1.奇妙な猫との出会い
公園で一匹の奇妙な野良猫と知り合った。
その夜、おれは仕事帰りに駅前のスーパーで値引きシールの貼られた総菜を買い込み、レジ袋に入れて手に持ちながら、重い足取りでアパートまでの道を歩いていた。空も曇っていて、星一つ見えない寂しい夜だった
気分もいっそう落ち込んできて、途中で歩く気力すらなくなったので、近くにあった誰もいない公園に入った。街灯に照らされたベンチの上に腰掛けると、急に空腹を感じたので、買ったばかりのコロッケをレジ袋から取り出し、一口かじってみた。もうすっかり冷めていて味気なかった。売れ残りを半額で買ったのだから、しかたない。
それでも、このコロッケは半額とはいえ、少なくとも買ってもらえたのだ。値引きしても売れなかったコロッケは、誰にも食べられることなく、捨てられてしまうのだろう。まるでこのおれのようだ。
その日おれは会社で課長に呼ばれ、近いうちにリストラされるかもしれないと言われたのだった。会社の経営も順調ではなく、規模を縮小しているらしい。おれは営業成績でも最下位だし、会社のお荷物になっているのだから、やむを得ない。それに自分でもこの仕事が向いていないのは、よくわかっている。だが、何の資格も特技もキャリアもないアラフォー男を、いまさらどこが雇ってくれるだろうか。
これから誰もいないアパートの部屋に帰っても、一人寂しくビールでも飲むしかない。いや、正確には発泡酒である。ちゃんとしたビールは高くて買えないのだ。妻かガールフレンドでも待っていてくれるのなら、もう少しは生き甲斐もあるだろうが、おれはいまだに女と付き合ったこともない。せめて一緒に酒を飲む友人でもいればいいのだが、友人といえるのもほとんどいなかった。
すっかり惨めな気持ちになって冷めたコロッケを食べ終わると、レジ袋から鶏の唐揚げを取り出した。こちらは半額ではなく、二割引だ。コロッケよりちょっとは高く評価してもらえたのだ。自分が売れ残って捨てられる総菜のように感じられたおれには、二割引で買ってもらえた唐揚げがうらやましく思えた。
一個取って口に入れて噛んでみると、冷めてはいるが結構うまかった。それでも、この唐揚げだって本当は出来立ての温かいうちに、誰かにちゃんと定価で買われたかっただろう。そう思うと、やはりなんとなく哀れになってくる。おれはやるせない気持ちで、二個目の唐揚げを口に入れようとした。
するとそのとき、どこからか一匹の薄汚い野良猫がのそのそと近づいてきた。全身が灰色で、長い尻尾の先が曲がっている。猫はおれの前にちょこんと座り、にゃあ、と一声鳴いた。おれの持つ唐揚げをじっと見ている。なんだか少し、その猫が自分に似ているように思えてきた。
「おまえもひとりぼっちなのか。少し分けてやるから、一緒に食べよう」
おれは唐揚げの衣を口ではがして自分で食べ、肉の部分を小さく食いちぎって、一切れを猫の目の前に近づけた。猫はくんくんと匂いを嗅ぎ、口にくわえてむしゃむしゃとうまそうに食べた。あっという間に食べ終わって舌なめずりをすると、猫はまたおれの方を物欲しげにじっと見ている。
「なんだ、もっと食べたいのか」
にゃあにゃあ、と猫は二声鳴いて答えた。唐揚げをもう一つ取りだして、衣を取って肉の部分をちぎってやると、猫はまたうまそうに食べた。
「おまえがうらやましいよ。会社にも行かなくてすむし、自由気ままに生きていて、エサは誰かからもらえるしな」
そう言うと、猫は顔を上げてちらっとこちらを見た。なんとなく、一瞬にやりと笑ったかのような気がした。しかし、すぐにまた下を向いて肉を食べ始めた。
おれはうまそうに食べる猫の姿を見ながら、残りの唐揚げをかじった。猫であっても、一緒に食事をする相手がいると、少しは気が紛れるものだ。
猫は食べ終わると、またおれの方をじっと見ている。
「もうこれでおしまいだ。また明日、買ってきてやるよ」
猫はまた一声、にゃあ、と鳴くと、ゆっくりと植え込みの陰へと消えていった。
これがその奇妙な猫との最初の出会いだった。




