【2♡ ハーフエルフは恋どころじゃない】 プロジェクトbooks[前編]
引き続きエカテリーナ。
エカテリーナ111歳になりました。
前編・後編とあります。
ここに1冊の本がある。
『女神が造りし世界』
この本を作り出した心優しき女性と、彼女を陰ながら支えてきた男達の話をしよう。
グリグラ国には大きな国立図書館があり、エカテリーナは親子3代で、ここの司書を勤めてきた。
エカテリーナの仕事は図書館の本の貸し出し管理・傷んだ本の修復・蔵書の為の買い付けなど、本に関するあらゆる仕事をした。記憶力がいいとは言えないが100年以上生きている為、この広い図書館の中で目当て本をすぐに探し出す事は出来るようになっていた。
エカテリーナは昨日111歳の誕生日を迎えた。
人族の平均寿命が70歳と言うこともあり、この国に住むほとんどの者が子供の頃からエカテリーナを知っていて。エカテリーナも皆の本の好みを把握していた。
穏やかで優しく時には強い。そんなエカテリーナを皆が慕っていた。誕生日も盛大に祝った。
ある日、図書館の児童書コーナーで、エカテリーナが子供達に本を読み聞かせていると、何人かの子供が集中が切れたのか遊びだした。そのうち1人の男の子が隣の女の子の髪を引っ張って泣かせてしまう。
「こらっ」
ペチン
エカテリーナはいじめっ子に容赦なくビンタした。容赦なくと言ってもエカテリーナは力が無いので、全力のビンタも子供がキョトンとする程度である。司書は重い本を持つこともあるはずだが、いつも何故か周りの人が助けてくれるので、体力はあっても筋力スカスカだった。
「ダメですよ。めっ!」
おっとりとした口調だが、本人は怒って言い聞かせているつもりだ。周りから見たら、プリプリしていて可愛らしい。
エカテリーナは、いじめっ子の前にしゃがみ、目線を合わせ、じっと見つめる。
いじめっ子がソワソワしだしても見つめる。
じーーっと見つめる。
「……ごめんなさい」
いじめっ子がエカテリーナに謝る。
エカテリーナはまだ、じーーーっと見つめる。
「ごめんね…ぼくとあそんでほしかったんだ」
いじめっ子が隣の女の子に謝る。
エカテリーナはにこっと笑い。本に集中出来なくなっていた子供達の為に、広場に遊びに行く事を提案する。
子供達が嬉しそうに笑顔を浮かべ、遊びに行く準備をする。
その姿をにこにこと見守りながらエカテリーナは考える。
子供達は文字だけの本では集中出来ないなと。でも、この話の内容は子供達にも知って欲しい。
そんな考えから、エカテリーナの絵本制作プロジェクトが始まった。
まずは文章を子供にもわかるよう簡単な内容にして⑦つに区切ってまとめた。そして、⑦つの文章に合わせて、エカテリーナ自ら挿し絵を描きだした。大きな羊皮紙やクレヨンなどは、何故かたまたま持っていた人たちが快く譲ってくれた。エカテリーナは作業に集中した。
あの男の子は薬師の父と2人で旅をしていて、4日後の朝に国を出発する冒険者パーティに付き添って、また旅に出るのだ。
あの男の子にも読んでもらいたい。
3日後の夕方に子供達に本を披露すると約束した。何としても間に合わせる。その熱い想いが彼女を動かした。
エカテリーナは寝る時間を削り、家にも帰らず、図書館で制作作業に没頭した。食事に気をまわす余裕はなかったのだが、いつも何故か机の上にパンや飲み物があり、無意識のうちに食べながら作業を続けた。
3日後の夕方。絵が完全した。文章を書き込む時間は無かったが、エカテリーナが語りを入れながら絵をめくる紙芝居にする事にした。子供達と約束した時間はもうすぐ。間に合った。エカテリーナは満面の笑みを浮かべた。
間に合ったと喜んだ時だった。エカテリーナの腕がインク瓶にあたり、インク瓶がグラッと傾いた。
パタン
黒いインクが羊皮紙に染みていく――。
イケメン冒険者A・B・Cが現れた!
しかし、エカテリーナは気づいてない!
イケメンAが挨拶をしてきた!
しかし、エカテリーナはまだ気づいてない!
イケメンBは攻撃を仕掛けてきた!
エカテリーナは天然でかわした!
イケメンCは金持ちアピールをした!
しかし、エカテリーナには通じなかった!
騒ぎを聞きつけてマッチョな図書館長が現れた!
イケメンA・B・Cは逃げ出した!
図書館長「ご利用ありがとうございました!」