謎の血文字
翌日、ありさ達は京都の名所巡りをすることにした。金閣寺や銀閣寺、清水寺などを巡った。
「京都の眺めっていいね!」
春佳がなんともいえない声をあげた。
「ホント! 京都っていいとこだね」
ありさも思わず納得してしまう。
ありさがそう言った後、またしてめ暢一と目が合ったのだ。暢一は何か言いたそうにしている。
――なんなの? 私に何か言いたいことがあるの?
内心そう思うありさ。
「ねぇ、理恵子」
ありさは理恵子の腕を引っ張り、みんなから少し離れたところに呼ばせた。
「な、何?!」
「暢一ってなんか変じゃない?」
ありさは理恵子の耳元で聞いた。
「そう? 私は普通だと思うけど…」
「やっぱり私の思い違いなのかなぁ…」
「暢一がどうかした?」
「昨日の夕食後から様子がおかしいんだよね」
「きっとありさと会えて嬉しいのよ」
「あのねぇ…」
ありさは呆れた声を出す。
「まぁ、半年振りだから何話してかわからないってのもあるんじゃない?」
「暢一に限ってそんなことないよ」
「気にしちゃって…好きなんでしょ?」
「違うってば…」
そう言うと、ありさは暢一を見る。
「あまり気にしなくていいんじゃない?」
「そうだよね」
「ありさと暢一はここにいてよね」
春佳が言う。
ここは休憩所。ありさと暢一以外の四人がトイレに行くと言い出したため、急いで休憩所を探したのだ。
「うん、ゆっくり行っておいでよ」
ありさは四人に言う。
「暢一、誰もいないからってありさに手ェ出すなよ」
トリスタンが笑いながら言う。「しね―よ」
暢一もつられて笑う。
「早くさっさとトイレに行ってこいよ」
暢一は四人をトイレに促す。
「行ってくるね」
四人をトイレに入るのを見届けてから、
「なぁ、ありさ…」
さっきとは違う真剣な口調で、ありさを呼ぶ暢一。
「何よ?」
「オレのこと、どう想ってるんだ?」
「……」
「真剣に考えて欲しいんだ」
真剣な眼差しの暢一。
――どう想ってるって…どう答えたらいいの…? どうしよう…。
悩むありさだったが、すぐに答えが見つかった。
「ただの友達よ」
少し声を震わせて答えたありさ。
「そっか…」
落ち込んだ様子で、うつむいた暢一。
「オレ、ずっとありさの事が好きで仕方なくって、好きだって言う度に、ありさは“友達のまま…”って言うから…。諦められない気持ちだけが、心の中にあって、今回フラれたら諦めるって思ってる」
なんて、かわいいことを言う暢一。暢一の言うことはアテにならない。騙されてはいけない、とでも言ったほうが いいのである。
「暢一って中学までは普通だったのに、なんで高校入ってから私にくっつくようになったわけ?」
ありさは真顔で聞いた。
「くっつくって…そんな言い方ね―だろ?」
少し怒った言い方になる暢一。そして、大きくため息をついてから口を開いた。
「中学ん時は、ただの友達だけでいいって思ってた。でも、高校に入ってから付き合いたいって思うようになってたんだ」
「ホントは中学から付き合いたかったんでしょ?」
冗談っぽく聞くありさ。
「違うっつ―の!!」
「わかったからそんなに大声出さなくても…」
「でもさ、ありさの気持ちわかって良かったよ」
暢一はホッとした表情になる。「ごめん、ごめん。遅くなって…」
春佳が謝りながらトイレから出てきた。
二人が向かい同士でいいム―ドで話している、と勘違いした千恵が、
「あ、もしかして、お邪魔だった?」
急いで言った。
「そんなことないよ。ねっ? 暢一」
「あ、うん」
「お、もう六時だ。宿に戻ろうぜ!」
トリスタンが携帯の時計を見ながら言う。
「そうだな。行こ―ぜ! トリスタン!」
暢一はトリスタンの腕を引っ張り走り出した。
「仲良いね、あの二人…」
理恵子が二人を見つめて言った。
「そだね。トリスタンがアメリカ戻らなければいいのにね。暢一、友達が多いほうだけど、トリスタンが本当の友達だもんね」
千恵が三人に語るように言った。
「さっ、私達も行こう」
ありさが言うと、四人は暢一とトリスタンの後を追いかけた。
六人が宿に戻ると、七時を過ぎていた。
バス停から宿まで歩いて約五分ぐらいのところにある。宿に近付くにつれ、何やら騒がしい。「何かあったのかな?」
理恵子が五人に聞く。
「さぁ…誰か有名人でも来たんじゃない?」
理恵子の質問に、春佳が答えた。
「有名人が来たにしてはおかしい。パトカーも来てるし…」
トリスタンが春佳の答えに否定する。
「何があったんですか?」
ありさが近くにいる人に尋ねた。
「若女将が死体で見つかったらしいですよ」
「ありがとうございます」
ありさは礼を言うと、宿の中へ入っていった。
「ありさっ!」
続いて、五人もありさの後を追った。
ありさ達は宿の中を走り回って現場を探した。
「ありさ、あそこじゃない?」千恵が指を指す。
「警察がいるからそうかも。行こう!」
ありさは早口で言うと、走り出した。
殺人現場は若女将の部屋だった。
六人は静かに現場へと入り、ありさは部屋を見渡した。
若女将が倒れていた場所には、ヒモのようなもので、若女将が倒れていた姿が作られていて、二人の刑事が立っていて、なにか話していた。
「死亡したんは、この宿の若女将の横田正代。ナイフで心臓ひとつきです」
