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メメントモリオ!!!!  作者: 殻半ひよこ
【第二章(#011) 合コン】
18/81

018→【兄妹ゲンカ】



     《6》


 まだるっこしく見えようと、止むを得ない回り道というものがある。

 それはたとえば【初恋の相手に告白するには、その情報を握る相手と穏便な関係を気付くことが必須となる】ということであり……同時に、今現在の俺の格好のことを指す。


「…………はぁ?」


 朝イチの呆れ顔。心底訳が分からない、という意思表示を、まじまじと見る。

 外見(みため)のパラメーターに時間も労力も振ることを嫌がるそいつは、服装のみならず身だしなみも、女子として必要最低限(ギリギリライン)のことしかしない。

 小学校の頃から、その髪型だってまったく変わっちゃいない――首元にかかるのも嫌がり、月に一度いきつけの床屋(せんえんカット)で切った髪をわしゃわしゃと手で適当に整えた、野性味(ワイルド)さより子供感溢れるヘア・セット。


「残念だわ。身内じゃなかったら心置きなく爆笑できんのによ」


 人に懐かず牙を剥く、小猫のような敵愾心。

 だがしかし侮るなかれ。ミニマムな身体と内に秘めるパワーは、ぞっとするほど一致しない。


「オイ。こいつはどういう冗談だ?」

「知ってるだろ、真尋。お前の兄貴は、冗談に見える時ほど本気だよ」


 正座の姿勢から立ち上がる。傍らの竹刀を手に取り、面・小手・胴、稽古着に垂に袴――剣道具足に身を固めた相楽杜夫が、今、獣の前途に立ち塞がる。


「きゃぁあ、おっかなーい」


 真尋は馬鹿にするようにへらへらと笑い、肩に下げていた鞄を下ろし、


「朝から立派っつーか、朝だから元気ってか? 何サカってんだこのサルは。ガチガチにいきり立った先っちょ、妹相手に恥ずかしげもなく、ぶらぶら揺らして突き付けてくれちゃって。なんだかわかんねーんだけど、そんなにあたしとヤリてーの、兄貴?」

「俺も出来れば、乱暴な真似はしたくない。お前がひとつ、頼みさえ聞いてくれれば」

「スカートでもめくってみせろって?」

「今日一日は家から出るな。俺の望みはそれだけだ。残念だが、嫌だって言われても、」

()()()


 接近は、音も、時間も、気配も欠いて。

 気が付けばもう、そこにいた。


「おら、何呆けてんだ。腰動かせよ――振れば届くぞ?」


 咄嗟。

 壁に沿うほど近く、片側を潰し左から踏み込んできた真尋の向かって右、逆胴を薙ぐ。

 それが無様で、振る前から自嘲した。

 腰も力も速度も覚悟も何一つ足りない。


「おっそ。経験不足、見え見えだわ」


 互いの身長差すらろくに意識できていない薙ぎ払いなど、こちらの初動よりさらに早く、煽ることで行動を促した真尋の、床が抜けたような(しゃが)みに対応出来ない。

 

「ほいっと」


 次の瞬間には、顔面から玄関の段差にぶつかっていた。

 竹刀をかわし、手で床を打つ反動で跳ぶように立ち上がった真尋の、体操選手じみて高々と伸ばした足で首を刈られたのだ。

 腿を鉤にして首へ引っ掛け、そのまま前方へと引き倒されたことを、倒された後で知る。

 

 ……流石は相楽真尋。

 全国中学生空手道選手権大会、女子個人組手、二年連続ベスト3。

 すごい師範の指導受けてるとか聞いたけど、今の技、空手の動きですらねえよね?


「あーあ、だーいじょーぉぶー? カッコ悪ぅ、せめて受け身ぐらいは取るもんだと思ってたのになー。防具つけてりゃケガしないとか、発想が甘すぎんだよなー」


 鞄を拾い、ご丁寧に背中を足蹴に、文字通りに踏み越えられた。

 ケタケタと笑いながら、真尋は玄関のチェーンを外す。


「ったく、最低の気分。朝からキモいモン見せてくれんじゃねえよ。アンタとあたしの実力差が、三倍程度と思ったワケ?」

「――――真尋、」

「んじゃーな。あたしを喜ばせたかったら、次は別のアプローチで」

「妙な集まりになんて、行くな。あいつらは、おまえの」


 それ以上続けられなかった。真尋は反転し、俺の尻を思い切りスニーカーで蹴り付ける。


「死ねッ! ヒトの部屋、勝手に入りやがったなッ! 何見やがったクソクズ兄貴ッ! 覚えてろよ、コロすからな! 帰ってきたら絶対ボコボコにしてやっから!」


 本気の軽蔑、全力の侮蔑を倒れたままの兄に浴びせて、最後、手加減無しのローキックをもう一発放ち、玄関をぶっ壊れそうな勢いで閉めて真尋は出ていった。

 止められなかった。

 この後、どういうことがあいつを待つか、わかっていながら。


「……貴重な情報、ごちそうさん」


 ――――――――さて。

 ここまでは、予定通り。


「勝手に入りやがったな、ねえ。つまり――連中のヒント、今日のけしからんイベントの尻尾(てがかり)が、おまえの部屋に残ってるってことだよな、真尋」


 元からそれが本当の狙い。だらしない兄貴じゃ、妹を力ずくでさえ止められない。

 選んでいたのは次善策。たとえこっぴどくのされても、俺はこうして、“この後”に必要なものを、手に入れた。



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