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幻想の世界にて流浪う用心棒

用心棒達の不思議な日常 クリスマス編

このお話は本編の六十話あたりを読んでから読まれることをお勧めします

「おい、ここはどこだ?」


 俺、用心棒の金斬かなぎり白零はくれいは、ふと気が付くと俺は全く見知らぬ部屋の中にいた。

 というのも、確か俺たちは幻界で土精族ノームの里にいるのかと思ったらいつの間にか、大きなテーブルとソファのある広い部屋だ。今にもなにか催し物が起こりそうだ。

 そして窓の外には交通道路とそこを走る車が見える。

 間違いなく俺たちは人間界にいる、なぜだ?


「どこっていわれても、ねえ」

「ヒャッハー。正直なところキノサキも本機もいきなりの事態で戸惑っているんだよねー」

「?」


 それと、この部屋にいるのは俺だけじゃない。


 殺し屋にして改造人間。ガンスロット=キノサキと、

 同じく違法改造された人工知能搭載の戦闘用自動二輪車オートバイヘルメス。

 そんな彼らが、俺とは違って何かを知っているように余裕のある表情をしているが、


「俺達幻界にいたんじゃないのか? いつの間に俺達、人間界へ戻っているんだ?」

「まあそれはあれだよ。だってこの話、本編じゃなくて番外編なんだから」

「番外編?」


 なんか言ってはいけないような気がするが、つまり今は本編に関係なく何かをやれと?

 おいおい、なんでなんの事前情報もなくこんなところに放ってしまうのか甚だ疑問なんだが……


「そのことなんだが、白髪ねぎにお願いがあるんだ!」

「ヒャッハー! 滅多にないキノサキのお願い!」

「お願い? あと白髪ねぎって呼ぶな」


 キノサキが俺に頼み事をするなんて珍しいを通り越して得体が知れない。

 なんか無茶ぶりでもされるんじゃないかと警戒してこいつの言葉を待っていると……


「実はね、この話は本編とは全く関係なく、そのメンバーのみんなでクリスマスパーティをしようかじゃないかって話だ!」

「ヒャッハー! 聖なる夜にバカ騒ぎってね!」

「……は?」


 クリスマスパーティ?

 それ、本編とは全く無縁の、あのクリスマスパーティ?


「いやーこの話が投稿される時期ってクリスマスでしょ? だからこの機に乗じて、普段本編ではやらないことをしようって、それで考えられたのがクリスマスパーティで……」

「いや、この話本編から移して投稿されているけど、その時点でもうクリスマスでもなんでもねえよ。というかそんなもん書いている暇があったら本編を書けって話だ。まったく、そんなことするくらいなら俺はとっとと帰る」

「待ってくれよ白髪ねぎぃ!!」

「うわっ! いきなり抱き着いてくるんじゃねえ!」


 汗臭くはないけど、改造人間サイボーグの体についた機械がゴツゴツしてて痛い!

 あとこいつ力強い! 振りほどけねえ!


「だってさあ、せっかく個性的で賑やかなパーティができたのに、ワイワイガヤガヤのヤンヤンの一つもできないっていろいろともったいないじゃないか!」

「ヒャッハー! あったとしてもすぐに違う話に行っちゃうしさあ!!」

「いや…………そんなこといわれても困るんだが…………」


 そういうの、作者がそう書けていないってだけで、俺にはなんも関係ないよな。

 こんな特別枠も受けてもまったく気乗りしないんだが……


「だからさぁ! こういう特別な日に便乗して、普段本編にはないこちらの姿を本編とは別次元の場所で活躍しようじゃないかってことだ!!」

「ヒャッハー! あったかもしれないフィクションってやつだぜ!!」

「……そうか」


 なんだろう。話しているのはキノサキなのに、なんかキノサキを通じて違うやつが訴えているみたいだ。

 それが誰なのか大体察しが付くから言いたくはないが。


「それにさあ、白髪ねぎ」

「なんだ」


 唐突に真剣な声を出すキノサキだけど、

 こいつの真剣な顔、あんまり似合わねえな……

 そうどうでもいいことを思うが、重要な意味合いでも……


「あの異世界に、クリスマスってあると思う?」

「ヒャッハー! 生誕祭ってある?」

「……そりゃあ、幻界にイエス様がいるなんて聞いたことがないよ」


 ……なかったな。

 まったく……そうまでしてクリスマスパーティがしたいかね……

 俺にとってはほんの少し賑やかすぎるようなものに過ぎないけど、


 まあ、たまにはこういう空気も悪くないか。


「わかった。そこまで言うならそのパーティ参加するって」

「本当!? 感謝するよ白髪ねぎ~!!」

「わかったから、らしくなくはしゃぐな」


 いつも大声ではしゃいでいるキノサキだけど、こんな姿本編じゃなかなかないよな。


「ところでお前、クリスマスパーティしたことあるの?」

「え? いいや白髪ねぎ。こんな機械の殺し屋が世間一般と同じクリスマスを過ごしていると思っているのか?」

「……いいや」


 つまり初めてクリスマスパーティができる相手がいたから、参加したがって来たってところか。

 なるほど。こいつのやりたいことはわかった。わかったんだが……


「キノサキ。いまこの場にいるのって、俺とキノサキとヘルメスだよな」

「そうだな。こちらと白髪ねぎとヘェェルメェェスだけだな」

「ヒャッハー! つまり二人と一機だぜ!!」


 周りを見渡しても、誰の影も見えない。

 この部屋にいるのは、俺と、改造人間と喋るオートバイのみ。

 なんだこの構図。


「他に誰か呼んでないのか?」

「いや、呼んだけど来てくれなかったぞ」

「ヒャッハー、断られたぜ!」

「え?」


 断られた?

