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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第四章(#012ー2) メテオライト・デート】
68/81

068→【岐神権現晴舞台】



     《19》



 本殿へ続く梯子を登りながら、見ていてね、とメメ子は言った。

 まず、下準備を終わらしちゃうから、と。


「聞  き   な  さぁあぁぁあああああぁぁぁぁいっ!!!!」


 水天岐神楽果堂、畏れも多き本殿から飛び出した、ファイアーボール・ミラクル☆ガール。

 今日は宗教にとってとても大事なセレモニーの日であり、本殿前には大勢の信徒が集まっていた。そして、その存在を知っていた者、知らなかった者、会ったことのある者ない者、居合わせた全員が「……は?」となる。


 そりゃあそうでございましょうとも。

 白城の言葉を参照するなら、昨日までの彼女ときたら、どこに出しても恥ずかしくない厳かな権現様を務めていらしたはずである。


「やあやあ我こそは岐神権現也! 水天岐神楽果堂、教祖征流院浄権に託宣を下せし清らかなる乙女! 惚れ直せ! 奉れ! 然る後に我が命を聴け!」


 それが突如、まるでどこぞの武士か何かというような古風かつ大仰な名乗りを上げ、大将よろしく腕を振っては、あまりに突然の方針変化に対応しきれるわけもなく、


「突然だけどっ! 私は今日で、権現やめますっ!」

「「「「えぇえぇぇえぇえぇぇぇええぇえぇえぇっっ!?」」」」


「普通のッ、女の子にッ、戻りまーーーーすっ!!!!」

「「「「はぁぁあぁぁああいいぃいぃいいいっっっっ!?」」」」


 初見かつ嵐のような引退宣言ぶちかまされては、もはや気の毒感あった。


「えー、それでですがっ! その為に私今からこの彼と、とってもとっても大切な、岐神権現最後のお仕事(ラストバトル)をしないとならないので、水天岐神楽果堂の皆さんは、これより大至急、水汲山より撤収――避難して頂きます!」


 当然、そこかしこから噴出し爆発する疑問と困惑の声。現状を受け入れられず、強く激しく拒絶しようとする意見がそれぞれに結びつき一塊になろうとしたところで、


(かぁつ)ッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」


 釣鐘を叩いたような大音声。

 俺たちに遅れ現れた男の、一喝によって散らされた。


「何をしておる皆の衆ッ! ここにおわすは掛けまくも畏き岐神権現、八年に渡り我らを導きしありがたぁ~~~~き御方にあらせられるぞ! 多少、ほんっの多少、誤差として処理できる程度の変化が、まあ見受けられなくはないかなと感じる時があるかもしれないとはいえ、その御意向、深慮を人の身風情が推し量り、あまつさえ不満や文句を訴えるなど、笑止千万、不届き千万ッ!」

「で、ですが教祖様、」

「まぁぁだわからぬか戯けものらめがぁッ!」


 乱舞する錫杖の音。怒りと悲しみを帯びた涙が、浄権の目から滝のように溢れ出す。


「先頃より始まり今も続いておるこの地鳴り、これぞ凶兆! 教祖たる拙僧にのみ告げられていた、約束の刻限訪れしことの証! 皆の衆よ、しかと聴けッ! 今日、今夜、今こそこの地で、岐神権現は、水天岐神楽果堂がこの世に現れた天命を果たそうとなされておる!」


 振り上げられた拳と言葉、導かれるようにざわめきが集約する。


「水天岐神楽果堂の、天命……!? そ、それはもしや」

「然りッ! ――――この夜を以てッ! 我らが岐神権現は、天より降る破滅の禍事(まがごと)を御手にて退け、おお、全ての力を使い尽しこの世を去られるのだ!」

「そ、そんなっ!?」


「おぉおおおぉおっ! 諸君らの痛み、わかる、わかるぞ! 拙僧こそ、岐神権現と共に世を破滅より救わんとした救世の徒にして、誰よりも救われ信仰してきた者故に! だがな、だからこそ、我らはこの時を、拒んではならない、絶望してはならない! 受け入れ、(しるべ)なき後の明日を生きねばならない! ――そうだッ! 岐神権現より賜りし、運命は自らの手で変えられるという、その希望をこそ、万年滅びぬ教えと抱いてッ!」


「「「「うぉぉおおぉおぉおおおッ! 教祖、征流院浄権様、岐神権現様ぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっっっ!」」」」


 凄まじい力技を見た。

 有無を言わせぬド迫力、息も吐かせぬ矢継ぎ早、あわや暴動・暴走の寸前まで行きかけた信者たちは、物の見事に丸め込まれ感極まって滂沱する。


「現在、山中に居る水天岐神楽果堂、全信者に伝令せよ! 総員、疾く下山されたし! 繰り返す、総員、疾く下山されたし! 放送を流せその足で見て回れ、存在するかもしれぬ部外者も見逃すな、よいか、世を救い人を救い天地万物の幸を願う岐神権現の慈愛にかけて、この夜、当山に於いて、何人たりとも不幸にすること罷りならぬと心得よッ!」


 信仰も、統率も、実に行き届いたものだった。信者たちはそれぞれのグループに分かれて動き出し、撤収と避難とを進めていく。気絶した白城、敵意を持って侵入していた相手さえ咎めなしに麓へ担ぎ運ばれていく。


 そうして、ほんの数分も経たないうちに、本堂周辺にいるのは、俺とメメ子と……教祖、浄権だけになった。


「――さて、権現様。拙僧に何か、言うことはございませんかな?」

「うん、勿論。騙していてごめんなさいね。贄守人なんて真っ赤なウソ。確かに力は取り戻せるけれど、それは、元々彼の中に預けておいたものを返してもらっただけ。私は最初から、この時が来たら水天岐神楽果堂を解体するつもりだったわ。そんなことを馬鹿正直に言ったらあなたは絶対邪魔をするだろうと思って隠していたの。許してくれる? いいわよね? これまで散々、私の御利益でうまい汁を啜らせてあげていたのだし」


 なんともしれっと、悪びれず告げられる真実と謝罪。

 浄権はそれを、なんと笑顔で受け止めた。


「許さぬ認めぬ嫌じゃ嫌じゃと駄々こねるとして、拙僧如きに貴女様をどう止めろと? 小細工期間を与えて頂けるならまだしも、土壇場で急に掌を返されてはなあ。拙僧らは権現新生祝いの準備ぐらいしかしておりませんでしたしなあ。好きになされるがよろしい」

「ふふ。ありがとう浄権、協力してくれて。意外だったわ、いざその時が来ると、あなたは何だかんだ渋るものだと思っていたのに」


「ええ、渋りますとも本来ならば。拙僧は何せ欲深、【既得権益】という言葉を日々【南無阿弥陀仏】より日々唱えておりますので。故にこそ、やってもしようのないことで金も時間も労力も無駄になるのは我慢ならない。目に見えて終わる商売に固執せず、明日の新しい儲け口を探す方に切り替えるのがいくらか建設的というもので」

「あら、相変わらずの、商売人的宗教家」

「かか、そうですな。今宵で征流院浄権も終わりというのなら――ようやく、このクソウンザリする喋り方を続けなくてもいいわけだ」


 その口調が、メメ子のようにガラリと変わる。

 そしてあろうことか、僧衣のポケットから煙草を取り出した浄権が、信者の目がないのをいいことに、堂々と一服フカし始めた。


「――ぁん? 何馬鹿面で見てやがるガキ。坊主がモクやんのが、そんなに傑作か?」


 ……いや。

 なんつうか、世の中って結構フクザツだなあって、驚いているところです。



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