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問題  作者: 朝馬手紙。
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第二十五問


 薫と東京に行ってから一週間、なんの音沙汰もなかった例の件だけれども今日の朝、ポストに件の合格の通知が入っていた。リビングでコーヒーを飲んで携帯を弄っている彼女の元へ。

「なにか良いことあった?」

 薫はすぐ私の気持ちに気付いたみたい。私は合格の喜びを分け合いたい勢いで彼女に抱きつく。

「え?ちょっ、危ないって!」

「今だけ、許して」

「もう時間になるよ?帰ってからじゃ、ダメ?」

「帰ってからもやる。今も、やる」

「おいおい…」

「あのね、家族が増えるよ」

「おいやめろ」

 間髪入れずにツッコまれて少し驚く。なんだろう、流行っているのかな。

「あ、あの…合格、したんだけど」

「あぁ、ゴメン。つい」

 私の悪い癖だ、と薫は言って私に向き合ってギュ〜と抱く形になる。あぁ…神様、どうか幸せな時間は見逃してください。いつまでも永遠に一緒にいたいと思ってしまう欲深き私を許してください。

「話は今日帰ってからね」

「そうだね」

 時計を見ると家を出なくてはいけない時間の十分前を針が指し示していた。あっという間に幸せは過ぎてゆくの、どうにかして欲しいものだ。なんとか、なりませんかねぇ、神様。


(ムリです)


「あー!ヤバい、何も食べてない!」

 でも急いで出なくては。

「ほら、桜。あ〜ん、して」

「え?…あ、あ〜」

 ん、と朝食のトーストを口に入れられる。薫の指が私の唇にチョコンと触れて、ちょっとドキドキしちゃう。

「あひあほう」

「はいはい(笑)」

 ドタバタと騒々しい朝になってしまったが私たちに子供ができる。(まだ確定したわけではないけれど)記念すべき日になったことに変わりはない。それから、いつもと同じように家に鍵をして二人は仕事へ行ったのだった。





 仕事中は流石に気持ちを切り替えて目の前のことに集中した。でも休憩時間になると誰かに話したくて話したくて堪らなくなった。けれど薫と話し合って決めてないから、まだ内緒。叫びたくなる感情を抑えきれなくて、帰りに書店に寄って雑誌を数冊購入した。帰宅後、薫に見せると「お揃いだ」と言って同じ冊子を出された。考えることが同じ。互いが互いに似てくる不思議、でも凄く良い。






「また新幹線に乗ることになるなんて」

「でも嬉しそうだね」

「あ、バレた?」

 理由は単純明快。薫の手を独り占めできているからだ。いつもの彼女は本を読むから〜とか、眠いから〜とか、断ってくるのに今日は全然ない!ギュッ!ギュッ!ギュッ!

 窓の外の景色なんて知ったことか。妻の隣で座る私にしか見えない景色に比べたら勝てっこない。(個人の意見です)




 そして、あっと言う間に時間は過ぎる。駅を出たらそこからは、とびきり大きな病院までバスで向かう。病院が近付くにつれて二人の間に会話が無くなっていく。今日は身体測定、健康診断、血液検査の後にiPS細胞に関する長い説明がある予定だ。そして、一部の細胞を採取されて数時間後に“その時”がやってくる。プシューと停車する音。

「降りようか」

 いくら頭で分かっても不安は消えないまま、二人は歩み始めた。






 受付で場所を案内されてアノ彼女に再び出会うことになった。面接の時、私たちのことを監視していた彼女。憎むべき相手とでも言うかのような目付きは相変わらずのようだ。

「お久しぶりですね」

「………そうね」

 カルテのようなものに何やら記入しながら適当に返事される。身長を測りながら彼女の些細や変化に気付いてしまった。仕事しかやってない堅物のイメージの彼女の髪に可愛らしい向日葵の髪留めがあった。まさか自分で選んだとは考えにくい。というか私服を持っているのだろうかと失礼なことを思ってしまうほど彼女は真面目な人だった。なので考えられる可能性は一つ。

「その髪留め、カレシさんに貰ったんですか?」

「ひゃいっ!?」

 バタッとカルテらしきモノが落ちた。というかこんな可愛らしい彼女の声は聞いたことがない。(そもそも彼女と出会うのは2回目だ)

「な、なんかスミマセン」

「いえ……こちらこそ、取り乱してしまって…」

「それでカレシさんとは」

 そこまで言いかけて彼女を見ると照れているのか全然違う方を向いていた。あれ?彼とは恋仲ではなかったのだろうか。

「変なこと聞いて、スミマセンでした」

「お、お気になさらず…」

 私は会釈した。プライベートなことはあまり聞かれたくないタイプの人だったんだ。大変失礼なことをしてしまった。


 その後も血液検査等を終えて長い説明を薫と聞いた。それから特別な手術室へ移動して仰向けで息が止まりそうになるくらい緊張する中、始まった。


 終わった。少しチクッと左の腕に針が刺さった痛みが確かにあったのは一瞬のこと。もっとブラックジャックみたいな絵面を想像して覚悟していたのに呆気なかった。

「あの、コレだけですか?」

「はい、あとはコチラで全力で準備させてもらいます。大森さん、お疲れ様でした」

「よ、よろしくお願いします…」

 周りの人は私たちの為に人一人の為に必死に働いているんだと目を見て思った。私だけ楽な仕事をしてしまったみたいで申し訳ない気持ちでいっぱいになる。でも手術室は明るかった。









「おめでとうございます!成功です!」

 さして激痛もなく、全ての過程が終了した。薫の元へ行くと何やら説明を受けているようだった。

「では、よろしくお願いします」

「はい、分かりました」

 後で何を話していたのか聞こう。でも今は早く家に帰ってグッスリ眠りたい気分だ。

「薫〜」

「あ、桜。お疲れ様」

「お待たせ」

「どうだった?」

「全然、痛くなかったよ」

 私は顔の前で手を振ってみせる。さぁ、帰ろう。またこれから忙しくなるぞ。そして二人は病院を後にして歩き始めた。





薫桜「ヒューヒュー♪」

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