ホームは走る
今日も疲れた。。
残業疲れで今にも崩れ落ちてしまいそうな体を引きずるように
ホームへと歩いていく
早く寝て、明日に備えないと
そして明日もまた働いて
いけない、これ以上考えると鬱になりそうだ
頭の隅で誰かが言う
まるで生きながら死んでいるね
と
自分が永遠に続く深い深い穴に落ちていくような考えを無理やりそこで切り上げた
出ないと今すぐにでも今まで積み上げて来た自分というものが
子供が積み木の城を壊すが如く簡単に崩壊してしまうと思った
ホームに上がるといくらかその暗くべったりと纏わり付いていた考えも晴れた
満点の星空が広がっていた
ホームはもう随分古いもので
三、四人分のプラスチックで出来た冷たくて硬い椅子と
その上のを覆うほどしかない日差し
それから一台
もう随分前から年中クリスマス仕様のコカコーラ社の自動販売機があるばかりだった
ふぅ
ひといき入れようと今買ったばかりの缶コーヒーを半分ほど一気に飲んだ
あと次の電車まで15分ほど時間がある
ベンチで少し休もう
ベンチが冷たかった
少し寝よう、、
うつら、うつら、し始めた
そのときだった
ピリリリリリリリリリリリリリリリリ....
電車の発車ベルだ
しまった、乗り遅れる!
そう思ってカバンを抱えて半歩踏み出したところで違和感を覚えた
目の前にはまだ電車は来ていなかった
先に行ったかとも思ったが
見渡す限りどこにもその気配はない
おかしい。なにかの間違いだろうか
そう思って腰を下ろした瞬間
おろしたはずの腰が上へ飛んだ
?!
ドスンと着地した尻がこれは夢ではないことを物語る
落ち着いて周りを見ると衝撃が走った
景色が動き始めていた
まるで発車し始めたばかりの電車のように
うわあ、
慌てて階段の方に駆けていくと
まるでスペースシャトルみたいに
綺麗に切り離されていた
もうとりあえず落ち着こう。落ち着くんだ。
そう自分に言い聞かせ
深呼吸をした
そして大の字にホームに寝転んだ
どうせ誰もいやしない。
満点の星空が広がっていた
それを見ているうちに
今起こっているとんでもない状況を受け入れられてきた
むしろ楽しむ気さえ出てきてしまっていた
がたん ごとん がたん ごとん
ホームがまるで電車のように線路を走り出す
その姿はなんだか楽しそうであった
普段じっと駅でどっかり腰を下ろして人を迎え続けているホームにも
こんなお茶目な面があったのか
ああ、このままずっとずっとこうしていたい
満天の空の下
線路を走るホームに乗って
夏の終わりの夜に突進して
秋虫の大合唱が歓迎してくれている
今日はそんな日だった