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7-2「空飛ぶ少女」

 二章「空飛ぶ少女」



 朝日が薄絹のカーテンを通して射し込んでいた。

「?」

 カイゼルは柔らかな寝台の上で跳ね起きた。

 途端に吐き気をもよおし、思わず口元を押さえ、背中を折る。身体にかかっていた厚手のカバーから、ふわりと甘い花の香りのようなものが舞い上がったが、今はそんな些細な匂いでもうっとおしく感じる。

 しばらくその体勢で吐き気をやり過ごし、全身にじっとり冷や汗をかいた頃、カイゼルはゆっくり頭を上げた。

 広い寝台だ。

 真っ先に思った感想がそれだった。だが、見覚えがない。

 カイゼルは口中に残った胃液の味に、堪らなく不快感を覚えたが、何よりも今は状況がつかめない混乱の方が大きい。

 とにかく周りを確かめようと起き上がり、もどかしくなるほど柔らかい寝台に苛立ちながら、天蓋の布をはねのける。

 足首が埋まるほど毛足の長い絨毯の上を走り、手近にあった窓の掛け金を外して夢中で外に飛び出した。

 ひょう、と冷たい風に、身を震わせる。

 寝間着一枚の姿には、こたえる寒さだ。そして外にあった風景は、この風と同じく寒々としたものだった。

 どこまでも続く灰色の庭園。

 もちろん、カイゼルの記憶にはない場所だ。

 土の付いたままの足で室内に戻ると、いつの間にそこにいたのか三人の使用人が跪いていた。

「ご機嫌うるわしゅう」

「ご所望のものはございますでしょうか」

 満面の笑みを浮かべる彼女達。

「な……。こ……ここは一体、どこなんだっ!」

 しかしカイゼルの叫びは無視される。

「まずはお湯浴みの後、お召し替えを」



 その後は、わけもわからぬまま浴室に追い立てられた。

 さしてひろくない部屋の三分の一が、床より一段低く造られ、タイル張りの湯槽になっていた。カイゼルのような貴族でもない一般市民の家庭では、まず家に浴室というものがない。部屋の中に置いた大盥に湯を張り、そこで身体を洗う。

 もっとも、カイゼルのいた学院はこういった形式の風呂だったので、あまり戸惑いはなかった。だがその場には、さらに数名の使用人が待ちかまえていたのだ。

 さぁ、こちらへと洗い場の真ん中まで押しやられたかと思えば、即座に寝間着の紐が外される。元々脱ぎ着しやすい形の服なので、二人がかりでてきぱきと裸にされてゆく。

(ま、待て、これって……もしかして……)

 洗い場の真ん中には、木製の背もたれのない椅子が置かれ、その周囲にはブラシと桶を持った者達が立っている。

 しかも、全員女性だ。

 どうやら今からカイゼルと洗おうと待ちかまえているらしい。

 そんな手間のかかる入浴など、今時どこの貴族か王様か、とにかくカイゼルも話にしか聞いた事のない光景に唖然としてしまう。

 そうこうしている間に、あっさり寝間着は脱がされていた。

「ち、ちょっと待ったぁっ!」

 持って行かれそうになった寝間着を奪い返し、カイゼルはそのまま壁際まで逃げ出した。本当はもっと遠くまで行きたかったのだが、浴室の出入り口は閉ざされ、さらに見張り役が一人立っている。

 使用人達は動揺の色ひとつ見せず、逆ににこやかに笑って見せた。

「どうか私達にお任せを」

「さぁこちらへ」

 しかし、じゃあお願いします。とはとても言えない。せめて女性同士なら、抵抗は感じても何とか耐えられたかも知れないが、カイゼルは男で、しかも微妙な年頃だ。

(もっとも、男同士でもこれは勘弁してくれ……)

