067→【たとえば今日が、命日でも】
《18.9》
――――――――そうして、その日はめでたく訪れた。
彼が、始まりのスイッチであるタイムカプセルへの到達以前に飽きてしまうこともなく。
私は、私の計画が、大筋の通りうまくいったことに胸を撫で下ろしながら、しかし、目論みのもう片方、一番どうにかなって欲しかった点が宙ぶらりんなことを思い知る。
「ちょちょちょちょちょい、ままままままま待って待って待ってメメ子っ!?」
高校生になっても相変わらずな彼の手を引き、水天岐神楽果堂の信者たちを押し退けながら私は走る。こんな狭いところでは話にならない。
目指すは地上、水天岐神楽果堂、本堂。
「め、め、命日じゃないって、それ、どういうっ!」
「はあ。もう、それ聞いちゃう?」
本当は、本音を言うなら、自分でわかって欲しかった。すとんと気付いて欲しかった。
彼がここまで過ごしてきた十一回の運命の記録は、もう一人の私――【死神様】と同化したことで、共有出来ている。
「言ってたじゃあない、“前回”で」
「え、」
「あなたの大事な――私のこと、二の次にしちゃうぐらい大切な妹さんが」
喉を枯らして怒り。
眼を腫らして泣き。
そして、その死後――一年後にも宣言していた。
「がらくんが七月十九日を、どんなに【今日こそ死ぬにはもってこいの日】だと喜んでも。運命を繰り返し繰り返し繰り返すことで、最高の命日を仕立て上げても」
それを。
ずっと、言ってやりたかった。
今こそ、伝えるべき心だった。
「私は、私たちは、あなたの妹も先生も友人も――どんなに格好悪くても、あなたに、明日、生きていて欲しい。観念するのね、相楽杜夫。自分だけ満足してさよならするには、あなた、ちょっと愛されすぎよ」
だから、がらくん。
私の誰より好きな人。
八年ずっと、もう一度会いたかった人。
「これが終わったら、明日の話をしましょう。私ね、あの日からずっと、あなたと夏休みに遊びたかったの!」
夜を越えて。
朝を迎えて。
その向こうの、まだ何の足跡もついていない、ゼロ回目の日々を始めよう。
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第零章、【芽々子と杜夫】、終了。
最初の祈り→果たすべき時へ。
最終章、【メテオライト・デート】に続く。




