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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第三章(#012) 初恋告白】
57/81

057→【たのしいたのしい、もしものはなし】



     ●○◎○● 



「……え?」


 俺の口から、間抜けな声が漏れる。

 メメ子は、振り上げられた手を突き出す前に、その手に持っていた小刀を離していた。


「おや?」


 浄権のとぼけた声を聞きながら、それが畳に刺さるのを俺は見て、次の瞬間、


「へぶっっっっ!?」


 鼻っ柱に、衝撃を受けた。

 メメ子が、小刀を捨てた手をグーに握り直して、思いっきり鉄格子を殴ったからだ。


「な、な、え、な、えぇえぇぇ……?」

「――――初恋。言ってくれたわね、がらくん」

 ……ふぅ、と。

 メメ子が、溜息を吐きながら、やれやれと首を振った。


「は。なにそれ、またしても、私の勝ちだわ」

「んんん?」

「だって。私のほうが、その前から――二年生のあの日から、あなたに心底惚れているもの」

「んんんんんんんんッ!?」

「く、く、く、岐神権現んんんんっ!?」


 俺も事態に追いつけていないが、浄権以下、信者たちの驚きはそれを遥かに超えていた。


「な、な、なに、何事です、その喋り方、その態度!?」

「ああ、これ? 何を驚く必要があるの、単に演技をやめたってだけじゃない。まったく、面白いからやめなさい。いい大人がみっともない」

「お、おお、おおぉおおおぉおおおおぉおああああぁあああああっ!?」

「く、岐神権現、御乱心んんんんっ!?」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だこんなの嘘だぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ……おぉう。信仰の対象がぐらぐらとされた時、人間はこのようになってしまうのか。

 大の大人。本気の狼狽を見て俺が引いている中、再び静かに「がらくん」と呼ぶ声がある。


「ちょっと離れていなさい。危ないわよ」

「え?」

「――――ふっ」


 刹那。騒動の最中、再び拾い上げていた小刀を、一閃。

 あろうことか、それで、鉄格子を塞ぐ鍵を、彼女はあっさり壊してしまった。


「やっぱり、駄目ね。扉ごと壊すつもりでやったのだけれど、鍵しか効果が及ばないなんて」

「め、め、メメ子?」

「……いっつ、いりゅーじょーん」


 びし、とポーズを決めるゴンゲンさま。

 ざけんな、それで通るか、こんなモン……っ!


「言いたいことはあるでしょう。でもね、がらくん。やはりそれも、こちらの勝ち」

「わかった、わかったから少しぐらい説明をだな」

「いるんでしょう、()()()」」

「おうさ」


 頭越しに呼び掛けられる、奇妙な言葉に応えたのは、誰あろう。部屋から見た死角の位置、じっと状況を傍観していた、神様だった。

 てか、え?

 今、メメ子、こいつのことを、何て?


「長らく、ご苦労だったわね」

「ひひ。やめんかくすぐったい。自分自身に労われるなぞ、なーんの意味も無かろうが」

「意味のない言葉など無いわ。それを私は、彼から教わったのでしょう?」

「――ふ。さすがは本体殿、そう言われると返す言葉も無いわ」

 

 意外すぎるやり取りに、思わず口を挟む。


「本、体?」


 その顔が、くるりとこちらを見て、いたずらがばれたように苦笑する。

 それで、思い出す。というより、今まで、どうして、わからなかったのか。

 彼女は――神様は。

 その顔、その声、その姿は……。


「今日まで楽しかったぞ、モリオ」

「――メメ子、じゃん。お前も」


 小学校の頃。

 初めて会った時の、氷雨芽々子と、同じだった。


「くひ。色々と嘘をついて、すまんかったの。これにて去らばじゃ」

「か」

「はん。それにしてもおぬし、本当にお人よしよの。おまえの最期を見取りに来た、魂奪う怨敵を――結局最後の最後まで、おまえのせいで死ぬのだとか、たったの一度も恨み節を言いよらんかった」

「神様ッ!」

「達者でな。――ああいや、違うか。こんな言葉は縁起も悪い、そもそもワシの理由を間違う。……こほん、では、改めて」


 こちらを見たまま。

 俺を見守り続けてくれていた神様は、その手を、メメ子と繋ぎ。

 

「これからも、末永くよろしくね、がらくん」


 微笑みながら、その身体が光となって、氷雨芽々子の中に吸い込まれていった。


「……なんだ、今の光は」


 神様を見えていなかった水天岐神の連中が呆然と呟く。

 その中でいの一番に動いたのはやはり、メメ子を誰より信仰する男、浄権だった。


「く、岐神権現! この事態、拙僧にもわかるようご説明くだされ!」

「決まっているでしょう、そんなもの」

 

 彼女が答えた、その時だった。

 どずん、と――凄まじい、破壊的な揺れが、周囲を襲った。


「お、おお、おぉぉぉっ!? 何だこれは次から次へぇぇぇぇっ、ぶげっ!?」

 

 詰め寄っていた浄権が蹴倒される。

 ゆっくりと、まるでラスボスの威容で、岐神権現が、メメ子が、長年引きこもってきたらしい座敷牢より外に出た。


「私は岐神権現だ。人の定めを決めるモノ、不幸をもたらさんとするモノに、その境で抗うヒト。なれば、その役割は、今成すべきは、たったのひとつ――」

 

 言って。

 彼女は、

 いや、

 嘘だろう、


 相楽杜夫を引き寄せて、唇を奪った。


「――――あ、」


 ファースト、ファーストのアレと、純情が今、なんか、嵐のように。


「いっつもいっつも上から目線で、高い位置から好き勝手、我物顔で大暴れする――【宿命】様を、ブチのめしてやることでしょう?」

 

 はっと気付き、俺は現実逃避のように、引き寄せられたままスマホを確認する。

 電波は届かないが、時間はわかる。


 現在時刻、夜七時。

 相良杜夫に、死が押し寄せてくる時間。


「ねえ、がらくん」


 その表情が、懐かしい。

 小学三年生の頃、何度も見た――それで惚れた、心の底から楽しそうな、いたずらっぽい、笑顔。

 命が、輝いている表情。


「今日が、あなたの命日じゃなかったら、どうする?」



 -------------------



 第三章、【初恋告白】、中断。


 十二度目の生→継続中。


 第零章、【芽々子と杜夫】に続く。



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