 一瞬想像しかけて、思わず浮かんできた光景に寒気がして頭を振る。

 そんな内心の葛藤を知ってか知らずか、使用人達は笑いながらカイゼルににじり寄ってくる。

 変わらない表情には、逆に寒気を誘うものがあった。

「か、身体くらい自分で洗えるっ!」

 カイゼルは半泣きで走り出すと、その勢いのまま浴槽に飛び込んでしまう。

 盛大な音と派手な水しぶきを上げ、カイゼルは自分の膝までの深さがある浴槽内で激しく泳ぎ、端まで逃げた。そこでも、しっかり寝間着は握りしめたままだ。

 さすがの使用人達も、ここまで激しく抵抗される事は予想外だったらしく、少し困ったような顔をした後、カイゼルの言う通りにした。

 このままではらちがあかないと踏んだのだろう。

 それでも、四五人が常にカイゼルの側に立ち、髪を洗っていれば湯桶を持って待機したりと、まったくもって、当人には落ち着かない入浴となった。

 身体を拭く頃にはカイゼルも半ば諦め、もはやされるがままになっても文句も出ない有様だった。

(風呂って、疲れを取るところだよな……)

 入浴だけで盛大に疲労したところで、カイゼルの苦難は終わらなかった。

 一体、何の為にそこまで手をかけるのかとばかりに何人もの使用人がカイゼルを取り囲み、肌に香油を塗って、髪の毛を切りそろえる。化粧は丁重にお断りさせてもらった。そして最後に、これまた高級そうな衣装を着せ付けられた。

 衣装には袖や襟に凝った刺繍が施され、まるで、演劇の主演俳優にでもなったような気分になる。

 とりあえず解放された頃には、長椅子の上で身動きする気力も失せていた。

 そして、その間、誰一人として彼の質問に答える者はなかった。



「あのさ……」

 唯一の出入り口らしい扉の前に、二人の近衛兵……のような格好をした女性が立っている。

「は、何でありましょう」

 完璧な軍隊口調にくらりとめまいがしたが、カイゼルは気を取り直す。

「さっきも……別の人に聞いたけど、ここはどこなんだ?」

 しかしその問いには、沈黙のみが返ってきただけ。

 着替えが終わってから、一時間は経過しただろうか。時計がないので正確な時間など知りようもない。そしてその間、彼は完全に放置されていた。

 何か説明のひとつくらいして欲しかった。だがしかし、現れる女達は皆一様に愛想は良かったが、質問という質問はことごとく無視される。

 一応、カイゼルなりに推測はしてみた。

 まず、場所はギィカウ君主国ではないだろう。もしくは、領内でも市街からは大分離れた場所になる。

 この部屋と外の風景から見ても、この屋敷は君主国とは建築様式がまったく違う。あそこは経済中心地の首都付近に人口が集中している為、基本的に平屋建てというものがない。土地の無駄遣いだからだ。故によほど金のある実業家でもなければ庭付きの邸宅など市街には望めないのだ。

 故に、領内から遠く離れた場所か……いっそ異なる文化圏の土地に来ていることになる。

 そして時間的なものだが、今、恐らく昼前だろう。気を失う前は昼下がりの市場にいたので、明らかに日付が変わっている。一晩気を失っていたのか、それとも何日も経過しているのか……それはわからない。そして、何より吐き気が今も続いているので思考がまとまらなかった。

(問題は、ここの奴等が俺をどうしようと考えているかだ)

 扱いは、丁重すぎて閉口しているくらいだ。だが、恐らく彼女達は何者かにそうするように命令されているだけで、事情など何も知らないのだろう。

 カイゼルはしばし黙考した後、再び口を開く。

「……喉が渇いた」

「かしこまりました。何かご希望の物はございますか?」

「…………リンゴの果実水。生クリームも盛ってくれたら嬉しいよ」

「は、少々お待ち下さいませ」

 そして壁際にあった伝声管のふたを開け、何やらしゃべった後、再び元の直立姿勢に戻る。

 そして……間もなく、カイゼルの前に生クリームのたっぷりのった果実水が置かれた。

 確認はしていないが、恐らく希望通り、リンゴの果実水なのだろう。

 カイゼルはそれを眺め、困惑と疲労の乗った重い息を吐いた。

(何なんだ……?)

