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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第二章(#011) 合コン】
30/81

030→【大銀河流星丸の大活躍】



「か、カバちゃん、それで、現場は?」

『大混乱っすよ! 桜庭も泡食ってます! 本来中高生との差を見せつけて悠々と人気の青田刈りしていく奴らが、今回はそいつにイイトコ全部掻っ攫われてるんですから! 正午の開始からこっち、もう初っ端から雰囲気支配してるっつーかんじで! ホスト側が一般参加者に負けるなんて、ありえねーっすよSetsunaのイベントで! そんで、そいつさっき、【見込みがある】とかって言われて、一人だけ裏に連れてかれて――』

「な、何それ!? もう、何してるのカバちゃん、何の為に潜入捜査でスタッフに紛れ込ませたと思ってるのっ! そういう無茶の証拠を押さえる為でしょっ! 早く、この際調査がバレてもいいからそいつらを追って、」


『……あ、いや。その必要、ないですね、多分』

「え!? ど、どういうこと!?」

『なんっかすっげー意気投合してます。特に、ああ、ありゃあ多分、Setsunaの女性メンバー、懐柔してるっすね……男どもは複雑な感じっぽいですけど、すぐにどうこう、リンチとか追い出されたりとかはなさそうです。今、合コン会場に戻されました。引き続き、こっちも状況の確認を続けます』

「――――あ、え、ええ、うん、わかったよ。了解カバちゃん、ありがとね」


 通話が切れた。

 シャルロットさんは複雑な顔でスマホを見下ろす。


「……あんなに、ぼくや姉さんが叩き込んだ【異性攻略法(ノーブルマナー)】を、絶対使うものかって嫌悪してたあの子が、解禁したってこと? こだわりより、優先するものが、あったって……?」


 彼女は呟いて、顔をあげる。

 悩ましげな目が、俺を見る。


「あなたなの、サトちゃん?」

「…………山田」


 思い出す、別れ際の台詞。


『君の話は、君の態度は、君が計画した目論見は、一切食指をそそられないけど――うん。これに参加してみることだけは、面白そうだ』


「……………………馬鹿野郎。せめて、俺に見えるところで格好つけろ」

「はぶっっっっっっっっ!」


 狙撃でもされたのかと思った。

 そんなタイミングで、前触れも無く、突然に、シャルロットさんが鼻血を吹いた。


「や、や、やられたよ、サトちゃん……このタイミング、その表情、喜びとむず痒さの憂いを帯びた表情、悩ましい苛立ちの呟き……脳に来た……あかんやん……こんなんあかんやん……これだから、これだから君たちの関係は最高なのよね……バディものマジ尊いマジ清い……フフ、ウフフフフフフ…………」

「すいません、友達の姉にこういうのもなんですが、怖いです」

「褒め言葉ね……愛とは時に、狂気を孕んで咲くものだから……大丈夫大丈夫、イエス腐れ目・ノータッチもまたぼくの誓約だから……美しき愛を観測する者にして守る者こそ、山田シャルロットなのだよ……」


 はぁはぁとおしぼりで鼻血を吹いて、深呼吸、


「ぼくの負けだ」


 コツン、と。

 その指先が、何気なく、テーブルを打った。

 瞬間、反応は劇的に。


「感動にはおひねりを。あんないいものを見せてもらって、見物料を払わないわけにはいかないね」


 喫茶店のテラス席、他のテーブルに座る、計十六名の大学生が――いつでも行動を起こせるように、腰を上げた。

 一糸乱れぬ統率、鮮やかに過ぎる連帯。それまで一切不自然なく、自分たちの会話を繰り広げていた面々が、その合図だけで、一斉に所属を切り替えた。

 集まる視線に、彼女はひらひらと手を振り笑顔を贈る。周囲から、昇天しているような吐息が漏れる。


「……相変わらず。慕われてますね、シャルロットさん」

「うんっ。ほーんとっ、みんなとってもやさしくてー、すっごく気が利くファンなんだっ☆」


 十六名は、それぞれ様々だ。性別も年齢も、外見と持ち合わせている道具から察するに、学科もサークルも異なる。その上、彼らは今、あらかじめここで待機していたわけでもない。

 単にこの状況は、先に居たり後から来たり、たまたまこの場・この状況に居合わせた全員が、彼女のシンパであったに過ぎない。


「自分でこんなこと言うとー、調子に乗ってるって思われちゃいそうだけどー……ボク、まるでヒロインみたいだよねっ! きゃはっ☆」


 長女が一代で自分を頂点とする城を築いた女王なら――次女はその愛くるしさで、自分を中心とする円陣を広げた姫様だ。

 こと、南河白鳥芸術大学の敷地内で。所属しているコミュニティの内側で。

 彼女は何処へ行こうとも、讃え、褒められ、行動全て肯定されて囃される。


 それが山田シャルロット。

 南河市の、大学生以下若者たちの事情とブーム、その動向に精通する、何とも将来恐ろしき――花束纏う芸大の姫。


「告白するけどね。この町の若者で、とても健全とは言えない愛の構築をしている連中が鬱陶しくて、これまでこっそりSetsunaと金業を……ややこしいな、うん、便宜的に【桜庭組織】と呼ぼう。奴らをぼくらは、どうにかしようと内偵してきた。Setsunaには、カバちゃんたちウチの学生も何人か所属しているし、金業の中にも、内偵用のダミー不良グループ【虎虎(とらとら)】が、今日の大集会にも顔を出す手筈だね」

「皆さんは、それだけ情報に通じていると」

「プラス、人手だ。【桜庭組織】の侵食は、大学生(ぼくたち)にとっても他人事じゃない。君に何か策があるのなら――妹さんの救出に、差し当たってはこの十六名が手を貸すよ、高校生」


 一人で始めた無茶苦茶から辿り着いた、望むべくもない協力――急激に差し手の幅が広がった途方もない感覚、高揚感。

 それらに、浮つかず、見失わず。


 今、この日、七月十九日に――

 ――【前回】。

 あの最悪に至らない為に、必要なものを見定める。


「シャルロットさん」

「なんだね、サトちゃん」

「金業に紛れている人たちに、聴いてみてください。【ロクマン】と呼ばれる隠れ家の情報について。おそらくはそれは――市内の高級マンションにあると思います。そこを見つけて調べることが、【桜庭組織】一網打尽の鍵になる」

「りょーかい。それはまだ、ぼくらが得ていなかった情報だね。金業はそもそもが信用のおけない連中の集まりで、ならばそこは功績を果たして認められた手合いか、素行を確認された古株じゃないと利用できない場所なんだろう。新参で小規模な【虎虎】じゃあ知れなかったわけだ。その情報だけでも、大きな前進だよ。……しかし、なんて目をするのかなあ、きみは」


 まるで肉親の仇でも目の当たりにした幽霊の顔だ、とシャルロットさんは言った。

 ああ、間違いじゃない。

 手も足も出せず、一年後の妹の苦悩を見ているしかなかった画面の向こうの退場者など、そう呼ぶしかないだろう。



    ●○◎○●



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