 つまり……


「ええと、ヘェルメェス。確か最初に呼んだのってお昼ちゃんだったっけ?」

「ヒャッハー! そうだぜ。けど、お昼ちゃんはなんか意味深な笑みを浮かべて、『パス』ってあっさりと切り捨てたぜ」

「そうそう。で、次はラッちゃんを誘ってみたけど、なんか先約があるって断られちゃって……」

「ヒャッハー! 最後にクロチーを誘おうとしたんだけど、どこに探してもいなくて……」

「いきなりの行方不明にこちらもヘルメスもびっくりだぜっ! ってね」

「つまり……このクリスマスパーティってまさか……」


 俺は嫌な予感がして、キノサキが言おうとしていることを先回りして言う。


「そう! こちらとヘルメスと白髪ねぎのみのパーティだぜ!」

「たったの二人じゃねえか! なんの意味もねえ! やっぱ本編に帰る!」

「おい、待てよ白髪ねぎ! 安請け合いしないのがお前の主義じゃないのか!」

「本編じゃないからって話してない言葉を引き出すな! だいたい、なにがさみしくてお前と二人っきりでパーティをしなきゃならないんだよ!」

「ヒャッハー! 本機を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

「あんまり変わらんだろ!」


 というかこいつら機械なんだから料理は食べられないんじゃないのか?

 だとしたら俺一人で料理を食べて二人で遊ぶって、それパーティなの!?









『まったくもう、そう急かしちゃだめだよ、白零君。クスクス……』










「ん?」


 いま、扉の向こうでなにか声が聞こえたような……

 というかこれって……


「キノサキ。今の声、どういうことだ」

「ヘェルメェス。今の声、どういうことだ?」

「ヒャッハー。白髪ねぎ。つまりこの声はどういうこと?」

「なるほど、つまりお前らは知らないんだな」


 キノサキたちに確認をとると、扉の向こうから声が続いてくる。


『ちょっとヒルエ! 本気で私たちこんな格好でハクレイの前に出なきゃならないの!?』

『そうよ♥ 人間界はね、この格好でクリスマスを過ごす習わしがあるの。だから、今更怖気づいちゃダメ♥』

『いや、でもこれ……いくらなんでも短いような……『サンタ』って人間はこんな恰好で子どものいる家に侵入していたというの?』

『そうでしょうか? お母さまから聞いた話とは違うけど……』

『え? クロチヨでも、サンタのことって知らないの?』

『いえ、確かお母様が『千代。サンタなど存在しないわ。ただの幻想よ』とか仰っていましたから……』

『え、いないの!? じゃあ、私がこの格好をした意味って!?』

『ああもう、黒千代ちゃんったら夢のないことを言っちゃって、せっかくこのままラッちゃんにサンタさんを誘惑させようといろいろと……』

『ちょっと! 私に何させるつもりなのよヒルエ!』


 ……なんかすごい聞き覚えのある声が聞こえるんだが。


「キノサキ。お前、呼ばれたのに断られたんじゃないのか?」

「おかしいなあ? 先約とかやるべきことがあるとか聞いたはずなんだけど、もう終わったんかな?」

「……ということは」


 バンッ!!


 俺は恐る恐る視線を扉のほうへ戻すと、その扉が勢いよく開き……


「メリークリスマース! 白零君!」

「めりーくりすますです。零ちゃん、キノサキさん、ヘルメスさん」

「め……メリー、クリスマス…………」

「クロチー! お昼ちゃん! ラッちゃん!」

「お前らなんでこんなところに!? というかその恰好……」


 いきなりの三人の登場に驚いたけど、もっと驚いたのは彼女たちの服装だ。


「な、なんで私がこんな恰好しないといけないのよ……」


 先に目に入ったのは、人間界とは全く異なる異世界、その名も【幻界】出身の風精族シルフィのラネットが赤と白を基調としたどこぞのサンタ風の衣装を着ている。

 具体的に言うと、ミニスカートと胸元を覆う部分のみで腕とか足とかお腹とかが出ている。露出が高すぎる上に、外に出たら完全に風邪をひく格好だぞ。

 しかも背中に風精族シルフィ特有の羽が出ている。元からあるのかそれともオーダーメイドなのか、無駄に凝っているぞ。


「これ、ちょっと軽くて銃が仕込みにくいけど……」


 場違いなことを言う俺の相棒、三咲さんざき黒千代くろちよ……通称千代の恰好も、いつもの和服姿と違ってまたサンタ基調だ。ただし、ラネットとは違って長袖にロングスカートと、奥ゆかしく淑やかな印象がもたれる衣装だ。


「ふふん。その驚いた顔、サプライズは成功で間違いなしね!」


 最後に、長いこと因縁を持つ殺し屋だった少女、浮空うきそらよる(もう一人の人格は昼江と呼ぶが、訳あって表ではこっちの名前を読んでいる)の場合は、角突きカチューシャに茶色くもこもこした頭以外の全身を覆うタイツのようなものだ。しかも顔には赤いつけ鼻が……

 ってなんで夜だけトナカイなんだよ! 流れ的にお前もサンタじゃないのか!