 何の説明もなく、質問には一切答えがない。

 しかしそれ以外の要求や待遇は、王様か貴族並みの豪華さだ。

 そして……これも予想だが、自分はこの部屋から外には出られない。

 先ほど飛び出した窓外の庭にも、巡回する兵の姿がちらほら見えた。




 日は傾き、すでに夜になっていたが、カイゼルが頭痛と吐き気に何もする気力が湧かず、ぐったりと長椅子に身を預けていた。

 そんな折、不意に訪問者の存在を告げられた。

 扉が開けられ、何者かの足音が聞こえたが、カイゼルは顔も上げない。

「ほう、もっと取り乱しているかと思ったが、意外に大人しくしているな」

 冷ややかな声が室内に響き、近衛兵達が音もなく次の間に下がる。

「……生憎、気分が悪いんだ。叫ぶ元気もないんだよ」

 それは事実だった。先ほども豪勢な食事が出されたが、カイゼルは手も付けずに片付けさせた。

 視力矯正器具を付けた男は、長椅子に横たわる少年の姿を眺め、口元を面白そうに歪める。

「空間転移は人間には負担が大きいからな。だがそれだけの口がきけるくらいだ、じきに回復するだろう」

 男の名は、ファルゼン。シンフォルン聖教国で政治を取り仕切る四公の一人だ。

 だが見た目通りの人間でない事を、カイゼルは理解していた。

 どういった理屈か、この男は銃で撃たれ、剣で切り裂かれようと何の痛痒も感じていないらしく、傍目には不死身の存在に見える。

 そしてカイゼルをここまで連れてきたのは、この男だ。

 あの時、ギーヴルの元に駆け寄ろうとした彼を押しとどめ、まるで荷物のように抱え上げられたかと思うと、押しつぶされるような圧迫感を受け、カイゼルは意識を失った。

 そして目覚め、現在に至る。

「……へぇ、俺を心配するんだ」

「当然だ。貴様に死なれたら、何の為にあそこまで出向いたのかわからなくなる。もう大陸中を駆けずり回るのはたくさんだからな」

 カイゼルはゆっくりと身を起こす。それだけの動作でも、今は苦痛だった。

「…………俺を……殺すのか」

 起き上がったカイゼルの言葉に、ファルゼンは失笑を漏らす。

「ふん、貴様の命など、俺にはどうでも良い事だ。ただ自由にさせておくと、こちらの計画に支障が生じる可能性があるからな。手元に置かせてもらう」

「……」

「何ですぐにその〈計画〉を実行しないのか、とでも言いたそうだな。こっちも貴様の顔なんぞ見ていても面白くも何ともない。それでも……時間だけはさしもの俺も、どうにもできんからな」

「じゃあその猶予とやらは、どれくらいあるんだよ。それとも、俺には教えられないのか?」

「ふん、気後れせん奴だ。そうだな、人間の時間で言えば、来春あたりか。それまでは手は出さんし、相手にもせん。万一死なれては困るからな。望みもなるたけ叶えてやる。時が来るまでは、せいぜいこちらの機嫌を損ねないよう、賢く振る舞う事だ」

 話はそこで終りだと、ファルゼンは踵を返す。

「……あんたは、一体何者なんだ」

 彼は足を止める事もなく、その場を後にした。



 豪勢な食事、日々取り替えられる清潔で華麗な衣装。笑っているが、奇妙に感情の見えない使用人達。

 それらすべて、カイゼルを打ちのめすのに十分なものだった。

 ファルゼンの言った、空間転移という行為の後遺症か、カイゼルは夜になってから発熱し、そのまま数日は倦怠感を覚え、食事もままならなかった。

 ようやくめまいも消え、しっかり自分の足で動けるようになるのに一週間ほどかかってしまった。

 しかしあれからファルゼンが現れる様子もなく、相変わらず質問の答えは返らない。

(……逃がさない事が目的なら、地下牢にでも放り込んでおけよ)

