【3♡ ハーフエルフは恋どころじゃない】 プロジェクトbooks[後編]
後編です。
周りにいた人達が慌てて他の羊皮紙を避けてくれたので、インク塗れになったのは1枚で済んだ。いや、1枚ダメにしてしまったのだ。
「そんな……ふぇっ」
エカテリーナは焦った。もう子供達が集まってくる時間だ。
エカテリーナが泣きそうになっていると、すっと男が近づいてきた。
「事情はわかっています。この絵を使って下さい」
男は自分の画材鞄の中から、ダメになってしまった1枚に相応しい内容の絵を選び出しエカテリーナに差し出した。
「僕はドーティと言います。画家をしながら旅をしていて、これは以前描いたものなのですが、貴女に差し上げます」
男はここ最近のエカテリーナの行動をずっと眺めていた。声をかけるきっかけを探していたのだが、ここぞというタイミングが今来たのだ。
「いいんですかぁ! ありがとうございます! ぐすっ。ドーティさん!」
エカテリーナは涙を浮かべていた瞳をドーティに向け、感謝の笑顔でお礼を言った。そして、貰った絵を含めた⑦枚を大事そうに抱えて子供達の元へ向かった。
ドーティは満足そうにエカテリーナの後ろ姿を眺めていた。
「おい、あんた」
ドーティは声をかけられた方を見る。
そこには数人の男達がドーティを睨んで立っていた。よく見ると色の違いはあるが同じ様なスカーフを首や腕に巻いたりポケットから見えるように出したり、何かのトレードマークの様だった。
青いスカーフを二の腕に巻いた男が前に出てきて言う。
「今回はエカテリーナさんが困っていたから仕方がねぇが、次回からはルールに従ってもらう」
緑のスカーフを首にを巻いた男がドーティの肩を強く掴みながら言う。
「まずは、こちらの適性審査を受けてもらうので付いて来てくれ」
そして、エカテリーナを見守ってきた男達は図書館の近くにある活動拠点へとドーティを連れて行くのであった。
半月後、長年にわたりエカテリーナを見守っていた2つの団体[エカテリーナさんに微笑まれ隊]と[エカテリーナさんに頬踏まれ隊]は突如現れた期待の新人ドーティ・シロートによって統一され、[エカテリーナさんを崇め奉り隊]となり、ドーティの描く〈聖女エカテリーナ画〉は隊員特典として広まっていった。
《 緑のスカーフ[微笑まれ隊]》
エカテリーナの身の回りのフォローをこっそり行う団体。直接話しかける許可を貰えるため人気の団体。しかし、なかなか順番が廻ってこない。2団体の会計も担当。
「荷物持ちます!」
「パン割引します!」
「いい天気ですね!」
《 青いスカーフ[頬踏まれ隊]》
エカテリーナに近付く不埒者を排除・粛正する団体。2団体内の秩序にも目を光らせる。損な役回りが多くあるが、図書館での配置を許されており、エカテリーナを目にする機会が多い。
「怖いか糞ったれ!当然だぜ、元冒険者の俺に勝てるもんか!」
「小銭だ!小銭をだせ!」
「助けてやると約束したな、あれは嘘だ!」
《 ピンクのスカーフ[崇めたて奉り隊]》
「ようこそ! 歓迎しよう!」
「まず、この隊の規約書111枚にサインを」
「読んで頂きありがとうごさいました!」