「いやー白零君。そう簡単にサンタ服を見せられるほどあたしは軽くわないよ」

「そうですか」

「それよりもほら、私が準備したこのラネットちゃんの過激なサンタ衣装はどう?」

「え、ええ? どうって……」


 夜が面白そうに俺の視線をラネットのほうへ向けるが、こんな過激な衣装の感想を求められても……

 正直、直視できない。


「……ハ、ハクレイ! そ、そんなにじろじろ見ないで!」

「あ、ああ! ごめん!」

「え、じゃあラッちゃん! こちらは別にいくらでも見ても……」

「あんたはなおさらダメよ」

「……ヘルメス。この扱いの違いは何?」

「ヒャッハー。好感度じゃないかな?」


 どうやらキノサキの誘いで閃いた夜のサプライズ何だろうけど、ラネットはよくそれを着る気になったな。

 そう思っていると、ふと、千代と視線が合い、興味深げにこちらを見ている。


「零ちゃん。ちょっと新しい服に挑戦してみたけど、どう?」

「どうって……」


 確かに和服とは違う。サンタカラーのロングスカートと長袖の服だ。奥ゆかしいところは和服と変わらないが、全くの新鮮さがある。

 つまり……


「に、似合っているぞ。それ……」

「本当? ありがとう、ふふっ」


 なんだろう。見慣れたものとは違って、なんというかその……うん…………

 普段見知った人間の新しい一面を知ったというかなんというか……

 なんか千代ってまだまだなにか知らないことがあるような、そんなことが感じられるというか……


「文章だけだから説得力ないけどな」

「言うなッ!!」


 まったくこいつはすぐに危ないことを言う。大体それを言ったら、千代たちが来なかったら俺はこいつと二人っきりでパーティを……

 ……って、ん? ちょっとまて


「ちなみにキノサキ」

「ん? なんだ」

「よ……昼江とラネットと千代を誘って五人と一機でパーティをするつもりだったんだろ?」

「そうだよ?」

「他に誘う人とかいなかったのか?」


 こいつの人脈は知らないが、たしか本編にはまだまだ他の人物がいたはずだ。

 なのになんでこんなピンポイントに五人だけで……


「ああ、それはね? 大人数すぎると、描写が難しい上に疲れるから、だってさ」

「作者の都合かい!!」


 と、いうわけで

 本編とは別に、俺、千代、ラネット、夜、キノサキ、ヘルメスでクリスマスパーティを開くこととなった。

 まったく、何の突拍子もないんだから。












「ちなみに料理はどうするんだ? 俺が作ろうか?」

「ううん。もう私とラネットさんが作っておいたから大丈夫」

「え、ラネットも?」


 思い出されるは、病み上がりなのに余計悪化したようなあの紫色のお粥……


「ちょっと、どういう意味よそれ」

「いや、だって……またあれを食べるのかと思うと…………ねえ」

「あ、あれはもういいでしょ!? わ、私だって……同じような失敗はしないために、頑張ってきたんだから……」

「おお、そ……そうか。わかった」


 というわけで、千代とラネットと、さらには夜もつくったオードブルが用意された。

 意外とおいしかったです。



          2



「というわけで『くじ引き命令ゲーム』をやるぞ!」

「ヒャッハー! いえええええええええええええええええええええええッ!!」

「はぁ?」


 料理を嗜んでいると、唐突にキノサキが意味不明なことを叫びだした。

 俺も千代もラネットも、意味が分からずに唖然としてしまう。


「げ、げーむ?」

「そうだぜラッちゃん! まさかクリスマスパーティがただ料理を食べてお話をするだけで終わると思ったか!」

「ヒャッハー! むしろ本番はこれからだ!!」

「私も参加するのですか?」

「当然だぜクロチー! 白髪ねぎ、クロチー、ラッちゃん、お昼ちゃん、こちらにヘェェェェェルメェェェェェスッッ!! の五人と一機で参加するぜ!!」


 ゲーム、か

 たしかにそういうのはあってもいいんだが……


「キノサキ。あんまり悪ふざけが過ぎるようなゲームじゃないだろうな?」

「大丈夫! こちらだけじゃなく、ちゃんとお昼ちゃんと一緒に考えたゲームだから問題ない!」

「むしろ不安要素が増えたぞ!?」


 夜まで一緒に考えたんじゃ、なおさら嫌な予感がするんだが……


「落ち着いてよ白零君。せめてルールを聞きなさい。それに、キノサキ君も言ったようにただ料理食べてお喋りするだけじゃ、つまらないでしょ?」

「そりゃあそうだけど……」


 そのゲームを用意するのがキノサキというあたり……


「ハクレイ。嫌な予感がするのは私だけ?」

「いや、ラネット。お前とは同意見だ」


 どうかまともなルールであってください。


「まずは三つのくじ入りの箱を用意しまーす!!」


 キノサキはテーブルの下にいつの間にか置いていた箱を取り出してきた。

 箱には小さいものが二つと大きいものが一つある。


「この箱にはくじが入っていて、小さい箱にはみんなの名前が、大きい箱には命令くじが入っているぜ!」


 そういうとキノサキが、ヘルメスの横にぶら下げたカバンの中からやや大きめのボードがでできた。

 ボードには既に大きい文字で何か書かれている。


【〇〇が△△に■■をする】


 どういうことだ?


「で、この〇と△には人の名前が、■には何をするのか行動が入る」

「あとはそれぞれに何が入るかはくじ引きで決めるってことだぜ、ヒャッハー!」


 なるほど。誰が何をするかは完全な運しだい。

 くじで誰かが誰かに何かをするのを命令するってゲームか。


「ちなみに一度出た命令くじは破棄されるので、同じくじはでません!」

「なるほどな。シンプルだけどちょっと手が込んでいるな」

「そりゃあ、本来は王様ゲームでもよかったんだけど、ありきたりだし、お昼ちゃんに断られてしまったんだぜ!」

「……そうか」


 王様ゲームと聞いて連想するのもあれだけど、こいつらが相手だとろくな展開がない。


 しかし、なんで名前入りのくじの箱を二つにしているんだ?

 何か意図でもあるのか?


「ちなみに名前入りのくじはもうすでに入っているし、命令くじはこちらとお昼ちゃんが書きましたー!」

「え、キノサキとよ……昼江だけで!?」


 俺達には一切書かせないのかよ! しかもよりにもよってキノサキと夜!?


「ちょっとキノサキ! 変な命令は書いていないでしょうね!」

「なにを言っているんだラッちゃん! そんなことあるよ!」

「あるの!?」

「だって折角の番外編なんだし、こういう時こそ、このゲームだと思わない?」

「ヒャッハー! 赤裸々にいろんな姿、みせちゃってくだささい!」

「いや待てって! そういうアンフェアなところはなしだ!!」

「えー…………わかったよ」


 結局、命令くじはあの後、俺と千代とラネットの分も追加しました。



          3



「はい、というわけで、くじ引きで命令ゲームの開始!!」

「ヒャッハー!」


 ……と、なんだかんだで始まってしまった。

 意気揚々と三つの箱の中にくじを入れていく。

 なお、参加者は俺達五人プラスになぜかヘルメスも入っている。


「キノサキさん、なんだかすごく生き生きとしているね」

「そうだな……こいつ、本編に劣らずはしゃぎすぎだろ」


 いや、むしろ本編にはないこういう空間だから、好きに楽しむことができるんだろう。


「そう思えると、こいつの自由なところは正直すごいと思える」

「自由、ですか……」

「千代?」

「ううん、なんでもない」

「それじゃあ、くじ引きを始めるぞ!」


 俺と千代が雑談しているうちに、キノサキが名前入りのくじ入りの箱に手を入れる。

 まずは最初の〇に当たる人物。

 それは……


「これだ!」


 キノサキが箱から勢いよく引いたくじに書かれていたのは……!


