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私達と墜ちた紅竜は

ナチがアイリスに掴みかかろうとキッチンのカウンターを乗り越えたところで、また誰かが食堂に入ってきた。


「帰ったぞー…って、何やってんだ、ナチ!」

「…げっ、グレッグ…」


いきなり怒鳴られたナチは相手を認めると毒牙を抜かれて大人しくなった。セリナが入ってきた男にひらひら手を振る。


「グレッグも仕事だったん?」


目を逸らすナチを一瞥して男はセリナの隣の椅子に座る。


「隣の…フェルセンまでの送迎。デントは疲れたらしいから竜舎で寝るとよ」


この厳ついおじさんもマリンガ支部のメンバーだ。グレッグ、本名はグレゴリー•カロット。デントというのはグレッグの竜の名前だ。


「で、ナチ。今何をしようとしてたか言ってみろ」

「…別にー」

「ふぅん、そうか」


いつも眉の間に皺が寄っているような人で、短く切った髪もあご髭も日焼けした肌も、何もかも厳つい。別に嫌いなのではない、グレッグは優しいし仲間思いだ。ただ、説教が長くて苦手なだけで。


『俺に殴りかかろうとしてたんだよな』

「ちょっ、わっ、アイリス!」

「ナチ?」


その説教がナチを泣かせるほど怖いだけだ。


「ナチお前なぁ。14にもなって言葉より先に手が出るってのはどうなんだ」


ムスッと頬を膨らませて黙ったナチをアイリスがニヤニヤしながら見ている。


「14じゃなくて15歳やなかった?」

「…まだ14。来月の誕生日で15」

「そっか、ケーキ作らんとなぁ」


若干、いやかなり空気が読めない発言をしているセリナは置いておいて。


『ケーキ作るのかっ?仕事!おれが手伝うぞ!』

『そろそろ昼飯の時間だ。テュイルはそれ手伝っとけ』

『おう!アイリスも手伝うか!』


一心不乱に続けていた皿拭きが終わって話に乱入してきたテュイルも置いておいて。


今逃げてもどうせ捕まるしなーとそんなことを考えていると、急に扉が大きな音を立てた。…誰かぶつかった?


「大変です!」


ぶつけた肩を押さえながら飛び込んできたのは、セリナと同じくらいの年の男。何やら血相を抱えて一体どうしたのか。


「どうした、アドル」


普通ではないと悟ったグレッグが問う。


「ああ…グレッグさん。大変なんです、急いで来てください。セリナさんとナッちゃんも、アイリスもです!」


アドル――アドル・カーフェン、言わずもがなマリンガ支部のメンバー――がここまで慌てることは珍しい。いつもは大声を出すことも少なく、ほわほわ笑っているのに。


乱れた黒髪をそのままにアドルは捲し立てる。



「竜が…いえ、紅竜です!紅竜が墜ちてきました!」



「『……は?』」


それはもう見事なまでに皆異口同音に言って固まった。


今アドルは何と言った?竜が墜ちた?それも紅竜種が?紅竜種といえば獰猛な性格で人に懐かず、緑竜種と比べると2倍から3倍の巨体を持つ竜だ。この支部にはもちろん紅竜種はいないし、ナチも実際目にしたことはなかった。


「どこにだ」


まず我に返ったグレッグが冷静に尋ねる。


「海岸です。西の…岩場になっているほうです。僕、さっきまで昼ご飯の買い物に行ってたんですけど、ここまで帰ってきて何気なく海のほうを見たら竜が墜落するところじゃないですか!それも大きな紅竜で…!とにかく行きましょう、町の人たちもあれだけ大きければ皆さんご覧になったと思います。騒ぎになる前に…」


ギルドを出るとアドルは自分の竜とグレッグの竜とで行けば早いと竜舎へ走った。すぐに二頭の緑竜をつれて戻ってくる。すでにどちらも竜の姿をとっている。


「グレッグさん、デントを。セリナさんは僕とチェスに」

「じゃあ私はアイリス」


アイリスに乗ると言おうとしたナチをそのアイリスが遮った。


『俺は飛ばない』

「アイリス!何言ってんだこんな時に!竜に戻れ、乗せろ!」

『飛ばない』


ありえない。一大事だというのが分からないのか、こいつは。こんな時までも羽が疲れるなのか。セリナやアドルに言われても『飛ばない』と言い張るアイリスにナチがこぶしを振り上げたところで、グレッグが止めた。


「もういい。時間がない。ナチはチェスに乗れ、アイリスは…行く気があるのなら俺のデントに乗ればいい」


ナチはしぶしぶアドルの竜に跨り、結局アイリスも竜の背に乗った。


『行くぞ』


竜たちが空へ舞い上がる。羽を一度、二度羽ばたかせただけで少し高台に建っている支部から、もう町の上まで飛ぶ。初めて竜に乗る場合にはこの滑空速度は恐ろしいかもしれないが、ギルドメンバーからしたら慣れたものだ。セリナの前、たてがみにつかまりながら海岸の方を見る。まだ紅竜は見えない。


「チェス、もう少し西です。もう少し、もう少し…」


チェスのすぐ後ろにデントが続く。ナチが何気にそちらを振り返るとアイリスは不機嫌な顔をして海のほうを見ていた。


あいつは何がしたいんだ。自分で飛んだほうが大人を2人乗せた竜よりも速く飛べるだろう。そんなに、こんな時でさえ、私を乗せたくないというのか。


「あそこです!見えました!」


強い風の中、後ろのグレッグたちにも聞こえるようアドルが大きな声で言う。彼が指差す先、海岸の西の岩場に、赤いものが見える。


「セリナあれが…」

「うん、紅竜やわ」


セリナは本部時代に紅竜を見たことがあるのだという。


「でも…あの子どうしたんやろう?」


竜が紅竜のいる岩場に降り立った。





思いついたときに書いちゃう

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