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【1ℵ 妖し花の精】 木の虚の中で

新しい登場人物。

花の名前は椿と菫と蒲公英。

 小さな少女は、小さな少年の声で目を覚ます。

 お気に入りの木のうろにお気に入りの赤い花びらを敷き詰めてつくった寝床で、小さな少女は先程まで見ていた夢を反芻する。

 夢に出てきた女。赤い髪・赤い瞳・赤い唇、それを際立たせる白い肌。自分と同じ特徴を持つその女。だけど幼い見た目のままの自分とは違い、人族の大人の魅力をもつ女。見た目だけでなく、どこか自分に似ている女。


「あの女は人族として生まれた私かしら」


 夢の女は男と一緒だった。銀と黒が混じった髪に紫の瞳、浅黒い肌の大人の男。


「じゃあ、彼は人族の私の恋人かしら」


 その男の特徴は、友人にとても似ていた。だけど彼も私として同じく幼い容姿のまま長年生きてきた。人族の様な大人の姿にはなることはない。では、夢の男は人族として生まれた彼の姿だろうか。


「私の恋人として夢に出てくるなんて」


 何て、不躾なんでしょう!


「万死に値するわ」


「起きたのなら返事してくれよ、ミー」


 虚の外から、ひょこっと小さな少年の銀髪が覗き、紫の瞳と目が合う。

 さっきから木の下で私の名を呼ぶ彼の声が聞こえていたが、夢の世界を邪魔されたくなくて無視していたのだ。


「本当に万死に値するわ。女の寝床に勝手に入るなんて」

「だって、呼んでも返事が無いんだもの」

「貴方がうるさいから、私の夢にまで出てきたわ。まったく、台無しよ」

「へぇ、どんな夢だい?」

「言う必要あって? まぁ夢の貴方の方がいくらかましだったわね、大人っぽくて」

「ひどいなー」

「子どもっぽいのよ、貴方」

「僕たちに大人・子どもは関係ないじゃないか。まったく、人族に気触かぶれ過ぎだよ、ミーは」


 小さな少女は花の妖精。赤い花びらが筒状に重なり合って咲く花の名はカミーラ。この花は散る時に丸ごとポトリと落ちる。その落ちた花の中から、小さな少女は生まれた。


「カミーラよ。その呼び方するの貴方だけよ、ヴァイオレット」

「ヴィーって呼んでよ。だから、良いんじゃないか」


 小さな少年は土の妖精。紫の小さな花を咲かす野草の根本から生まれた。浅黒い肌に深い紫の瞳を爛々と輝かせながら、カミーラに笑いかける。


「呼ばないわよ。恋人でも無いのに」

「じゃあ、恋人になったら、ヴィーって呼んでおくれ。でも僕は先にミーって呼ぶからね」

「貴方と恋人になる予定なんか無いわよ。私は人族の大人の男性と恋に落ちるの」

「人族と恋なんて無理だよ。僕にしておきなよ」

「無理じゃないわよ。妖精族と人族が恋をしたからエルフ族が生まれたのよ。私にだって出来るわ」

「はぁ、ミーがあきらめるのを僕は待ってるよ。人族で思い出したけど、これを伝えに来たんだった」

「私はあきらめ無いわよ。で、何よ?」

「西の森に人族が何人か来ているんだ。だけど、会いに行ったりしちゃダメだよ! こいつら、何か変なんだ。昨日、ダンデがこいつらに見つかって追いかけられたんだって!」

「ダンデライオンが逃げきれるならたいしたことないわね。あの子、名前と違ってかなり鈍くさいじゃない」

「とにかく、西の森には行っちゃ行けないからね」

「はぁい。わかったわよ」

「じゃあ、僕は東の森にも伝えに行くから。またね、ミー」

「本当、律儀ね。じゃぁね、ヴァイオレット」


 ヴァイオレットは、くるんと体を捻って虚の外へと飛び出した。虚は木の高い所にある。こんな高さから飛び降りるのは人族なら危ないのだが、彼は妖精だ。カミーラの様に羽がある妖精では無いが、代わりに身のこなしが軽い。くるくるすとん。着地音もたてずに無事地面に降り立って、東の森へと跳ねていった。


「何でダメなのよ。友達になりにきたのかも知れないじゃない」


 それにダンデライオンが捕まらないなら、私なら平気。ちょっと、見に行ってみようか。


 赤い花びらを口元に当てて、カミーラはくすりと笑みをこぼした。


《おじ神》言ってみたい言葉!

《アオイ》ええい、ままよ!

《おじ神》ここは、俺に任せろ!

《アオイ》死すら生温い!

《おじ神》天上天下唯我独尊!

《アオイ》万死に値する!


《カミーラ》読んで頂き有り難う御座いますわ。

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