 捕虜としては、破格の待遇だろう。

 適当な時間に起きて、適当な時間に眠る。毎食ごとに、豪勢で見た事もない料理が食べきれないほど並ぶ。本が読みたいと言えば、どこかに図書室があるのか、分厚い目録が渡された。カイゼルがその中からいくつか選んで告げると、それを使用人が持って来る。そこになければ、出版社やタイトルなどを伝えれば、数日の内に手に入った。

 何をするにも、カイゼルの思う通りだった。

 試しに、部屋に置かれていた調度品を壊してみたところ、怒られるどころか使用人達は「好みの合わない物を置いて申し訳ありません」と、平謝りでそれらを片付けて出て行ってしまった。

 カイゼルは、女達の徹底された行動に寒気を覚える。

 この部屋の中では、カイゼルはまるで王のように絶対的な存在だった。それも、専制国家の君主だ。

 だがその権力は、この部屋の中でしか適用されず、部屋からは……己の王国からは、決して出られない虜囚の王。

 灰色の庭には常に警戒する者の姿があり、窓は夜にはしっかり施錠されてしまう。

 いつしかカイゼルは、使用人達に質問する事をやめた。

 寝台から出ることなく、一日を過ごす事もあった。

 机の上には運び込まれたまま、読まれる事のない本が積み上げられてゆく。

 カイゼルは生きながら腐ってゆくような気分を味わっていた。



 夜。カイゼルは寝台でまどろんでいた。

 ここ何日か、夜明けまで起きてから眠るという行為を繰り返していた為、さすがに無理が出てしまっていた。

 夜はさすがに室内に近衛兵の姿もない。だが、次の間に控えているだけの話だ。

 カイゼルは幾度も寝返りを打ち、浅い眠りを繰り返していた。

 もう、ここに来て何日経ったのかわからない。筆記用具は一切与えられなかった為、経過した日数を書き留めるようなこともできず、最初はこっそり寝台の柱に食事に使うナイフで傷を付けて日にちを数えていたが、ある日浴室から戻ると、その跡はきれいにやすりをかけて消されていた。

 それからは何もかもが面倒になり、最近では逆に使用人達がカイゼルの体調を気遣ってか何かと話しかけてくる。しかしカイゼルはそのどれもを無視した。

 ファルゼンはここまで見越して自分を軟禁したのかも知れない、とカイゼルは思った。

 手荒に地下牢にでも放り込まれたならば、逆境に反発する気概も芽生えただろう。自由な檻とでも呼ぶべき状況に陥った今、日々その気力を失いかけていた。

 と、不意にカイゼルは何者かの話し声を聞いた気がした。

「……ねぇ、早くしようよ」

「待てよ、そう急かすなって」

「もうっ!」

 ぼそぼそと、声を押さえながら交わされる会話に、カイゼルの意識が浮上する。

「……あ、ほら、起きちゃった」

 子供特有の少し舌っ足らずな声に、カイゼルは目を開ける。

 途端、眼前に何者かの顔が迫っていた。

「……っ!」

 驚愕に硬直したが、相手はそれを見て、にんまりと笑ってみせた。

「よぉ、久しぶりだな」

 言って、ひょいと身体を起こす。カイゼルもつられて起き上がり、相手の姿をしげしげと眺める。

 そこにいたのは十二、三くらいの少年だった。長い金髪を根本で縛り、肌は褐色。猫のような吊り上がり気味の眼が面白そうに細められた。

「……お前……マドカ、か?」

 記憶の中から掘り出してきた名前に、眼前の少年は嬉しそうな顔をして笑う。

 少年……マドカは、以前に東側の港町で面識があった。しかしその正体は、ただの子供ではない。彼は〈球状の楽園〉に籍を置く存在であり、前回などいきなり剣を向けたりマテリアの攻撃を容赦なく浴びせたりと、かなり強烈な思い出をカイゼルに残してくれた。

