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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第二章(#011) 合コン】
33/81

033→【馬鹿と馬鹿の思い出】



     《11》



『なあ山田』

『んー?』

『おまえ、たいがいアホだよな』


 当時、小学五年生。ようやっとこの転校生の性質が分かり始めてきた頃のこと。

 放課後、向井小裏手の雑木林、奥の広場でブランコに乗り、俺はそう指摘した。

 傑作だったのは、当の本人がそれに対して、何も思い当たる節がありません、みたいな顔をしていたこと。


『モテたいモテたい人気になりたいって普段から言ってるじゃん。んで、タケセンに毎度毎度絞られてる』

『ああ。僕のほこらしき戦いの歴史だね』

『ンな必要ねえだろ』


 首を傾げるその仕草が苛立たしい、


『おまえだったらさ。むしろヘンながんばりしねえほうが、口閉じて大人しく座ってるだけでいくらでも女子は寄ってくるし、勝手に持ち上げてくれんじゃねえの』


 山田ソロモンというやつは、同じ男子から見てもレベルが違う美少年だった。

 クラス全員学校全体、地区まるごと含めたって並べた時に一番目に留まり、そして一番()()()()

【華が違う】のだ、歴然と。


『言ってることとやってることがちぐはぐだぞ。それともあれか、ふざけてやってんのか? 本当にそうなりたいんだったらさ、一番正解っぽいことやれよ』

『もちろん、いつだってそのつもりだ』


 自分は一番正解だと思うことをやっている――とか抜かすのだ。ドヤ顔で。格好付けて。

 今日も今日とてさんざっぱら怒られた。周囲にはただひたすらまたやってるよと呆れられた、クッソダサい改造体操服でのパフォーマンスで。


『確かに僕は、効率のいいやりかたを知っている。姉さんやら母さんに、頼んでもないのに叩き込まれたからね。これだから、ああこれだから女性の強い家に生まれた年の離れた末弟ってのは辛いんだ』


 はぁ、と心労の溜息を吐き、


『初めて言うけどさ杜夫、実を言えば小三ぐらいまで、僕は姉さんたちの着せ替え人形だったんだぜ。しかも着せられたのは、彼女たちのお下がりだ。それでおつかいにまで行かされた。これも女の子の気持ちを知る為の訓練だとか、この家に生まれたからには諦めろとか、あの人たちは数と年の利を生かしてもっともらしいこと言ってくれちゃってまあ……』


 これはいっそ大笑いしてやったほうがいいのだろうかと悩んだが、雰囲気があまりにも痛ましかったので空気を読んで止めた。


『そりゃなんというかご愁傷様ですというか……オヤジさんは止めなかったのか?』

『うち、父さんは僕が生まれる前に亡くなってるから。あ、これも初めてだっけ?』

『……おう、初耳だな』


『きみんとことは逆だね。はは、そのうち、もしかしたら兄弟になったりしてね?』

『うぇぇやめろやめろ冗談じゃねえ! ひっでぇカコバナした後でその持っていきかたは反則だろ!』

『ねぇ、知ってる? スカート履いて歩くのってさ……本当、足元が覚束ないんだぜ……』

『やーめーろー! おーれーがー悪かったーっ!』

『あっはははははっ!』


 俺が伸ばした手を交わすように、山田はきぃきぃとブランコを漕ぐ。


『つまり、そういうことなんだよ、杜夫』

『あ?』

『大事なのは、正しいかどうかより、どういう方法に“これでやりたい”と感じるのかだ』


 僕はね、と山田は言う。


『いくらでも演じられる、あたりまえの格好良さに惹かれてくる子より。幻滅するほど格好悪くても阿呆らしくても――人と人とは違ってもいい、おんなじじゃないのがいいって認めてくれる人を愛したい』

『…………』

『君が呆れて、他の誰もが無駄で無意味だと思っても。()()()()()こそ、僕にとっての正解なのさ。そして一応言っとくが、わざと外してるだけじゃなく、勿論、本気でこれをイカすと思ってやってるんだぞ。そこんとこヨロシク』


 勢いをつけたブランコから飛び降り、山田は改造体操服の、背中に輝く『惚』の刺繍を両親指で指し示す。

 今度は。

 今度こそ、笑うタイミングだとわかる。


『……んー。でも山田、けど実際よ』

『うん?』

『マジに数名数十名から、お前の奇行を見た上で一斉に告られたら、どうやって選ぶワケ?』


 途端。山田は時間が止まったみたいに固まって、それからダラダラと冷や汗を掻く。


『――どうしよう、杜夫?』


 これこそが結論だ。

 普段なんだかんだと言っていて、独特の哲学なんぞ持っちゃあいても、結局のところ――


 ――フランス人と日本人のハーフに生まれた絶世のイケメンにして残念な奇行を繰り返す男、山田ソロモンは。

 言動と裏腹に恋愛に対して非常に真面目で誠実で、そして何より超絶の不慣れなのだった。

 


 本当にどうしようもないド阿呆な――相楽杜夫の、世界に一人の、尊敬する悪友。

 そいつから学んだことを数多いが、中でも一番は、やっぱりこれだろう。


 どんな人間にも、自分にぴったりで、一番しっくり来る、自分だけのやりかたがある。


 自らをそう認めたあいつの、それはそれは楽しそうな顔を、揺るがなさに感じた憧れを、俺は今でも覚えている。

 何があっても。

 何度死んでも、忘れない。



    ●○◎○●



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