいけないの?」

「夏帆がいると安心感かるから。あと人気投票ランキング上がるから(多分)」

「いや、なんの話だよ…」

前話で人気を掻っ攫っていったことを知らぬ本人は放っておいて、アキに恋愛テクニックを伝授してもらおう。

「アキ〜」

「あれ?なんでウチのクラスに桜が?」

「まぁ、聞きたいことがあってね」

「もしかして勉強?桜、頭悪いからねぇ」

それは言わないでくれ。この休み期間の間にどうにか手を打たないといけない。薫と勉強会でもしようかと思いついた計画を頭の隅に置いた。

「まぁ、今それは放っておいてくれ…」

「違うのか。じゃあ、なに?変な話じゃないよね?」

「あー、まぁ、変かもしれないね」

「えぇ〜?!もう、変態!!」

アキはわざとらしく胸元を手で隠した。大人しそうに見えて以外と冗談も言うし、ノリもいいのがアキの良いところだ。でも、今は真剣に話したいと思っている。

「あの!真剣に聞いてほしいことがあるんだけど!」

カクカクシカジカ。私と薫の現状をアキに簡潔に伝えた。女子同士で付き合っていると知られるのは多少怖いと思ったけれど、それ以上に薫が大切なのだ。怖がってちゃ前になかなか進めない。

「ふぅん、本当にいるんだぁ。レズビアンって」

特に大きな声をあげることもなく私の話を最後まで聞いてくれたアキに感謝した。絶交も頭にあった未来予想を裏切られてしまった。もっと、友達を信じてもいいのかな。

「そっかぁ、手を繋げないのかぁ」

「アキは彼氏と、どうやって繋ぐの?」

「無理やり」

まぁ、酷い。でも、素敵。他の人の恋がキラキラと見えてくるのはなんでなんだろう。今すぐにでも薫に会いたい衝動がフツフツと湧いてきて、少し熱くなる。一度、沸かしたお湯は熱しやすい。冷めても冷めても恋は熱い。

「手を繋げなくてもいいじゃん。デート、すればいいよ」

「え?」

「繋がなきゃいけないルールはないよ」

アキに言われて気付いた。確かにそうだ。

「うん、ありがとう。考えてみる」

「上手くいくといいね」

スーッと胸にかかっていた霧が消えていく。やはり話して正解のようでした。


ねぇ、アキ、と夏帆が口を開く。

「彼氏とは、もう、シタ?」

「えぇ〜?してないよぉ」

(あぁ、ヤッたんだな)と二人は頭の中に浮かんだ言葉を声に出さなかった。彼女は時々、無茶なことをすることがある。顔も名前も知らないアキの彼氏の、これからの気苦労を思うと泣きそうになった。彼女に振り回される男子諸君に、敬礼。





「っくしょん」

「どうした?風邪か?」

「いや、違うと思う」








それから終業式も無事に終わり、大量の宿題を必要ないと言っても持たられた私たちは夏休みを迎える。どうかしている陽射しにに引き分けにすら持ち込めなくて、クーラーの効いた部屋に引きこもり生活になるだろう。夏休みの間はニート同然の高校生だ。

でも今年はニートじゃない。いや、そもそも無職ではない。勉強が仕事の学生なんだ。でも、

「デートしたいなぁ」

焦っても何かが上手くいくことは少ない。一番大切な人とは、なるべく同じ歩幅で、同じ速度で歩いていきたい。薫の傍にいたい。その夜、電話でデートのお誘いの声をかけてみたら、断られた。

「まず、宿題が先」

「あ、はい」

やるべき事は済ませておく。そういうところ、好きだな。

「も、もう!バカ!」

おっと、声に出していたようだ。しかし人を馬鹿呼ばわりされる気分は良くない。やけになって感じた感情を復唱した。

「好き」

「バカ!バカ!バカ!」

「好き!好き!好き!」


この時の通話を、どうやって終わらせたのか覚えていないけど、確か、この時間が終わって欲しくないと思ったことは覚えていたのでした。



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