『白髪ねぎ』


「俺か! というかこんなときも白髪ねぎって書くな!!」


 くじにまで浸透していく俺のあだ名。

 いい加減やめてくれよ!


「よ、よかった……ハクレイか……」

「いや、ラネット。まだ二個目のくじが引かれてないからわからないぞ」

「あ、そうか……」


 俺以外のメンバーはキノサキに千代にラネットに夜に、なぜかヘルメス。

 残りメンバーの半分以上が女性だ。となると……

 どうかまともな命令であってほしい!


 次は夜が二番目の箱に手を入れてくじを引く。


「それじゃあ次の人物の名前ね。えーと……へぇ。これは……ふふふ……」

「……なんだよ」

「白零君ったら、いきなりとんでもない組み合わせね。はい」

「なっ…………!?」


 夜が面白げに掲げるくじ。そこに書かれていたのは……


『白髪ねぎ』


 …………は?


「俺!? なんでまた俺なんだ!? そんなのありか!?」

「おー! 白髪ねぎ、お前まさか二回連続同じ人物が来るなんてすごい!?」

「ヒャッハー。これは命令次第で面白くなるぜ!」

「ちょ、これ無効にならないのか!?」


 まさかそういう意味で箱をわざわざ二つに分けたのか!?

 俺が俺に一体なにをさせる気なんだ!


「じゃあクロチー! 最後にその大きい箱からくじを引いてくれ!」

「ええと、これですね。それじゃあ……」


 最後の命令くじ。どうかまともな命令であってくれ……!


「はい、零ちゃん」

「ええと……」


 最後の命令くじに書かれた内容は、


『ハイキック』


 ……これ、詰んでね?


「ケッテー! 最初の命令は【白髪ねぎが白髪ねぎにハイキックをする】でしたー!」

「ヒャッハー! 白髪ねぎー! ハイキック!」


 一発目からレベル高すぎだろ……!


「ちなみに、この『ハイキック』を書いたの誰だ?」

「はーい。あたしだよ」

「昼江。お前か……」


 なんでそんなバイオレンスな命令を書いてんだよ。そういうギャグはもっと体を張れる人に任せるべきだろ。今回は俺が当たってしまったからいいけど。


「うーん、残念。せっかくラネットちゃんがいい格好しているから、それでハイキックしたら面白いことになると思って……」

「バ……バカじゃないの!?」


 ラネットが短いスカートを押さえて、赤らめ顔で怒鳴る。

 こいつ……そんな目的で書いたのかよ。


「でも仕方ない。それじゃあ白零君。ハイキックよろしくー!」

「ええ!? 本当に俺が俺にハイキックしなきゃならないのか!?」


 どんなマゾヒストだ!

 それ以前に自分にハイキックだなんてそんなの考えられるとしたら……


「ねぇ、白零君。あなた、安請け合いはしない主義なんでしょ? それなのにいざという時にこんなことができないなんて、なめているの?」

「なに?」

「あなたはこの命令くじゲームを受けた。それなのにいざという時に拒否するなんて、あなたはその程度の男だったのかしら? 身刀流さん?」

「昼江……」


 言ってくれるじゃないか。俺だけじゃなく身刀流まで引き合いに出すのか。

 キノサキならともかく、夜にそんなこといわれちゃ、引けねえな。

 上等だ!


「零ちゃん。無理をしないで。できないからって私は別に零ちゃんが……」

「千代、気持ちはうれしいけど、昼江にああも言われた以上」


 引くわけにはいかねえ!

 用心棒にできないことはない!


 ハイキックかどうかはわからんが、要は人間の体の高部にある頭に蹴りを叩き込むこと!

 持ち前の柔軟さを活かせば不可能ではない!


「すぅ……はっ!!」


 俺は右足を思いっきり前方に振り上げる!

 股関節を軸に前へ上へ蹴り上げられた右足は、折りたたむように俺の頭部に……


 ゴッ!


「ぐっ! ~~~~~~っ!!」


 ひ、額に自分の蹴りが入るなんて、初めてだ……

 い、痛てえ……

 さすがに自分にキックなんてやったことがないからかなりキツイ!

 だがな……!


「どうだキノサキ! 昼江! ちゃんと自分で自分にハイキックをしたぞ!」

「はい、それじゃあ次、いくわね。キノサキ君、準備して」

「了ォォォォォォォォォォォォ解ッ!!」

「ヒャッハー! なんだろうかな!」

「…………おい」


 無視かよ……

 なんか、怒鳴る気にもなれねえ……


「零ちゃん、あたま大丈夫?」

「うん……物理と精神の両面で痛い」

「まったく、何してるのよあんたは……」


 千代にラネット。心配してくれるのはうれしいけど、結構くるよ……


「でも、蹴られたあんたに言うのはなんだけど……ありがとう」

「ん? どういうこと?」


 なぜか俺がラネットに感謝された。

 ラネットは恥ずかしそうにしながら、命令くじが入った大きい箱を見る。


「だって、もうハイキックは出ないわよね」

「ああ。同じくじは出ないそうだからな」

「さすがにこんな恰好で蹴りたくはないから……」

「ラネット……」


 ……まあ、いいか。

 いや、いいのか?


