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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第二章(#011) 合コン】
24/81

024→【最少手数未練解体】



    ●○◎○●



「――ふう。よし、あの気難し屋にアポが取れたぞ、杜夫くん場所は構内、行きつけのカフェのテラス席。午後一時丁度までに来なければ、その時点で引き上げるとさ。大丈夫か?」

「はい。フローラさん、本当にありがとうございます。何から何までお世話になって」

「私の人生哲学、【イイ女を目指す】という矜持に則ったまでさ。ただ、そうだねえ。もしも感謝の気持ちがあるのなら――ソロモンに、『きみのお姉ちゃんはとっても親切でセクシーで羨ましいね!』と伝えてくれたまえ」


「あはは。それならもう、初めてあなたと会った時に伝えましたよ、フローラさん。あいつ、口ではなんだかんだ言いながらも、結構誇らしげでした」

「……よぉし。今日の写メは、ちょっとがんばって送っちゃおうかな、お姉ちゃん」


 情報を貰い、細工を仕掛け、手筈を確認して、店を出る。

 南河駅北口方面、真昼の繁華街は、ピーク時ほどではないにせよそれなりの往来があった。

 スマホで確認すれば、【10:58】の表示。


 ――そろそろだ。避けては通れない、回り道の時間。

 登録していた番号を呼び出し、落ち着くように深呼吸した。


「もしもし? どうも武中先生。お世話になっております、卒業生の、はい、杜夫です! 相楽杜夫! お馴染みヤマモリコンビの! ……ちょっとちょっと、やめてくださいよぉう! そぉんなんじゃないですって、俺だってあれからちゃあんと成長してるんですから!」


 十回もの死に直し。

 その途中で溜まった未練を、俺は毎回消化に務める。


 それぞれ本来一日がかり、一回の死に直しを丸ごと費やして解決できる類の手強い問題で、あっちもこっちも同時には捌けない……しかし。

 ちょっぴり反則(チート)な詰め込み方に、四回目で気がついた。


「それでですね。今日は少し、差し迫ったお願いがありまして。あらかじめ前置きしますが、冗談でも、悪戯でも、楽しい話でもありません、すみません。

 ……この後、十一時五分。裏門から入って、東校舎の、図工室資料倉庫の窓から、千波岬ちゃんが校内に侵入します」


 命日丸々費やして攻略を実体験し、解決すべき問題の構造・原因・解決方法を把握した後でのみ可能となる効率化、【最少手数未練解体ショートカットソリューション】。


 たとえば。

 ちーちゃん飛び降り未遂事件に関しては、こう。

 重要なのはこの電話で、事前の連絡では効果が薄い。

 直前のタイミングだからこそ、切迫があり、強度がある。


「目的は、自殺――の、フリです。今回は未遂ですが、重要なのは()()じゃあない」


 前回。

 俺と一緒にタイムカプセルを掘り出しながら、ちーちゃんはぎこちなくも、笑い話のように語ってくれた。俺と友達になって、少しでも、立ち向かう力を取り戻してくれていた。


「千波ちゃんは今、所属しているスイミングスクールで、成績の優秀さからいじめを受けています。ええ、間違いありません。武中先生も知ってるでしょ。俺、一応あそこのOBですよ。喘息が辛かった小学生のころの話ですけれど。この前、ふと思い立って、そういえばウチのスクールにあの有名な後輩がいるんだっけって見学に行って、その時現場を見ちまったんです」


 けれど、今回。

 これから正に校内に侵入しようとしている千波岬はまだ、自分を取り巻く孤独と排斥をはね退けられずに喘いでいる。


「まったく巧妙だ。千波ちゃんはね、武中先生。スイミングスクールのグループのSNSの中でだけ、徹底的に攻撃されていたんです。なのに、スクールに行く度に、皆はそんなことがなかったかのように振る舞う。親しげに、友達みたいに笑う。誰もが匿名で暴言を吐き、追い詰めておきながら、そんなのまるで夢だったみたいに」


