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俺と過去の熱、記憶は



重い羽を無理矢理動かして紅竜は飛んでいた。普段から熱い身体だが、今は異常な熱を持っている。


熱い。身体が、羽が、頭が、熱い。

それでも紅竜び続ける。朦朧とする意識の中で考えるのはただひとつだ。


逃げなくては。される前に遠くへ逃げ―――


広げた羽のすぐそばの空気をを鋭い何かが切り裂く。


眼下から聞こえてくる怒号。


自分に向けられた矢。


燃える都市。


人間の合図を待つかつての仲間。

は速度を上げる。



―――どうして、こうなったのだろう







『――して…』


自分の口からこぼれた声で紅竜は目を覚ました。身体はまだひどく熱い。


『――――っ』


逃げなくては。自分は気を失っていたのだろうか。今は何時いつなのか。眠ってしまっていたのか。早く。もっと遠くへ。

パニックになりなら紅竜は羽を広げようと体勢を変え、激しい頭痛に崩れ落ちた。そして身体に違和感を覚える。羽の感覚がない。尾の感覚もない。目に映る己の手は赤ではなく肌色で爪は丸い。


これは、人間、の姿か?


とのできない頭に触れると、さらさらと髪もある。やはり人間の姿だ。


『…ベッド……家…?』


暴れた際に布団は落ちてしまっていたが、どうやら自分は室内でベッドに寝かされていたらしかった。でもそれならば一体誰が。思い出そうとしてまた頭痛に襲われる。


『…くそ…っ』


早く逃げろ。頭の中で自分の声が叫ぶ。だが。


『……?』


奇妙な感覚に、紅竜は頭を押さえたまま静止する。


逃げる。自分は逃げなくてはならない。それはわかっている。追われている。それもわかっている。だが。


『…………』


突然の事態に身体が震えた。わからなかった。ひとつも思い出せなかった。


何から逃げていたのか。

どこから逃げてきて、ここはどこなのか。


『…ったく、めんどくせぇな。なんで俺がこんなことまで…』


『…!』


再びパニックになりかけたが、そこで部屋に誰かが入ってきた。入ってきた男は紅竜が目を覚ましているのに気がつくと、少し驚いた顔をして、次に渋い顔になった。


『起きたんなら呼びに来いよな』


不機嫌な声。男は文句を言いながらも椅子を引っ張ってきてベッドの近くに座った。持っていた木桶を置くとタオルを浸して絞る。


『寝ろ。まだ熱あるぞ、お前』


布団を押し付けられて、呆然としたままの紅竜は楽な体勢で横になる。


この男が自分をここまで運んだのだろうか。


『…俺は、なぜここにいるのだろうか』

『あ?』


濡らしたタオルが額に触れると心地よく、本当に熱があったのかと考える。男はぶっきらぼうに答える。


『――墜ちてきたんだよ』


男が言うには、どうやら自分はこのマリンガという町の上を飛んでいる際に墜落して、竜ギルドとかいう団体に保護されたらしい。


『では…俺はなぜ、人の姿をしている?』


男はそれも覚えてないか、と頭を掻くといきなり立ち上がり部屋の棚をあさり始めた。戻ってきた時には彼は手鏡を持っていた。ぼんやりとその様子を見ていた紅竜に男は手鏡を渡す。見るように促され鏡を覗いて紅竜は驚いた。


『これは…一体…』

『俺もよくわかんねぇけど。お前もしかして人間姿初めてだったりする?』


鏡に映った姿は目の前の男と瓜二つだった。髪と目の色が違うが、顔つきはそっくり、体型もよく似ていて。髪が自分のほうが少し長いだろうか、いやそこも大差はない。


『わからない…』


人間姿が初めてかという男の問いの意味さえ理解できない。男は溜息混じりに言う。


『混乱してんのか?――まあ、いいか。ところでお前、名前は?』

『…なまえ?』

『ああ。下のやつらが聞き出して来いとか何とかうるさい』


名前。やはりこれもすぐには思い出せず、記憶を辿ろうとしてあの頭痛に妨害される。


急に呻いた紅竜に男はぎょっとした。そして熱を下げる薬を探してくると背中を向けた。その背中にむかって紅竜はこう答えるしかできなかった。


『…わからない』


と。


声は震えていた。





テストは終わったけども

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