「はい。最初の人物は……こちら!」


 キノサキが引いたくじに書かれているのは……


『クロチー』


「私ですね」

「今度は千代か。もう暴力系はなしにしてくれよ」

「大丈夫よ白零君。そう同じようなものは入れないし、ハイキックだってそれ自体よりもラネットちゃんのほうが目的だったしね」

「あんたったら……」


 夜にいいように遊ばれるラネット。

 なんか、今後こいつの心配事が増えていきそうだな。


「さっきは次の人物の名前の引いたけど今度は命令からってね!」


 さすがにもうハイキックは来ないし、同じようなバイオレンスなものも来るわけが……


『ヘッドロック』


「さっきと大して変わんねえじゃねえか!!」

「あー残念。せっかくあたしが白零君に、してあげるところだったとに……ね♥」

「なぜそこで色っぽく横目で見る!?」


 どうやら今度はラネットではなく、俺に目的があったらしい。

 とはいえ、まだ二人目は引いていない。できれば俺は避けてほしい。


「じゃあ最後に、ラッちゃん。引いちゃってください!」

「まあ、クロチヨが相手なら私でもいいけど……」


 と、そういいつつも恐る恐る箱から引いたラネットの手にあるくじには……


『キノサキ』


「ヒャッハー! どうやらキノサキが当たったぜ!」

「イエス! ま、クロチーのヘッドロックくらいなら大丈夫だろ!」

「私がキノサキさんに、ええと……へっどろっくをするのですね」


 千代のセリフがあやうやだけど大丈夫なのか?

 一応、仕事柄で格闘の類は勉強しているはずだが、千代にとってはまったくの範囲外だろう。


「千代。ヘッドロックってなにをするかわかるか?」

「えっと……腕で頭と腕を抱えるように固めて、そのあと頭に銃を……」

「格闘技に銃はつかわねえよ!」


 とにかく、一応は知っているようなので問題はないようだ。

 が、仕掛ける相手はキノサキか……


「…………」


 釈然としない。

 ハイキックを無視されたのに、この余裕綽々で舐めたような態度。

 しかも千代にヘッドロックされると聞いて浮かれているキノサキを見ると……


「ハクレイ」


 ふと、振り向くと、ラネットも似たような顔をしている。

 そうだよな。そんな格好にされて、なおかつハイキック未遂になるところだったしな。

 キノサキじゃなくて夜だけど、キノサキもある意味共犯だし、


「もしかして、言いたいことがわかる?」

「そうだな。たぶんお前と考えていることは一緒だ」

「そう、それじゃあ……」


 俺たちは今まさにキノサキにヘッドロックをしようとする千代に目を向ける

 俺たちの視線に気づいたか、千代が疑問符を浮かべるような顔で俺たちを見たところで……


「千代」

「クロチヨ」


 俺とラネットは同時に声をそろえて思い浮かべたことを言う。


「「遠慮なくやって(くれ)」」

「え?」


 さすがに一瞬困惑顔になる千代だったが、少し前の出来事を振り返るように視線を伏せていると、やがて決意に至ったのか、


「うん、わかった」

「ん? どうしたのクロチいいぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃぃいぃいぃいいぃ!?」


 キノサキの首と片腕を拘束した千代が、本気でキノサキを絞める!


 ギリギリギリギギリギリィ!?


 本当に手加減を知らないかのように、音とたててキノサキの首を腕ごと締め上げていく。


「おぅ……」


 機械とはいえ、人体からなんか発してはいけない音が聞こえるような……


「ちょ、まってクロチー……くびが……くびがぐるじ…………!?!?」

「ヒャッハー、キノサキ!?」

「油断したなキノサキ、千代のこと、ただの華奢な銃士だと思ったか」


 普段から銃を携帯し、さらには振り回してたり発砲したりする千代に秘められた潜在腕力は俺でも測り知れない。

 大方、女子とヘッドロックで密着なんて邪な目的があったかもしれないが、本気出した千代にそんな甘さは通用しない!


「あはは、黒千代ちゃんったら遠慮がないね。これじゃあ楽しんでいる余裕なんてないでしょ」

「ヒャッハー! ワン! ツー! スリー! フォー! …………」

「ギ、ギブギブギブ! 機械だが関節と呼吸器付近は弱いんだ! ガギッ!? く、首が……首が取れるぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅ!?」


 いや、一回生首になっただろお前。

 そして楽しそうだな夜。


「ヒャッハー! テーン! ウィナー、クロチー!!」

「ええと、キノサキさん。これでいいでしょうか?」

「はぁ……はぁ……はぁ……クロチー……恐ろしい子だ、ぜ…………」

「ヒャッハー!? キノサキ!?」


 キノサキ、ヘッドロックから解放後、ダウン。

 危険人物第四位にして、改造人間の殺し屋は女の子のヘッドロックであっさりとダウンしていった。


「さすがに、やりすぎちゃったかな……大丈夫?」


 ヘッドロックを終えた後、さすがに心配してキノサキの顔色を窺う千代。

 俺とラネットから言われたとはいえ、千代にも思うところはあったらしい。しかし、想像以上の結果だったため、つい心配してしまう。


「ラネット……千代って、やっぱり強くね?」

「そうね。改めて思うけど、クロチヨって本当、いろいろと謎が深いわ」


 俺もラネットも、殺し屋をヘッドロックでダウンさせた千代に改めて戦慄と疑問と確認をしていった。


「それじゃあ次は白零君が引いて。今度は命令から先にね」

「まったく、いい加減だな。というかいつまで続けるんだ」

「まだたった二つじゃ足りないでしょ?」


 さてと、正直気が乗らないにしろ、このまま止めるとなんとなく悔しい。

 キノサキはもうすでに痛い目を見たけど、このまま昼江の方にもなにかしら与えたい。


「さて、どんな命令がでてくるのかなっ!!」


 俺は無駄に勢いよくくじを引いてその内容にゆっくりと目を通した。

 それは……


『セクハラ』


「………………おい。神聖なる聖夜になにさせる気だ!!」

「ちょ、ええ!? なによそれ!」


 明らかに狼狽えているラネットは明らかに違うとして、

 千代もこんなこと書くとは思えない。

 ということは……


「キノサキ……!」

「え、証拠もなく犯人と決めつけるこの風潮!?」

「ヒャッハー! 言っておくけどキノサキでも本機でもないぜ。そんなことに興味はないからな。機械ゆえに」

「ということは……」


 残る人物に目を向けると、相手はとてもにやけた笑みを浮かべてやがる。

 くっ……お前は…………!


