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野良猫  作者: 天音光人
2/8

2.猫に名前を付ける

 次の日の夜、おれはまた仕事帰りに鶏の唐揚げを買って、公園に立ち寄った。今度は缶ビールも持ってきた。まあ、正確にはビールではなく発泡酒だが。

 ベンチに座って唐揚げを食べようとすると、猫はのっそりとやってきて、にゃあ、と鳴いた。

「ほら、約束通り唐揚げをもってきてやったぞ」

肉をちぎって鼻先へ差し出すと、むしゃむしゃと食べた。頭をそっと撫でてやると、猫は顔を上げてまたニヤリと笑ったような気がした。

 おれも唐揚げをつまみにしながら、ビールを飲んだ。夜八時ともなると、公園の中には誰もいない。ときおり、隣接する道路を人や車が通り過ぎていくだけだ。

「なあ、野良猫の生活は楽しいか?」

そう尋ねると、猫はおれの方を見て、ちょっと首をかしげる仕草をして一声、にゃあ、と鳴いた。まあまあ、というぐらいだろうとおれは解釈した。野良生活もそれなりに大変なこともあるのだろう。

「明日は土曜日で休みだから、明るいうちに来てやるよ」

唐揚げを食べ終わると、そう言って別れを告げた。すると猫はまたゆっくりと植え込みの影に消えていった。


 翌日は午後三時頃に公園へ行った。土曜日で天気もよかったためか人が多かった。スーパーの唐揚げもその時間はまだ値引きされていなかったので、定価で買ってきた。

 昨日座ったベンチはたまたま空いていた。近くでは子どもたちが騒々しく遊んでいる。おれは唐揚げを取り出して食べ始めた。しかし猫は来なかった。やはり人が多いと出てこないのだろうか。結局、一時間ほど待ってアパートに戻ることにしたが、なんとなく寂しかった。

 夜の八時頃に、おれは再び公園へ行ってみた。この時間帯は人はいない。ベンチに座って唐揚げを食べていると、猫はやってきた。おれはほっとした。

「昼間はいつもこのへんにはいないのか?」

猫は、にゃあ、と鳴いた。どうやらそうらしい。昼の残りの唐揚げをやると、猫はまたうまそうに食べた。

「おまえには彼女はいるのか?」

我ながら変な質問だとは思ったが、猫はぷるぷると首を二度ほど横に振った。

「そうか、おれと同じだな」

おれはこの猫にますます愛着を感じるようになった。

「そうだ、おまえに名前を付けてやろう。カラアゲというのはどうだ?」

猫は首を横に振った。

「たしかにカラアゲという名前はあんまりだな。じゃあ、カラーでどうだ?」

今度は猫は、にゃあ、と鳴いた。これで名前はカラーに決定した。

「じゃあな、カラー。明日の日曜は、夜に来てやるよ」

おれがそう言うと、猫はまたゆったりした足取りで帰って行った。


 翌日は夕方から雨が降りだした。雨のときはカラーはどうしているのだろうと、少し心配になった。

 八時になったので、傘を差して公園へ行ってみた。いつものベンチの横に立って、唐揚げをかじりながらしばらく待ったが、カラーは現れなかった。やはりどこかで雨宿りでもしているのだろう。

 しかたなくアパートに戻ったが、カラーのことが気になって、なかなか眠れなかった。いっそのこと、この部屋で飼ってやろうかとも考えたが、大家に見つかるとまずいし、それにカラーも狭い部屋に閉じ込められているよりは、外で自由に野良生活を楽しみたいだろうと思った。おれはますます孤独を感じた。

 明日からまた一週間が始まる。会社にも行きたくないが、どうせ近いうちにリストラを宣告されるのだろう。それまではなんとかがんばろう。問題はそのあとどうするかだが、そうなったらおれもカラーと一緒にホームレス生活をしようか、などと考えながら眠りについたのだった。

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