 画面を見せてもらった。

 ……それで合点もいった。あの時どうして、何故、山田のスマートフォンに、一種苛烈とも取れる敵意を見せたのかも。


「人は、笑顔の下で人を裏切る。その事実を刻み付けられた彼女は、もう、誰にもこれを相談出来なかった」


 いつの間にか、プールに入るのが怖くなったと、彼女は言った。

【楽しいこと】を。

【一時の楽しさを味わうほど、後の苦しさが重くなる】としか感じられなくなった。


 ――それでも。


「それでも、まだ、手遅れじゃない」


 彼女が、笛の音で飛び込むように躊躇無く、屋上の柵の、その向こうに落ちない限りは。


「これはSOSだ。誰も信じられなくても、何が味方かわからなくても、それでも千波ちゃんは、助けて欲しいと願っている。まだ生きたいと、本当は感じている。それを、支えてあげてください、武中先生。……母さんが亡くなって、どうしようもなく落ち込んでいた時の俺みたいに。まずは――慰めるより先に、叱ってください」


 たとえば、人伝に。

 同僚の先生から、千波岬を受け持つ担任から任せられた【武中先生】ならば、その面子や、様々な事情を慮って、優しく、包み込むように助けるだろう。


 けれど。

 直接自分が役割を得た全力のタケセンなら――まず、叱って、それから、抱き締める。


「いいですか。くれぐれも、甘えたい年頃だとか、辛いことがあったからだなんて、そういうふうに油断しないこと。今だって弱ってこそいても根っこのところは彼女、自分を追い詰めた連中に反撃してやるぞ、ってぐらいに思ってるんですから」


 その光景はもう無い。

 その関係は何処(いずこ)へと。

 日差しの中で、二人話した。

 友達として、夢を語った。


 それをする相手は、是正される。

 こんな、今日には死ぬ誰かではなく。夢を叶えたその未来で、笑いながら報告出来る恩師になる。

 それはとても、幸せで、正しいことだ。


「叱って、撫でて、慰めて――その後は、そうだな。今のあの子に必要なのは、『明日には、どんな楽しいことがあるだろう』って期待が出来る希望ですから――一緒に、タイムカプセルでも埋めてやってくださいな」

『杜夫』


 神妙な声。

 卒業式でも、聞かなかった声。


「はい」

『ありがとう。任せてくれ』

「ありがとうございます。ちーちゃんを、お任せさせて頂きます」


 電話は切れて、深く、深く、胸に詰まった息を吐く。

 この委託の結果が、どう出るか――夕方か夜か、それを知れる余裕があればいい。

 十一回目の俺には、今こちらで、解決しなければならないことが、この時も、止まることなく進んでいる。


「――おっし。行くか」


 目的地への移動を再開、繁華街を歩きながら、フローラさんから得た情報を纏めたメモを確認する。

 それだけで、先程の胸糞悪さが戻ってくる。


「……ああ、そうだ」


 最低で最悪の既視感。

【Setsuna】の手口、【輝きの裏側】――その“使い分け”は、


「そっくりなんだ。ちーちゃんのケースと」


 しらばっくれの自作自演。彼女を苦しめながら、落ち込んでいる彼女を慰めるように振る舞うことで、自分たちの評価を上げようとしていた、スイミングスクールの連中。

 それと、同じことが、南河市――いや、Setsunaが活動する地域では起きている。


 Setsunaが、【真っ当に活動し、ボランティアなども通じて称賛を受ける人気者グループ】である一方――その正反対と言える、【“正しいこと”に馴染めず、素行不良なはみ出し者たちのチーム】が勢力を増しながら対立し。Setsunaはそれに対する班も立ち上げ、その治安維持、自警めいた活動で、また更に支持を集めた。

 その二つが、ちーちゃんの件と同じく、コインの表裏とするならば――


「――あ、」


 信号待ちの横断歩道で、嫌なものが目に入る。

 見るからに頼りない、また土地に不慣れな感じが丸出しな様子で、何かを探しているように、地元の奴なら誰もが避ける路地に入っていく男と、その後を追う、同じデザインのエンブレムをどこかしらに縫い付けた、派手に髪を脱色した三人組。


「……火を見るより、だよなあ、これ」


 さて。

 十一回目の現在、ただでさえ作業量(タスク)は既にギッチギチなのに。

 相楽杜夫はこれ以上、厄介な事情を抱え込んでいいものだろうか?


「うう……時間もやばいんだけどなあ……」


 考える間は一呼吸分。

 抱え直した鞄の重みが、ずしりと肩に食い込んだ。 



    ●○◎○●



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