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問題  作者: 朝馬手紙。
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第六問


踏切のメロディが私を嘲笑っているような気がした。なに、一人で勝手に舞い上がってたんだろう。少しだけ仲良くなってきただけ、他の人より接するのが楽なだけ、気にしているのは私一人だけ。

 ガタンゴトン、電車が通り過ぎる。別れたあともずっと胸が苦しいのは、別に、桜が男子に告白されたからじゃない。桜に好きな人がいるって知ったから。まぁ、桜だって女の子だし恋くらいするだろう。頭は冷静にいられるけど、心が反論してきて困っている。あのまま桜といたら何か言ってはいけない言葉を言ってしまいそうな気がしたんだ。

(恋人を作らないで)って。

ただの友達…なのかも怪しい、そんな私が口出ししていいことじゃないって分かってる。でも、痛い。死ぬほどじゃないけど、耐えきれそうにない。どうにかしたいけど、どうすることも出来ないまま、私は改札を過ぎていった。






気付けば私はベットにグッタリと倒れ込んでいた。自分がどうやって家まで帰ったのか、記憶がない。少し怖くなって、つい携帯を探る。掴んだスマホに、通知で桜から「また明日、昼休み会おうね」とあった。

でも桜には友人関係が広いことを私は知っている。わざわざ私に付き合うことないんだ。

そうだ、桜には私がいなくても大丈夫なんだ。桜には好きな人がいるんだ。思い出して、また、心が発狂しようと私の中で暴れ回る。もう抑えるので必死だ。

額と目元から汗が出ててくるのを拭って、そこで初めて時計を見た。夕飯前。たしか、今日は私一人だっけ。

じゃあいいや、と布団に潜って死んだ魚になって夜を泳がずに漂っていよう。

バタバタと抵抗する心。

アァ、クルシイ。

心が私じゃないみたい。

「さくらぁ…」

桜…あぁ…声が聞きたい。うるさい声を私だけのために向けて欲しい。私は今、死んじゃってるから冷たいんだよ。桜に、この身体を潰れるまで抱きしめてほしい。あ、でもやっぱり耳元でダイスキだよって囁いてもらうのもアリだなぁ。

桜、桜、さくら…

心がこんなに言うことを聞かなくなったのは産まれて初めてかもしれない。


ピコンッ

「…?」

それは無意識で起こってしまった出来事だった。LINEの通話ボタンを押してしまったのは、何かに取り憑かれて身体を操られたから、と推理してしまうほど心が寂しがってたからなんだ。うん、そうだ。そういうことにしておこう。

「え!?もしもし?」

桜だ。

「あ…あのッ…」

何か言わなくちゃ、何か言わなくちゃ。

「薫?」

「う、うん」

返事をするので精一杯になる。

「あーなんか、電話って恥ずかしいね」

「そ、そうだね」

「…?薫?何かあった?元気ない?」

誰のせいだ、バカ。

「じゃあ、ジュース奢って」

「ホワイ?!なぜ?!」

クイズなら答えられないだろうね。

「もしかして怒ってる?」

「なにが?全然、怒ってないよ」

「うわ…メッチャ怒ってるじゃん」

本当に、怒ってなんかないよ。あんなに震えていたのに、今落ち着いているのは彼女のお陰だ。そして私は、ゆっくりと布団から起き上がって部屋を出る。その後は他愛もない、でも何か貴重な原石が紛れ込んでいるような、そんな時間を過した。電話越しの桜はうるさいけど、悪くない。うん、悪くなかった。







日付は進み、学校の授業、4限目が終わった。教科書ノートをしまい、いつも通りに図書室という世界へ向かう。人生で上位にランクインするであろう楽しみの一つが「図書室へ行くこと」なのは、文學少女の端くれとして満点に近い回答ではないかと思う。本棚の帯を眺めるだけでも時間の無駄だとは一切思わない。読むだけが文學ではないと主張したい!そんな勇気はないけど!

 しかし、感情だけで物語が進むわけではないと私は知っていた。とある文庫を手に取り、今晩のメインを選りすぐる。本を選ぶ時間、それは、おやつを迷う少年の心地なのだ。私にとっては洋服選びより時間がかかる時もある。

「…えっと」

珍しく、見ない男子生徒が一人探しものをしているみたいだった。とても良いことだと思った。大体の場所が司書の先生よりも分かる私が親切に教えてあげないのは面倒だからではない、決して。私は私で、このあと大事な人と会うので構ってられないだけだ。すまんな少年、絶望するなよ。

「あれ?…どこだろう…」

チクチクと痛む音さえも聞こえないフリをして、文庫3冊を抱えてカウンターで借りる。

「困ったな…」

チクチク。ええい、痛いではないか畜生。たまらず私は声をかけた。

「何探してるんですか?」

「うえ!?」

驚かれた。

「大体の場所なら分かると思うから」

「えっと、いいの?」

いいから早く教えろ。

「うん、分かることなら」

「じゃあ、こういう本なんだけど」

恐る恐る彼が差し出した紙に書いてある文字を見る。メモに書いてあった本は医学関係の難しい本のようだ。生徒向けではないため、普段は先生に貸す用の本棚に保管してある。いくら探しても見つけられないはずだ。

「だから、司書の先生に言えば貸してくれると思うよ」

「ほんと!?ありがとう!」

「どういたしまして」

お礼を言った彼は、すぐさま司書の先生のいるカウンターまで向かって行った。その時、彼がすでに抱えていた本を少し見てしまった。エッセイだろうか、同性愛者が達筆したものであると思える。人の考えを詮索するのは好ましくない。誰にでも言えないことくらいあるものだ。少し遅れたけど彼女と会うために図書室を後にする。

そう言えば、彼を何処かで見たような気がしたけど気のせいだったかな?

きっと推理小説の読み過ぎで深読みしてしまっただけだろう。そして、それ以降、私が彼を思い出すことはなかった。










彼は最初の一歩目でコケると簡単に諦めてしまう人間です。しかし一度歩み始めると、どこまでも進んでしまうことの出来る人なのです。彼はそのことに気づかないまま、人生を終えていくのです。



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