若いほうの刑事が手帳を見ながら言う。
「この“二人の仲は…”ってのはなんなんや?」
中年の刑事はしかめながら言う。
「さぁ…なんでしょうね」
「それにこれは自殺か?」
壁に書いてある文字から、若女将の倒れていたほうに目をやりながら、中年の刑事は呟く。
「いや、違うでしょう。もし、自殺ならこの部屋のどこかに凶器が落ちているはずです。でも、ここには凶器は落ちていない。それに、心臓をひとつきの自殺は少なからずないでしょう。…ということは、他殺の可能性は大です」
二人の刑事の中で、ありさはきっぱりと言った。
「オ、オイ?! アンタは誰や?!」
中年の刑事が、動揺してありさに聞く。
突然の部外者に、オロオロする二人の刑事。
「すいません。突然、入ってきてしまって…。私は山下ありさ、高校生探偵です」
初めはすまなそうに謝ったありさも、自分の名前だけはしっかりとした口調で言った。
「探偵…? ただの高校生じゃないか?」
中年の刑事は、ありさを上から下を見ながら言う。
――し、失礼しちゃう!
「私のことは置いといて、事件のことですよ。自殺なら壁にあんな血文字なんて書けるわけないじゃないですか?」
ありさの指摘に、
「確かにそうやな」
若いほうの刑事は納得する。
「何納得してんのや? お前はこの娘の身元を調べてこいっ!」
「ハイッ!」
「何する気?!」
「嘘をついていると困るんや!」
「嘘ついてるって…誰が嘘ついつるっていうのよ?!」
ありさは信じられないという声を出す。
「あのねぇ…本当に私は探偵なんだってば!!」
「どうだか…」
「も―っ、何よっ?!」
怒るありさ。
「とにかく部屋に戻ってくれ!」
手でシッ!シッ!とやり、ありさ達に背を向けた。
――ムカッッッッ―――!! 何よ? この刑事はっっ?!
「あの刑事、ありさのことバカにしてんじゃね―の?」
怒り爆発の暢一。
ここはありさ達女子の部屋。
あの後、六人はそそくさと部屋に戻ってきたのだ。
「暢一、落ち着いてよ」
千恵が暢一をなだめる。
「こんな時に、落ち着いていられね―よ!」
全く落ち着かない様子の暢一に、
「あぁ…なんでこんなことに…」
落ち込むありさ。
「とにかく、ありさの身元が調べられているこの状況じゃ、どうにも動くに動けないな―」
トリスタンは途方に暮れた声で言う。
その時だった。部屋のドアが大きな音でノックされた。
理恵子が代表で出る。
「あの―…山下ありささんおられますでしょうか?」
さっきの中年の刑事の声だ。
「いるけど…どうぞ、中に入って」
理恵子は二人の刑事を部屋にも通す。
「すいませんでした。ありささんは東京で数々の難事件を解決をしていることを知らずに、失礼な態度をとってしまいまして…。誠に申し訳ありませんでした。どうか、今回の事件のお力に…」
中年の刑事は土下座をして謝る。若いほうの刑事も土下座をしている。
この行為に、六人は互いの顔を見合せる。
「う〜ん…私の身元もわかったみたいだしいいわよ」
ありさは考えながら許す。
「良かった…」
ホッとする二人の刑事。
「あの、名前は…?」
「私は京都府警の石井です。こっちは…」
「山元です」
「それで、事件はどうなのよ?」
二人の名前を聞いたありさは、本題へと入った。
「ありささんの言うとおり、他殺です。犯行時刻は午後六時前後です」
山元刑事が手帳を見て答える。「私達が宿に戻る約一時間前ってことね。やっぱり凶器はナイフなの?」
「鑑識の調べでは、果物ナイフのようです」
「じゃあ、第一発見者は誰なの?」
「この宿の料理長の福山健一です。料理のことに関して若女将に伝えたいことがあって、若女将の部屋に向かったら、若女将が血を流して倒れていたそうなんです」
次に石井刑事が答えた。
――同じ宿の人が第一発見者かぁ…。いかにもって感じで怪しいわよね。
「さっきの血文字は…?」
「血で“二人の仲は…”って書かれていました」
「どういうことだよ?」
トリスタンが難しい表情をしながら聞く。
「それは今調べている最中です」
――“二人の仲は…”ってなんだろう? どういう意味なんだろう? それに途中で文章が切れてるし…。切れてる…? もしかして…。
ありさはあることに気付いた。「ねぇ、血文字の文章が途中で切れてるでしょ?」
「ああ…そういえば…」
「もしかしたら、もう一人殺害されるんじゃないの?」
「ええ――――――っ?!」
ありさ以外全員大声をだす。
「だってそうでしょ? もう一人殺害しなきゃ、文章の続きが成り立たないでしょ?」
「それもそうよね」
理恵子は妙に納得している。
「とにかく次の事件をとめなければ…」
ありさは嫌な胸騒ぎを覚えた。「石井刑事、ここに宿泊している客を全員、部屋に待機させといてください。それと、従業員のみなさんも!」
ありさは強く指示した。
「わかりました!」
二人は足早に部屋から出ていった。
それから二時間半が経った。
ありさは暢一に呼び出され、宿の近くの公園に来ている。
二人は沈黙のままだか、ありさは事件を考えていた。
――“二人の仲は…”っていうのは、誰と誰のことなんだろう? 続きの文章も全くわからないし…。料理長の福山さんって人にも話を聞かなくちゃ。それにしても、若女将は命を狙われることでもしたのかなぁ…?
