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問題  作者: 朝馬手紙。
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第三問


 私の中は空っぽだ。空洞。夢がない、やりたいことが思いつかない。そして今、進路について考えるのを後回しにしたツケがまわってきている。恋愛なんてする余裕はない。力のこもってないため息が口から溢れるのをただ眺めていた。

 勉強したところで私の将来の最適解は導き出されることはなかった。そして、遊びに誘われたら積極的に行くようになった。つまり、弾けた。いや、萎んで枯れた。なにもかもがどうでも良くなった気がした。そんな退屈な日々の中、彼女に出会ったんだ。何考えているのか分からない、でも悪い人ではないだろうなと感じた。理由なんてない。女の勘だ。



 ザワザワと教室がいつもより騒がしいのは、夏祭りが近いからだろう。私も薫を誘いたい。別に話が合うわけでも、部活で仲がいいわけでもない。(まぁ、私達は帰宅部で特に何もないのだが)彼女を誘いたい理由は、ある。友達になりたい理由も、ある。一緒にいる時の空気が、好きだから。


 偶然、食堂に寄った時、一人で弁当を頬張っている薫を見つけた。初めは興味本位で話しかけようとして近寄ると、美少女にあるまじき嫌そうな顔をされた。そこまで嫌い?というか、カラオケの時のハイテンション薫とのギャップが激しすぎて別人のように思えた。けれど、薫は薫だ。例え、キャラを作っていたとしても、空っぽの私が言える立場ではない。何でもかんでも話せる仲だけが最善ではないだろう。色んな人がいるように、色んな付き合い方があるはずだ。少なくとも私はそう信じている。

 さて、どんな誘い文句がいいだろうかと悩んでいるとクラスメイトに話しかけられた。

「桜は祭り暇してる?よかったらまた皆で回らない?」

「あー、別のクラスの人と約束が」取り付けたわけではないけど、誘いたいとは思っている。

「えー?マジ?」

「なになにー?どしたのー?」

「桜に彼氏だって」

「ちょ、違うし!」

「え〜なんか怪しい〜」

 畜生。否定すればするほど信憑性が失われる。別に薫とはそんなんじゃないし…友達ですらないし…


 それからは一頻りクラスメイトにネタにされて、中には「ついに桜にも春が来たのか」と泣く素振りのする人まで出た。春香にも「よかったね」と優しく肩を叩かれた。皆、悪い人たちではない。だからこそ、実は相手は女子で…とは言い出せなかった。そんな花びらが舞っているかのような雰囲気で放課後を迎えたのだった。







 薫のクラスに移動している途中、演技部の夏帆と帰宅部の薫が二人で歩いているのを見つけた。

「よう、桜、久しぶり」

「うん、久しぶり。これから部活?」

「見ればわかるでしょ」

 そんな、演技部があるかどうかなんて見ただけでわかるわけないでしょうが。

「てか、珍しいね。コッチの教室に来るなんて。何?彼氏?」

「違うから」

 全く、どいつもこいつも恋愛思考でしか物事を考えれないのだろうか。

「じゃあ、彼女?」

「ちが…くはないかもしれない…?」

 薫に用事があるのは確かだ。

「へぇ。桜に彼女かぁ」

「…何?」

「良いんじゃない?ほら、最近同性の結婚?オッケーになったじゃん、日本も」

「あー、そうだっけ?ニュースとか興味なくて」

 と間抜けなことを言ってると、

「フフッ、桜はスポーツニュースしか見なさそう」

 と、薫に笑われた。あぁ、笑顔、とっても可愛いなぁ。でもその表情は恐らく作られたキャラの持ち味によるものだろう。私と二人きりでいるときと違いすぎるもん。

「もう、やめてよ。…図星だけど」

「図星かい!」

 とか漫才している場合ではなかった。

「そうそう、薫に用があって来たの」

 キョトンと少し首を傾げる仕草、犯罪級です、薫さん。

「い、一緒にさ、祭り行きませんか?」

 何故か変な敬語になってしまった。

「ごめんなさい。私、夏帆たちと「ゴメン!あたし行けないわ、一緒に」

「え?」

 夏帆が思い出したかのように告白する。

「あたし、彼氏と行くから」

「「えぇ!?」」

 部活でいつも忙しい夏帆に恋人が出来たなんて。でも私以上に薫の方が驚いているということは今初めて知ったんだろう。

まぁ、恋人なら仕方ないかと納得していると

「あー、あと、アキも好きな人を誘って、祭りの後、告るみたいだから無理だってさ」

 ガビーン。丁度そんな効果音が付きそうな顔を薫はしていた。

「アキも、好きな人いたんだ…」

 まぁ、女の子だしね、と夏帆が付け足す。その言葉を聞きながら私は(もしかして今、薫は一人、フリーというやつなのでは?!)と思考を巡らせていた。

「おっと、こんなことしてる場合じゃなかった。私、部活行くわ」

 またね、と言って夏帆はサヨナラをする。

「ねぇ、」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないのに」

「実はその日、風邪引くんだよね〜」

「あら〜、それは大変、お見舞いに行こうかしら」

「やめろ」

 おっと、聞いたことのない低い声だ。ゴスペラーズの一番低い音かな?

「また誘うから、考えといて」

 そう言って私も、またね、をした。廊下の開いてる窓から吹奏楽部の音が聴こえる。何度も何度も同じようなパートを、でも日が暮れる学校に相応しいバックグラウンドミュージックだと思った。ようは、ノスタルジックってやつだ。




 次の日、眠気をふっとばす答案用紙が次々と返ってきた。学校ってなんの為にあるんだろう。生徒の私はなんで通っているんだろう。友達がいるからという理由が一番に思い当たる辺り、ろくな学生ではないと自覚する。窓から見える青色に逃避しながら、ふと、薫はテストどうだったんだろう、と考える。

 彼女は自分は普通だと言っていた。でも見ているだけで面白い人だと気付いてから、意識的に目で追いかけていた。そして薫には嫌な顔をされるという日々を過ごしている。例えるなら、好きな子にちょっかいを出す小学男子の心だ。趣味もない、将来の夢もない、そんな私の世界に、彼女はパレットを持って現れ、ハチャメチャに色を塗りたくられたような心地。今度、「責任とってよね」とか冗談でも言おうかな。薫にそう言った後、鼻で笑われる未来が目に見えて、頬が緩む。

なんか…

(もっと、一緒にいたいなぁ)


「桜ちゃん、テストどうだった?」

「あれ?天使が囁いてる…私、死んだのかな?」

「生きてるよ!?そんなにテストヤバかったの!?」

 春香の声を遠くに感じながら、走馬灯のように薫との思い出を、思い出を…

 あれ?ろくな会話のキャッチボール出来てないな。

 もし、来たる祭りを二人で行けたとしても、テストより難題が待ち構えているのでは?と不安が過ぎっていくのだった。




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