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風の日と私を助けた緑の竜は



アドルをつれたチェスが帰ってきたのは数分後だった。しかしその数分がセリナにとってどれだけ長かったか。


「君たちですか、迷子というのは」


相変わらず続いていた喧嘩をものともせず、アドルはいつもと変わらない口調で話しかける。


『誰が迷子だ。ちゃんと許可とって休んでたっつーの』


青年――アイリスが言い返し、少女はそのへんのことを覚えていないのか眉を寄せる。


「ええ、そのことはチェスから聞いてます。運悪くセリナさんが来なかったら見つからなかったでしょうね」

「アドルが竜舎に行ってこいって言ったんよ?」

「そんなことは言ってません。セリナさんが自分から行ったんでしょ?まったく…グレッグさんがいない時に限って、こういうことが起きますよね」


なんか…アドル怒っとるわ。言葉に棘がある気する。なんでやろ。


皿洗いのことはすっかり忘却の彼方なセリナは、今のアドルには勝てないと察して身を引く。アドルはどちらかと言えばひょろっと細長い体格で頼りなさそうに見えるのだが、怒涛の勢いで正論をぶつけてグレッグにすら勝つ。しかも笑顔で。その時のアドルはそれはもう怖い。


「さて。寒いですし、中に入りましょう?ずぶぬれのままでは冷えてしまいますよ」

『大丈夫だ。俺は竜だ』


それでもアイリスは屈せず出て行くと言い張る。


「君は大丈夫でも、そっちの女の子は人間でしょう。僕だったら自分のことより先に彼女のことを心配しますけどねぇ」

『………』


だから雨と風が止むまで中に入ってください?詳しいことはそれから聞きますから。


こうして有無を言わせずアドルはふたりを捕獲することに成功した。










「名前、聞いてもええ?」

「え」


少女を引き連れて階段を登りながらセリナは尋ねる。タオルを被った少女は大人しくついてきている。


「なんて呼べばええかわかんないやろ?…って、私もまだ名のってないっけ?」

「……」

「私セリナね、セリナ・フィリエ。あ、ここ私の部屋、入って入ってー」

「え、え」


戸惑う少女を無理矢理押し込んで、ドアを閉める。少女にちょっと待つように指示すると、セリナはクローゼットをあさる。


「それで名前は?」


どこにしまったかなー。確かここにあったんやけど。背中越しにもう一度少女に尋ねる。水が滴らない程度にはタオルで拭いていたが、まだ濡れて身体に張り付く服は、見ていてかなり寒そうだ。


「フ…じゃなくて、ナチ。ナチって呼んでください」

「了解、ナッちゃんやな!」

「ナッちゃん!?」


少女は頓狂な声を出す。ナチと呼べと今言ったのに。


「ナッちゃんってかわいいやん。あ、これだ、あったあった」

不服そうな少女――ナチにクローゼットから引っ張り出した服を渡す。今ナチが着ているようなドレス風のワンピースだ。


「これは?」

「着替え。濡れたままやと気持ち悪いやろ?私が王都にいたころ買ったんやけどね、もうちっちゃいから。でもナッちゃんにはちょっと大きいかもなー」

「そ、そんな、このままでも大丈夫だから!いい、大丈夫!」

「だーめ。じゃあ着替え終わるまで私は外におるね、終わったら呼んで」


服を返す前にセリナは出て行ってしまった。渡された服を掴んだままナチは呆然とする。階段を降りて行く音が聞こえたから、セリナは一階で待っているのだろう。呼んで、と言われたからには着替えないわけにはいかない。


「……ひらひら」


なぜセリナはこの服を選んだのか。ワンピースを身体に合わせてみると、やはり少し長い。


私がこんな服を着てるからか…。


濡れた服はセリナに言われたとおり気持ち悪い。それに脱ぎにくい。なんとかもとの服を脱いで、それをどうしようかにも困った。


ごめんなさい、セリナさん…!


とりあえず濡れた服は床に置かせてもらうことにして、タオルで身体を拭く。下着はこのままで我慢しよう。新しいワンピースに着替えると袖で手が隠れる。一度折り返して長さを調節した。


「これで、セリナさんを呼びに行けばいいんだ、よな」


脱いだ服と濡れたタオルを両手で持って部屋を出た。階段を降りて…確かこの部屋が食堂だと言っていたと思う。最初に通された部屋だ。その時に別れたアイリスはアドルという男の人に連れていかれた。乾かすとか触るなだとか聞こえていたけれど、ざまあみろだ。


「セリナさーん…?着替えましたー…」


そろそろ食堂の扉を押し開けて顔だけのぞかせる。


「終わった?そんなとこおらんで中までおいで?」


セリナはテーブルを取り囲む椅子に座ってマグカップで何か飲んでいた。いつの間に着替えたのか彼女も服が変わっている。


「あ、濡れた服はこっちにちょうだい。えーと、デントー?デントちょっと来てー?」


すぐさま食堂に入ってくる緑髪の男。ボサボサの髪を適当にひとつに束ねた荒々しい雰囲気の人物だ。年の頃は40代半ばぐらいか。ナチは今までどこにいたのだろうと彼を見る。


『どしたよ、セリナ嬢。んな大声…ああ、また雑用。……ほら服をよこしな』

「あ、ああ」


去って行く後ろ姿を見て、誰だ?とはてなを浮かべるナチにセリナが気づいて、あれは緑竜だと教えてくれた。それで気づく、さっきまでの建物にいたあの竜だ。そういえば風が強いから避難するというようなことを言っていた。


「うん、似合ってる。下着や他の服は明日買いに行こうか。何にも持ってないんやろ?」

「そうだけど…でもアイリスがすぐ出て行くって言ってたから」


風が止んでいたらアイリスはきっと朝一ででもナチをつれてここを出るだろう。


「アイリスくん、ねー。…ね、アイリスくんとはどういう関係なん?さっきの話じゃナッちゃんが名前付けたみたいなこと言っとったけど」


ナチを座るように促して自分も隣の席に座る。そして温かいココアまで渡されては逃げ場がない。


「アイリスは、私を、助けてくれたんだ。だから。一緒にいる―――」


ナチはぽつり、ぽつりと言葉を選びながら話し始める。





セリナの方言ですが、関西弁と作者の地元の方言が混ざった、謎の方言です。

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