「昼江……またお前か…………!」

「ふふふ……機械は除いて、誰が引いてもおいしい瞬間が見られるんだから、ありじゃない?」

「却下だ! こんな公序良俗に反するものはなしだ! キノサキだろうとな!」

「ヘェェェルメェェェスッッ!! なんか遠回しにこちらがバカにされてないか!?」

「ヒャッハー! いちいち拾い上げたらキリがないと思うぜ!!」

「白零君? とにかく残りの名前くじも引いてみたら? 話はそれからでしょ?」

「…………」


 俺は黙って最初の名前くじを引く。そこに書かれているのは……


『用心棒コンビ』


「…………ん!?」


 用心棒……コンビ!?


「あーあ、惜しい。白零君を狙い撃ちにしたかったのに、括りを引いちゃったか」

「そんなものまであるの!?」

「ということは、私と零ちゃんですね」

「俺と千代が二人がかりでするの!?」


 誰かに!? セクハラを!?


「ほら、白零君。次の名前は?」

「おい、もういい加減にしろ。ろくでもないことしか起きる気がしねえぞ」

「ヘッドロックはろくでもないことじゃないの?」

「うっ…………」


 そういわれると

 とにかく、もう残りのくじも引くが名前は……


『ラッちゃん』


「私が!? ハクレイとクロチヨに!?」


 くっ……昼江なら千代を通じて懲らしめることはできるのに……相手がラネットだと!

 せめて機械コンビのどっちかならまだ救いようがあるのに……


「はい、ケッテー! 【用心棒コンビがラッちゃんにセクハラをする】だー!」

「零ちゃん。ラネットさんにせくはらって、なにをすればいいの?」

「……それを俺に聞くのか」


 そこはお母様とやらにに厳しく教えられないんだな。それとも教えたくない言葉なんだろうか。

 まあ確かに俺達の職場はそういうのとは……約一名、ギリギリなのがいるな。


「昼江。やっぱりこんなのなしだ。こういうのは遊びの度が過ぎているぞ」

「あら、白零君。安受け内しないのはあなたの主義じゃなくて?」

「こんな理不尽なセクハラするくらいなら、主義の一つぐらい曲げてやる」

「へぇ……生意気ね」

「ハクレイ……」


 俺自身のハイキックはまだいい。俺自身だからな。

 だが、こんなこと。決して許していいわけがない!


「白髪ねぎ。クロチーにヘッドロックさせたのは理不尽じゃないのか?」

「ヒャッハー! キノサキはある意味自業自得だけどな」


 うん。お前はある意味自業自得だ。


「くす……白零君ったら、ヘタレね」

「なに?」

「まあ、女の子を大事にしたいのはいいけど、こんなことをしなければ大切な人が護れないことになってっも、同じことがいえるの?」

「どんなシチュエーションだよ」


 そんなもんないだろ…………ないよな?


「いいわ、来なさいよ。ハクレイ」

「ラネット!? いや、しかしお前それは……」

「これがキノサキやヒルエだったら許さないことよ。いや、別にあんたでも許していいわけじゃないけど……」


 ラネットはもじもじと指をすり合わせて、視線が一律に定まらない。

 しかし、ほんの少しずつ小声で何かを呟き続けると、それがやがて大きな声になって……


「クロチヨだから、あんただから、ひどいことはしないって、わかっているから……だからどんと来なさいよ!」

「…………ラネット」


 こいつ……さっきまでのラネットとは違う。

 まるで十年の修羅場を潜り抜けてきたかのように、ダイヤモンドのような鋭い目で覚悟を決めている。


「白零君。女の子がここまで覚悟をしておいて、それでもあなたは逃げるの?」


 ……ラネット、わかった。

 あんたの覚悟が、心で伝わったよ


「…………千代、俺が先に行く。いいか」

「え? いいけど、どうして?」


 千代が不安げに揺れる瞳を俺に向けている。

 そんな顔をするな。俺だって平気じゃないわけがないんだ。


「いくら覚悟を決めていても、俺に触られて傷つかないわけがない。だからあとはお前が、ラネットの傷を癒してくれ」

「零ちゃん………………そうかな?」

「そうだろ」


 お前のその優しさは、俺にないものをたくさん持っている。

 お前なら……安心して後を任せられる!


「いくぞ……ラネットォォォォォォォォォォ!!」

「え、ちょ、気合い入れすぎじゃない!?」


 俺が駆け抜ける先には覚悟を決めて……あれ、ちょっと引いてない?


 要するに俺がラネットの体をどこか触ればいいだけだ。

 肩、足、腕、腹、胸……


 いや、違う! 俺がやるのは……!


「いくぞ! 必殺脇腹くすぐりぃ!!」

「え!? いや!? まって、やめっ!? あ、あはははははははははは!?」


 頭を必死に回転させて思いついた打開策!

 脇腹くすぐりはOKだろ!


「なにすんのよ!!」

「おごとっ!?」


 そう思ったら真っ先にラネットの拳が飛んできた。

 さ、さすがに痛いぜ……



          4



「お前……もう少し手加減してもよくない?」

「な、なんか想像と違うことしないでよ!!」


 ああ……右頬がまだ痛い。

 ちなみに千代はあの後、ラネットを抱きしめて、しかもそれで通ったらしい。

 それでいいのかよ……くすぐりより楽じゃないか。


「難しく考えすぎるのが、白零君の難点ね」

「うるさい……そもそもお前があんな命令を書かなければよかっただろうが」

「ふふ、面白いからそれでいいの。それじゃあ、どんどん行くよ。ふふ……」


 それからも、俺たちはくじ引き命令ゲームを続けた。

 キノサキや夜以外にも命令くじを書いたんだが、


【ヘルメスが白髪ねぎに耳掃除をする】


「お母様からよくしてもらったから、耳掃除には自信があったけど……」

「ヒャッハー! 大丈夫だ! 正確さにおいて機械ほど信用のあるものはないぜ!?」

「そう言われても、そんな細い鉄の指で耳かき棒を持たれたら不安になるって!」


 まともな命令だろうと相手をちゃんと選ばないと大変なことになるし、


【ラッちゃんがラッちゃんを褒める】


「わ……私って、仕事はよくできるほうで……こ、この前だってた、隊長がその…………」


 名前が重複すると見ていて…………痛々しい。


【機械コンビがお昼ちゃんに全力でナンパをする】


「お昼ちゃああああああああああああああんッ!! 一緒に遊ぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

