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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第四章(#012ー2) メテオライト・デート】
73/81

073→【彼女と彼女と彼】



「死ぬ為に産まれる命なんて、ない」


 落ちかけた俺を、その手を、彼女が掴んでいた。

 誰かを助ける為に、自分も命を投げ出すようなこともなく。

 二人で一緒に、続いていく為に。


「命は、いま生きるため、これから生きていくために、あるんです。たとえ今日が、命の終わりの、その日でも」


 そう語ったのは、俺に笑ったのは――知り合いであって、知らないその子。

 十回目/タイムカプセルの【一周忌の日】に見た……背も伸びた、夢の途中の、千波岬。


「ちーちゃん、後ろッ!」


 叫ぶ。

 顔のない偽の俺はこともあろうに、ちーちゃんにまで手を伸ばそうとしていた。

 ふざけるな。こいつに触られたら、この子まで……!


「逃げるんだッ! 俺のことなんか放っとけ!」

「嫌ですッ!」

「な、」


 驚くような大声。俺が一緒に過ごした二回の、そのどちらでも、予想がつかなかった反応。


「馬鹿ですか本当に! あの日、私を助けてくれた、もりおにーさんをッ! 私が助けられなかったあなたを、どうしてもう一回、諦められると思うんですか!」

「そ、ん、なのっ、決まってんだろうがッ! 君が、俺に助けられたちーちゃんだってんなら、なおさら俺が道連れにしてどうすんだッ! 聞き分けて諦めろ、いい子だからッ!」

「んじゃああたしは、関、係、ねえなぁぁっっっっ!」


 雷が落ちたような、叫び、振動、轟音。

 踏み込み、一閃。

 打ち放った拳が、無防備な側面から、ニセモリオをブッ飛ばす。

 ……唖然。

 こいつ、一年後、ここまでの獣になってんの?


「かっかっかっか。ぃよぉーうクソ兄貴、悪くて強い妹だぜ。しっかし、相ッ変わらずいい殴り心地してんなあ。あれ、持って帰っていい? サンドバッグにすっからよ」

「……おまえね、しれっと恐ろしいこと言ってんじゃないよ、真尋」


 せーの、のかけ声で、二人に引っ張られ屋上に戻される。


「なあ、兄ちゃん」


 空手の稽古着を着た、高校生の、【金メダル一直線・全勝宣言】をブチかました真尋が、穏やかな声で言う。


「本当にやりたいことを諦めていい理由なんて、そんなの、絶対、一生ないんだ。困難だとか、何の理由にもなりゃしねえ。そういう時に考えるのは【ダメだったらどうしよう】よか、【うまくいったら最高だ】のほうにしてんだよな、このあたしはよ」

「……ふん。そりゃおまえがバカだからだろ」

「おうよ。何と言っても、相楽杜夫の妹だぜ」


 ぐうの音も出ない返しに、口を噤む。

 本当。

 こんな俺の妹であることを、どうしてそんな、誇らしげに笑いやがるのか。


「あ。見て見て、まっひー」


 聞き慣れない呼び方をしたのはちーちゃん、彼女が指を差したほうを見ると、――うわあ。なんじゃありゃ。


「おっほ。さすが、バカ兄貴の中にいるヤツなだけあるわ。しぶてーのなんのって」

 

 俺の姿をした――あれがおそらく、メメ子の言っていた【死の靄】――が、立ち上がり、輪郭をぐじゅぐじゅと崩し、増殖しながらこちらにじりじりと向かってきていた。


「こりゃ、普通にブン殴るだけじゃ場当たりだな。やっぱモトから絶たねーと。……おぉぉおおいっ、ホスト崩れっ!」

「はいどーもッ!」


 貯水塔の影から姿を現したのは……あの男!

 天高く放り投げるケバケバしき花束、弔いはもう不要とばかりに散る花びらが一年間積み上げた成長を綺麗さっぱり洗い流すシャワーとなり、今、その全盛期の馬鹿さを取り戻す(カムバック)


「な、お、お前は……! 第九回命日の一周忌出身! 全山田ソロモン中、唯一、ブーメランパンツで警察に追われた山田ソロモン————ッ!」

それは僕です(イエスアイアム)!  やあ杜夫、待ちかねたかい!? それとも当然わかってたかな! こんな盛り上がる重要シーン、悪友(ぼく)抜きじゃあまるで、ラッキースケベのないラブコメだってねッ!」


 そいつがキメキメのポーズで腕を突き出し、太陽を指差したのに合わせてだった。

 雲一つない青空から、一台のママチャリ――見覚えと愛着しかない我が愛(チャリ)、【雷光丸】が降ってきた。


「うぉぉぅっ!? も、も、もう何でもアリだな!?」

「そうとも。何かをできないと決めつけるほど、馬鹿馬鹿しくて面白くないことはない。僕は君のそういう無鉄砲さが、好きで好きで堪らなかったんだぜ、杜夫」

「…………山田、」

「さ、行こう。君には君の、君にしかできない、君がやるべきことがある。これからもっと、楽しい明日を始める為にね」


 運転席に跨った山田が、後ろに乗るように促す。

 でも、このまま二人を置いては……。


「行ってください、もりおにーさん」

「止まってんじゃねーぞ、バカ兄貴」


 促され、不安を払われる。


「心配いりません。私も、まっひーも、あんなものには、触られても飲まれてもどうってことないんですから」

「そ、そうなのか?」

「あのなあ。当たり前だろ」


 仕方ないなこのアホは、と溜息を吐く(一年後の)真尋。


「このあたしも。ちー坊も。相楽杜夫が命を託した、【生きる力】をたっぷり貰った、未来の希望そのものなんだぜ? あんな陰険で後ろ向きで否定しか出来ないようなスッカスカにゃあ、束になっても負けねーよ」

「――――っ、」

「そういうわけですので」


 ちーちゃんは、にっこりと、あの頃よりぐっと大人びた顔で笑う。


「一年後、未来でお会い致しましょう、もりおにーさん。その時は、私の夢にも、付き合ってくださいね」


 山で育って、海で泳いだことが無い。

 あの時、そう語った彼女から、今、願いを預けられた。

 今度は、諦めるわけにはいかない、状況で。


「ち、」

「では、発車っ!」

「ちーちゃぁぁぁあぁああああうぉおおおおおぉおおッ!?」


 鍛えに鍛えた下半身、ドルフィン・キックを推進力に、自転車は走り出す。

 屋上から階段を越え、がったんがったん跳ねていく。


「痛でででででででで尻尻尻尻尻取れるぅぅぅぅうううぅうぅっっっっ!」

「あっははははははははは! たっのっしぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!」


 無理矢理に階段を下り、昇降口から飛び出して、二人乗り暴走自転車は、懐かしの坂を下る。

 それが、俺の家とは正反対の道へ曲がった時、大体の察しが付いた。


「さあ杜夫ッ! 到着までに、君は自分との向き合い方をよぉく考えておくんだよっ!」


 自転車が向かう先。

 それは、今の相楽杜夫が始まった場所。小学二年生、足しげく通い続けた場所。


 南河西城(さいじょう)病院。



     ●○◎○●



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