026→【手を組めお兄ちゃんズ】
「やあ、災難でしたね。こっちも連中が戻る前にトンズラしますか。大集会はともかく、Setsunaの一斉摘発とか警察と組んでるなんて口から出まかせすぐバレますから。そもそもSetsunaが、不良グループの集合体である金業を、完全に解体させることなんてありえないし。そんなことをすれば、役目も価値も、減っちまう」
フローラさんにもらった、金業エンブレムが付いたサマージャケットを脱ぐ。こちらは偽造ではない本物らしいが、あいにく彼女の筋でも顔写真入りのクラスタIDは急には複製できなかったらしい。まあそこはそれ、無いものは案外、度胸と機転で埋められる。
思わぬ寄り道だったが、意図せぬ収穫だ。Setsunaと金業の関係は、下部の連中には知らされていないこと――【ロクマン】と呼ばれる隠れ家の存在を知れたのも大きい。
「き……君は、何なんだ?」
小物的闖入者の変貌に、お兄さんから当然の質問入りました。
んー、どう説明したものか。
「通りすがりの悪戯好き、ってとこで。南河には観光か何かで来たんでしょうけど、注意したほうがいいですよ。人生、いつどこでどんなふうに命日になるかわかりませんから」
では、こっちの事情に戻るとしよう。
「んじゃ」と広場から去ろうとしたところで、「あのッ!」と縋りつかれてつんのめった。
「う、わったぁっ!? な、な、な、なんですか、危ないなあ!?」
「あなた、この町の人なんですよね!」
「ああ、はあ、まあ、はい、そうですけど」
「Setsunaという人たちにも詳しいとお見受けしました! でしたら、知りませんでしょうか! 今日この町のどこかで、ご、ご、ゴウコン? なる不埒な催しが行われると聞きました! そこに参加している妹を連れて帰るため、私、県北からはるばる来たのですッ!」
どう振り切ろう、逃げ出そう――そう考えていた頭が、止まる。
「――妹が、合コン?」
「ああ、ああ、私はそんな不埒なもの君にはまだ早いよと止めたのですがッ! 朝になったらもう、部屋も布団ももぬけのカラでぇぇええっ!」
あうあうあわわ、と涙目に語り、
「私、妹のことは元より、Setsunaとかいう常識知らずの寄り合いに乗り込み、もう、ガツンと言ってやらねば気が済みません! お願いです! 佐藤様! お礼は致しますので、そこに御案内しては頂けませんでしょうかッ! このとーり! このっとーーーーりっ!」
彼は躊躇なく、路地のどん詰まりの広場の、汚い地面で頭を擦る。
目の前に、再び、レールを幻視する。別れた順路、選べるのはどちらか一つ。
その基準となるのは、この人の、【他に頼れるものがいない】という逼迫と、【この目的だけは諦められない】という意志の光。
――ああもう、俺ってやつは、どうしてこう……。
「……申し訳ありませんけど。俺はSetsunaのメンバーでもないので、そんなところは知りません。ですが」
「ですがぁ!?」
食い気味に来られ、思わず仰け反る。
「これからある知り合いに話を聞きに行くところでして。彼女、Setsunaに所属している友人も多いという話なので――多分、有益な情報を得られるのではないかと」
「ぅありがとうございますッ! その場に同行させて下さるということですねッ!」
気は乗らないが、躊躇は済ませた。
「そういうことです」と俺が頷けば、彼は表情に感謝と力を漲らせる。
「白城哉彦と申しますッ! 北峰大大学院民俗文化研究学科で日夜土と歴史を弄りて学ぶ二十四歳こそが私です! それではいざ参りましょう、佐藤さんッ! 刹那主義の者共巣食う、怠惰なる悪の巣窟へッ!」
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