014→【かくてユウジョウはホウカイす】
え。
え。
え。
なに?
今、俺、なに見た?
「あ、そっか。なんだ夢か。そっちの夢ね。びびらせんじゃないよ。改めて、オープンッ!」
『 ぼくの夢は、めめ子ちゃんと 』
「゜アッ。現実」
馬鹿じゃないの!
馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの!
何やってんのマジで過去の俺、向井小学校三ねん二くみさがらもりおくん(当時九歳)!?
頭がどうバグってたら、画用紙にデカデカと愛の告白ブッちぎった結婚宣言したためて、容器のフタの裏側に貼り付けようとかの発想に至れちゃうわけぇぇえええぇええええっ!?
「ッテーイ」
決して直視せぬようにしつつフタ裏の画用紙を電光石火で剥がし再びフタを閉じる。
「――ッヨシ、終了、目的達成、そんじゃあ元通りにしよっか?」
無慈悲なる現実が極めて冷酷に望みを絶つ。
「私の用事が、まだ済んでいませんが」
「っあ、ああそうね、そうだったわよね? そんじゃあ俺アッチ向いてるからパパっと」
「何言ってるんですか。見ましょうよ。見てくださいよ。あなたが誘ったんじゃあないですか、もりおにーさん。ほら、ほらほら、ほらぁっ!」
恐れなき直進、開かれる箱、ごそごそとまさぐる手。
「ッァ! やめてやめて、やめてちーちゃんッ! だめっ、それだめっ! バレちゃうッ! そんな乱暴にしたらぁっ……! あ、後で箱開けられた時、俺がズルして先に開けてたのがクラスメイトにバレちゃうからあっ!!!!」
「洒落くせえっ! 何を今更恥じらっていやがるんですかあんなもんフタに貼ってた恥知らずがッ!」
「んひぃっ! い、言わないでぇっ!」
「いやあ見せつけてくれましたねえ! 子供ってものすっごいですねえ! あんなにも素直に真っ直ぐに自分の気持ちが書けちゃうなんて、大胆さは若さの特権だなーっ!」
「ち、ち、ちーちゃん、なんか、もしかしてだけど、怒ってない!?」
「おぉぉこるぅ!? 私が! どうして! 怒らないとならないんですかぁ!? 誰にでも簡単に軽率なことを言うだけのなんぱものにぃ!? 笑えますねえその誤解、あははははッ!」
「ち、ち、違うッ! 俺が見たかった君の笑顔はそういう奴じゃないッ!」
「知りますかぁそんなことぉ! 私は私の笑いたいように笑うし思ったことやりたいことをするんですよぉッ! ――――ほおおぉおらあったぁあぁああああッ!」
宣言と共に、タイムカプセルを掻き混ぜていた腕が、茜空を突き破らんかの如く掲げられる。
その手に握られているのは球形のカプセルで、その表面に書かれた名前は……。
「やっぱり、同じクラスだったようですねぇ、『めめ子』さんとやらはッ! さあ、ではではこれより御開帳と参りましょうッ! この人が、九歳の時、どんな恥ずかしい願いを未来に託したのかをねぇぇええぇぇええっ!」
「 お い 」
地獄から来た声かと思った。
鬼が亡者に向けるものだと。
「特大の目覚ましありがとう。どうもおはよう。そして、何やっとるんだ、おまえら」
その時。
俺とちーちゃんの、何の因果か突然すれ違ってしまった心は、再びひとつとなった。
振り返った先には、血のように怒りのように炎のように、情熱で染まった赤ジャージ。
「『自分の分を出すだけだから絶対ぜったい約束ですから』と、よくぬけぬけ言ったな杜夫。『私がちゃんと見張りますから先生はおやすみください』と、信じて任せたんだがな、岬」
合図も打ち合わせもいらない。
俺とちーちゃんは、今もっとも伝えねばならない言葉を、完璧なシンクロで出力した。
「「ちゃうんよ」」
「この大馬鹿とド阿呆がーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
なるほど、思い出した。俺と山田の時もそうだった。
二人の生徒を同時に叱る為に、教師の腕は二本ある。
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