「ねぇねぇ、マドカってばぁ、早くしようよ。置いてっちゃうよ」

 発せられた声に振り返ると、カイゼルの背後に一人の少女がいた。マドカよりもさらに幼く、十歳に手が届くかどうかといった年齢だ。

「うるさいな、リィ。ほら、カイゼル行くぞ」

「え? 行くって、どこに?」

「オレのところ」

 腕をぐいぐい引っ張られ、カイゼルはわけがわからぬまま寝台から降ろされる。

「あ、待ってよぉ。外は寒いんだから」

 少女が寝台の上掛けをはがして駆け寄り、それをカイゼルの肩にかける。

「はい、そのままだと風邪ひいちゃうよ」

「あの……外って……」

 見張りがいる、と言いかけたカイゼルの身体を冷たい風が吹き付ける。思わず首をすくめ、上掛けの端をきつく握りしめた。

 堅く施錠されているはずの窓は、外側に向けて開け放たれ、いるはずの見張りの姿もなく、殺風景な庭が夜の闇に沈んでいるだけだった。

「さぁ、行こうよ」

 少女に手を引かれ、カイゼルは裸足のまま庭に出て、土の冷たさに鳥肌が立った。

「へへっ、悲鳴なんか上げるなよ」

 マドカがにやりと笑ってカイゼルの身体に腕を回してきた。

「行ってくれ、リィ」

「うん!」

 元気いっぱいに返事した少女が、カイゼルの手を握ったまま歩き出し……そのまま足が地面から離れた。

「なっ……!」

 その手に引っ張られたまま、カイゼルの身体も宙に浮く。

 灰色の庭がぐんぐん遠ざかり、すぐ闇に紛れ、どこにあるのかもわからなくなる。

「な……なぁっ!」

 頭の中が疑問詞でいっぱいになるが、どれもまともな言葉にならない。陸に上がった魚のように口をぱくぱくしていると、冷たい風が身をなぶり、わずかに冷静になった脳がここが上空だと言ってきた。

 そう、自分は今、空を飛んでいるのだ。その現実と実際に感じる寒さに、カイゼルは思わず身を震わせる。

「寒いか?」

 カイゼルにしがみついているマドカが、顔をのぞき込んでくる。言葉を発する度に吐き出された呼気が白くなった。

「…………何で、空を飛んでいるんだ?」

 寒さよりも何よりも、そこが一番気になる。しかしマドカは、きょとんと目を丸くすると、

「飛べるからだろ」

 と、何とも言えない答えを返してくれた。

「いや、そーじゃなくてだな。人間が鳥でもないのに空を飛び回るのはおかしくないのかよ」

「まぁ、そうだな。けど、あいつ人間じゃないし」

 目線を向けた先には、カイゼルの手を握る少女の姿があった。

「人間じゃないから飛べる。別に、おかしくも何ともないだろ」

 いや、十分におかしいだろ。

 心底そう叫びたかったが、これ以上言い合っても不毛な展開になりそうな気がして、カイゼルは一度その疑問を脇に放り出す事にした。

「大体、何でお前が出て来るんだ。脈絡ないぞ。それに見張りはどうしたんだよ。良く忍び込んで来られたな」

「リィがやった」

「まさか……」

「死んじゃいないだろ。真冬じゃないし、凍死することもないさ。けど、やっぱり寒いよな。転移した方が早かったけどさ、あれってやった後、すげえ気分悪くなるしな」

「……それは同感だ」

 一週間味わった苦痛を思い返し、カイゼルはその意見に同調する。

「それよりさ、オレ、ずっとカイゼルが来るのを待ってたんだぞ」

「待ちきれなくて、しびれきらして迎えに来てくれた、と」

「まぁな。でも、ここはもうシンフォルンだぞ」

「そう、そうなのか……」

 ファルゼンが現れた事で、何となく予想はついていたが、改めて言われると、カイゼルの胸は鉛を呑んだように重くなった。


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