「ヒャッハー! レッツ、エンジョイ!」

「却下。どっかいって」

「なにぃ!? 二秒で撃沈!?」

「ヒャッハー! バッドエンド直行ってね!!」


 またしても名前じゃなくて括りみたいなものが入っているし、


【お昼ちゃんが男の子に女装させる】


「なんで俺までサンタミニスカートとノースリーブなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ふふふ、やっぱり白零君ったら女装が結構似合うね」

「ハ、ハクレイ……こ、これって結構…………かわ――――」

「言うなラネット。ちくしょう……もうこんなことはないなんて思っていたのに……ジャージ返して…………」

「零ちゃん、大丈夫だよ。その服、とても似合っているよ」

「千代。男が女物の服を着てちゃあ、似合ってるなんて褒め言葉には聞こえないんだよ」

「そう?」

「そうだよ……」


 俺のジャージまで脱がされる羽目に……


「……………………」

「ヒャッハー。ノーコメントなんて気にするな!」

「ヘェェルメェェス。まだなにも言ってないぞ」

「ヒャッハー。そう?」


【クロチーが白髪ねぎに微笑む】


「零ちゃん…………あれ? どうして目を逸らすの?」

「い、いや……こんなに直視したことがあんまりなくて……その…………」

「零ちゃん?」

「白髪ねぎったら意外と初心ね! ヒュー! ヒュー!」

「ヒャッハー! お熱いことだぜ!」

「黙ってろキノサキ!!」

「なんでこちらだけ!?」

「ふふ、白零君ったら。ちなみにこれ、ラネットちゃんが書いたでしょ」

「え、なんでわかるのよ!?」

「やっぱりね。あなたって意外と奥手(けど小心者)ね。かわいい(でもちょっとつまんない)んだから」

「ちょっとまって、いまなにか本音と建前が同時に出ていなかった?」


 お前ら、裏で喧嘩するんじゃない。

 とまあ、時はあっという間に時間は過ぎていった。そして……


「はい。それじゃあ次で最後ってことで、せーので同時にくじを引きましょ」

「わかった、昼江。それじゃあ行くぞキノサキ」

「了解。せーのッ!!」


 キノサキの掛け声とともに俺と夜とキノサキは同時にくじを引いた。

 そして恐る恐る人物名から順番に確認すると……


『女の子』


「へぇ……」


 夜が引いたくじは、今まで見たことがない括りだ。

 つまり夜と千代とラネットが?


『白髪ねぎ』


「俺に!?」


 よ……寄りにもよってこんなタイミングで相手が俺!?

 せ、せめて最後の命令だけはまともであってくれ!。


 最後の最後、キノサキのくじに書かれている命令は……


『甘える』


 …………?


「…………ん?」

「あ、甘えるって……」

「なるほど。最後の最後にすごいのが来たわね」


 つまり……


【女の子が白髪ねぎに甘える】


「…………」

「…………」

「えっと…………」

「み、みんな?」

「ヒャッハー?」


 なんか夜も千代もラネットも、不気味なくらいに静かになった。

 正確に言うと、ラネットが『どうしろと』とでも言いたそうだけど、千代は『どうしようか』だ。夜に至っては『なにしようか』と怪しげな笑みを浮かべている。

 うん、自分で思っててどうしようか解らないけど……


 だって、あ、甘えるっていったいなんだよ……

 あんまりそう特別な言葉ないとは思うけど、変に緊張するのは俺だけか……?


「(おい、白髪ねぎ)」


 と、ここで俺はキノサキに肩を叩かれる。

 少し焦っているためか、少しだけ助かった。


「(なんだ)」

「(なんだ、じゃないよ。こうなってしまったのにお前は動かないつもりか?)」

「(ヒャッハー。ちゃんとうまくリードさせないと、相手に恥をかかせてしまうぜ!)」

「(う……そうだな……)」


 いつも突っ込みどころ満載なのに、こういう時だけはもっともな意見だ。

 いかん、受け身になるな。望まないこととか、高望みだとか、そんなことは関係ない。


 自分から前に出さなきゃ、なにも得られないだろ。


「お、お前ら……!」


 少しだけ深呼吸。

 そして、言う!


「いつでもかかってこい! 受けて立つぞ!!」

「うん、わかった」

「そう? じゃあ遠慮なく」

「ちょ! あははははははッッ! ってなにいきなりくすぐってんだよ!?」


 突然夜が近づいてきたと思ったら、手を服の下に入れられ、脇腹をくすぐられた。

 い、今のは不意打ちすぎる……


「もう、白零君ったら気合い入れすぎ。いったいなにを想像したのかしら? ほんと、そういうところがちょっと残念なところね」

「うっ……」


 そ、そりゃあ甘えるなんて言われて具体的に何されるかわかんないし、緊張しても仕方ないだろ。

 とはいえ、なんか言い訳するのも恥ずかしく、そんなところも見透かされているのか、夜は意地の悪い笑みを浮かべると千代とラネットのほうへ向いて……


「ほらほらラネットちゃん、黒千代ちゃん。白零君に好きなだけお願いをしていいのよ!」

「そうなのですか?」

「ええ!? そんな、好きなだけお願いって……」

「おいおい、なんか命令の内容、なんか変わってないか!?」


 なんかハードになっている気がしません!?


「もう、そんなこと言わずに受け止めなさい。そのための甘える、でしょ?」

「うっ……まあ、確かにそうだ」


 ……なるほど、これはしてやられた。

 わがままを許すってことか? それとも要望はちゃんと聞くこと?

 最後の最後に大変だけど、これ終わりあるよね?


「それじゃあ白零君。今度は本編で私が来ていた女子高生の制服姿に着替えて!」

「ハクレイにお願い……いったい、なにをしようか…………」

「じゃあ零ちゃん。ヘルメスさんの時に見て気になったけど、私でも零ちゃんに耳掃除を……」

「ちょっと待て! さすがにいっぺんにこなすには無理があるぞ!」


 というか夜! いい加減俺の女装はやめてくれ!

