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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第三章(#012) 初恋告白】
42/81

042→【氷雨芽々子の“転校”】



     《14》



 十と一回連ねた命日。

 まるで夏休みのような、楽しくて、そして、最初から終わりの決まった猶予期間。

 

 では。

 そろそろ、いよいよ、最期の一日を始めよう。



    ●○◎○●



「……なあ、兄ちゃん。それ、本当に話さなきゃダメか? こんなこと聴く時点で、答えてるみてーなモンだけどよ。多分兄ちゃんは、聞かないほうがいいと思うし、知らないほうがいいと思う。思い出だっつーんなら尚更、兄ちゃんが知ってることまでで止めといたほうが、

 ――――う。あーくそ、はいはいわかったよ、わかったから、そんな目で見んなよな! こっちがイジめてるみたいだろ!


 ただし、いいか。前置きは二つ。これはあたしが聞いてた噂ってだけで、本当のことかどーかなんてわかんねえ。そこだけ承知しておくことと、あと、ショックだろうが、歯ぁ食い縛れ。情けねー顔しやがったら、その時点で話はやめる。OK?


 OK。

 兄ちゃんが小学三年、タイムカプセルを埋めたすぐ後、夏休み明けにはもうだったよな。氷雨芽々子がいなくなったのは。


【転校】。クラスじゃあ、そう話されたんだろ?

 違う。正式な届けも手続きも、氷雨家はしてない。連絡一本寄越さずに、煙みたいに消えたんだ。

 どうしてかって? そりゃあ勿論――あいつんちが、犯罪やってたからだろう。


 それも知らねえよな? 聞いてないよな? はは、流石は武中センセー、自分のクラスん中でけしからん噂が蔓延するのを、いなくなっても自分の生徒の悪評を徹底的に防いだんだな。道理で知らなかったわけだ、当のクラスメイトだった兄ちゃんが。


 学校全体で結構情報統制布いてたんだろう。

 だが、校外じゃそうもいかなかった。

 同級生にさ、氷雨芽々子の隣の家に住んでる奴がいたんだ。そいつがベラベラ喋ってた。


 氷雨んちは、母ちゃんが身体弱くて、オヤジが最低のクズだった。

 そいつがやってたのが、インチキ霊能商法。うさんくせー偽名名乗って、ナントカ山で何年修行しただのフカして、おいそりゃただのコスプレだろって服着て、カンペキ笑えるのに雰囲気だけはバツグンで――ハッタリ効いてたせいで、結構色んな人らが騙されたんだってよ。


 ツボだの石だのを法外な値段で売り付けたり、テッキトーなアドバイスで相談料ボッタくったり。挙句は喜捨までちらつかせたりの、絵に描いたみてーな悪徳っぷり。荒稼ぎしてたみたいだぜ、順調に。

 何せあいつには、頼れる相方がいたからな。


 ……ああ。嫌なトコで勘働かすなよ、兄ちゃん。悲しくなんだろ。

 そうだよそうだよ、その通り。氷雨のオヤジは、自分の娘を演出に使ったのさ。話芸仕込んでネタ合わせて、手間暇かかった服着せて――サマ師組んでのコンビ打ちって寸法だ。


 数ってのはヤベーよな。同じこと言うにしても、二人で言ってるんじゃあ信憑性も説得力も全然違う。多いほうが一方的に「これが正しい」って断言して押し付けるとか、ンなもん判断力をブン殴ってマトモじゃなくする暴力だ。それも相手は妙な雰囲気バリバリのオッサンとコドモ、全然特徴の違う二つが声を揃えて話すのは、相当に異様で、異質で、常識の踏ん張りがきかなくなる空間だったんだろう。


 百戦錬磨の常勝無敗、向かうところ敵なしの快進撃だった。

 それまでで一番のでかい仕事で、娘と離されて調子が崩れたオヤジがしくじるまではな。


 インチキがバレた。

 礼と金を貢いできた連中が全員反転、被害者団に早変わりで集団訴訟――どころか、私刑寸前にまで行ったらしい。住所も本名もたちまち割れて、芽々子んちは【詐欺師】【死ね】【金返せ】【呪われろ】【不幸になれ】のラクガキまみれ、血走った目で張り込みしてる奴まで潜んでて、いつ死人が出てもおかしくないぐらいの状況だったってよ。


 ここまで話しゃわかるだろ。

 氷雨家は雲隠れするしかなかった。掴まるのは嫌だし死にたくねーし、自分たちが悪いんだから誰にも助けてもらえねーしで、問題全部投げ出して逃げたんだ。


 そっから先はあたしも知らない。結局それから、集団訴訟の熱がどうして冷めたのかも、氷雨芽々子とその家族がどうなったのかも。

 ――ただ。氷雨んちの隣に住んだ奴が、見たっていうんだ。その夜、夜逃げの車を。


 一台は氷雨んちの、被害者連中にボッコボコにされた外車で、もう一台は、スモークガラスを全面に張った奇妙な白塗りのバンだった。

 そんで、オヤジたちが外車に乗って、娘だけはなぜか、そのバンのほうに乗って――ナンバープレートには【北峰】って書かれてたらしい。


 今、どうしてんだろうな、氷雨芽々子。

 北峰のほうで、元気にしてんのかな。それとも――苦労したり、悔やんでんのかな、色んなこと。


 …………と。

 そんじゃあ兄ちゃん、あたし、こっちだから。

 ん、行ってきます!


 ――あ、そうだ! 今日の晩メシ、あ、あたしが作ってやっからさ! 山田のバカといつもみてーに遊んでねーで、ちゃんと七時には帰って来るよーにっ!

 これ、約束だかんな、兄ちゃんっ! いーや信用ならねー! かくなる上は、ほら、手ぇ出せ手っ!


 指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーますっ! 指切ったっ!

 にひひっ! 今日はおとなしく、明日のデートプランでも考えとくんだな! 甲斐性見せろよぽんこつ兄貴っ!」



    ●○◎○●



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