「なぁ、ありさ…」
考え込んでいるありさに、呼びかける暢一。
暢一にも今のありさが事件を考えていることはわかる。
「何よ?」
「事件のこと考えてる時に悪いんだけど、オレのこともう一度、考え直してくれね―か? オレ、ありさのことばかり考えてしまって…」
「何度聞いても同じよ。私の気持ちは変わらないんだから…」あっさり答えてしまうありさ。そんなありさの答えを聞いて、黙り込む暢一。
「さっき言ったじゃない? 私のこと諦めるって…」
わざと明るく言うありさ。
「やっぱりオレありさのこと諦められそうにないや」
「え…?」
ありさは一瞬、自分の耳を疑った。
「どういうことよ?」
「ありさが石川県から来るまでは、“絶対に諦める”って考えてたし、いつかは諦めなきゃいけね―んだって思ってた。でも、実際は無理だってわかったんだ」
「暢一…」
「口ではなんとでも言えるよな。自分の気持ちには嘘はつけね―よ」
目を伏せて、今の気持ちをありさに伝える暢一。
暢一の気持ちを聞いて、困惑するありさ。
「そ、そんなの勝手すぎるよ! 私の気持ちは…私の気持ちはどうなるのよ?!」
「ありさ…」
「どうしたら私を諦めてくれるっていうのよ?!」
「ありさに好きな男が出来たら、諦められるかも知れない」
「もういい! 宿に戻る!」
暢一にそう言い放つと、ありさはきびすを返して行ってしまった。
翌日、フロント近くの部屋で、事情聴取が行われていた。
石井刑事と山元刑事、そして特別にありさの三人で…。
「オレは部屋で原稿を書いていたよ」
そう答えたのは、大川智という男性でフリーライター。
この時、ありさにはなぜこの人がいるのかわからずにいた。
「それを証明してくれる人は?」
「いね―よ。一人で書いていたんだから…」
まるでナメた口調の智。
これには二人の刑事はムカついたらしく、
「アンタはもういい。次、野本さん」
ありさ達は向きを変える。
次に聞くのが、野本静奈。
物静かで、殺人なんて出来そうにないタイプ。
「野本さんは昨日の午後六時頃、何をしていましたか?」
山元刑事が尋ねる。
「土産物店にいました」
「山元、確認してこい!」
石井刑事は指示する。
「わかりました!」
山元刑事は急いで部屋を出ていく。
「次は福山さん。あなたは…?」
料理長の福山健一。
噂では、凄腕の料理長らしい。「料理の仕上げをしていました。部下達に聞いてくれればわかります」
「そうですか」
「福山さん、後ろの女の子は…?」
ありさは後ろにいる自分と同じぐらいの女の子に気付いた。
「この子は娘の美沙です」
「美沙さん…?」
「あ、はい」
「午後六時って、いつもは何してるの? 勉強かな?」
「ううん。お父さんの料理の手伝いしてる」
美沙は恥ずかしそうに答えた。「へぇ…偉いね」
感心するありさ。
「時々、手伝いするねん」
「そっか。ありがとう」
ありさが礼を言ったのと同時に、山元刑事が戻ってきた。
「お、山元、どうやった?」
「確かに野本さんは土産物店にいると店員が証言していました」
「そうだったか」
石井刑事はしばし沈黙になり、「…となると、アリバイがないのは、大川さんだけのようですね」
智に向かって言った。
「なんでオレが…?」
「犯人はアンタやろ?」
山元刑事は智が犯人だと決めつけている。
「あのな―、なんでオレが人殺しなんてやらなきゃいけね―んだよ?」
犯人だと決めつけられた智は、ムキになって言う。
その時だった。
「ありさっ!」
春佳が息を切らせて、部屋に入ってきた。
「どうしたのよ?」
「暢一が帰ろうとしてるの!!」
「えっ?! ごめん! 私、抜ける!」
ありさは急いで部屋を出て、自分の部屋へと向かった。