 俺の中の大事な何かが失われそうなんだよ!


「白髪ねぎ! それが終わったらこちらと異種格闘技ごっこでもしよーぜ!!」

「なんでお前のお願いまで聞かなきゃならないんだよ!」


 お前は女の子じゃねえだろ!


「一人と一機だけ省いてんじゃねえ! いいからこちらの要望まで聞け!」

「ああもう、せめて最後にしろ! そういう疲れることは最後にだ!!」

「わかった! じゃあ予約取り付け『白髪ねぎと夢のタッグマッチ』で!」

「ヒャッハー! 懐が深いぜ! んん? それとも広いぜ? どっちだ?」

「それじゃあ白零君、さっそく……」

「ってどさくさに紛れてジャージのズボンを脱がそうとするな! 子どもが見ているでしょうが!」

「ハクレイ! なんか大変そうだけど……頑張ってね……」

「ラネット! さすがに止めるのに疲れたのかあんなに遠くに! でも一体何なんだその期待のまなざしは!?」

「零ちゃん。もしかして零ちゃん、女の子になりたくないの?」

「誤解を招く言い方するな! いや、俺はこの格好がいいの! 女装なんてもうたくさんなの!!」

「もう、往生際が悪いわね。安請け合いしないのがあなたの主義でしょ!!」

「それ本編で口にしたの、そんなに多くないから! ああ、待って! 自分で着替えるから! だからジャージをずらしてんじゃねえええええええええええええええええッッ!!」


 この後、俺は自分から泣く泣くジャージを脱ぎ、女装を続ける破目となりました。

 あと、ラネットとお喋りをしたり、千代と軽いスキンシップをしたり、キノサキとバトルをしたり、

 騒がしい夜はまだまだ続いていった。



          5



 ……そのあと、バカみたいに騒いでいた俺たちは、そのまま女子用と男子用の大部屋で眠ることとなった。

 時間がたてばもうすぐ番外編は終わるとのこと。だから特別なにかするわけではないので、あとは好きにすればいいとのことだ。

 ちなみに今の俺はジャージだ。俺の中の何かはぎりぎりで耐えられたぞ。

 そして、俺の隣でキノサキが機能停止したかのように動かない。起きていないのに『眠る』感じが全くしないのは、こいつが機械であることを意味づけているんだろう。

 俺はなぜかまだ眠るつもりはなく、部屋を出て水を飲みに行く。


「あ、千代」

「零ちゃん」


 その途中で千代とばったり会った。

 パーティに来ていたサンタ服はもう来ておらず、簡素な襦袢姿のままだ。

 まったく、少しだけ無防備すぎじゃないか?


「零ちゃん、今日は人気者だったね。昼江さんにいろんな服を着せられて」

「まったくだ。あいつが一番俺に無茶ぶりをするんだから」

「ラネットさんも、最初はさんたさんの服は着たくなかったらしいけど、昼江さんに耳打ちされると頷いてたよ」

「……なにを吹き込んだんだあいつは?」

「それにキノサキさんも、いつも以上に楽しんでいて、ちょっとだけ意外に思った」

「俺もだ。あいつも、本職とか改造人間とかいろいろと強烈なところがあるけど、なんというか子どもっぽいというか無邪気というか……あとはあの暴走癖を何とかしたいと思うけどな……」

「それと零ちゃん。ラネットさんとも沢山お喋りとかしたね」

「ああ、ラネットから世間話や風精族シルフィのこととかいろいろと聞いてみたけど、なかなか興味深い内容が多かったぞ」

「アデルさんのこととか話すラネットさん、愚痴っぽく聞こえるけど本当はそれが良い思い出みたいに話してましたし」

「そうそう、それに…………」


 少しだけ、千代と廊下を歩きながら話をする。

 今日会ったパーティの出来事とか、そもそも夜に誘われてサンタ衣装を着ることになったことなど。


 そうして振り返っていると、千代が感慨深く呟く。


「なんだか、こうしてみんなと一緒に楽しくするのって、ちょっと不思議だね」

「……そうだな」


 なんせかつての殺し屋に改造人間に、風精族シルフィって面子がすでに個性的すぎる。人のことは言えないが。

 けど、キノサキに無理やり誘われてしぶしぶやることになったけど、こうして終わった後に振り返ると、案外悪くないものに感じられた。


「でも、こんなに楽しいの……初めてだよ」

「……俺もだ」


 どこにでもいる普通の子どもからはおおよそ外れた生き方をした俺たちにとって、こうしてただ一緒に遊ぶことは珍しいものだ。


 俺たちは用心棒として日ごろから任務をすることがいつもの日常だった。

 それ自体に不満はないが、同世代の知り合いができないことは事実で、こういったことはなかなかできなかった。

 だから今日みたいな出来事は俺や千代にとってとても新しいことで、なんというか……


「これが、友達と遊ぶってことだろうか……」

「うん。そうかもしれない」


 俺も千代も過ごしたことのなかった日々。

 特に羨んだりすることもつらいと感じたこともなかった。一番に優先することがあって見向きもせず、知らないものに対して憧れることはなかった。

 けど……


「…………」


 千代の横顔を見る。

 彼女はとても心底楽しそうに、いつもよりも微笑みがはっきりとしている。

 護ることばかりで遊ぶことを知らなかった俺たちにとって、今日という日はとても素晴らしく、来てよかったのだと感じた。

 だから……


「なあ、千代」

「なに、零ちゃん」

「本編のほうじゃまだまだ俺たちは忙しいし、やるべきこともたくさんあるけどさ……」


 あっちじゃ不安なことはいくらでもある。まだまだ不安で、心配で、そんな闇を抱えている人もいる。

 それが、たとえどう変化していてもまた今のように笑っていられるような人たちでありたい。


「いつか本編のほうでも、こうやってバカみたいに騒いで、笑って、楽しめるようにしようぜ」

「零ちゃん………………うん!」


 千代もそうだけど、俺にとってもこのつながりはとても居心地のいいところだ。

 だからこそ、それが壊れてしまわないように、長く続いていられるように、


 たとえ用心棒じゃなくても、俺たちはそれを護ってみせる。

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