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6-4「四公」

   四章「四公」



 翌日の昼過ぎ。

 三人組は、再びアパートメントにて顔をつきあわせていた。だがしかし、今度は集まっている人員に多少の変化があった。まず、ヘスペリアが眠そうな顔をしてテーブルに肘をつき、三人が卓を挟んで向かいに座っている。その向こうのリビングには、ギーヴルの姿があった。

「   さて」

 全員の顔を見回してから、彼女は口火を切る。

「うっとおしい警察の取り調べも、とりあえず終了した。よって、これから、事件の口裏合わせと、今後の行動についての対策を立てようと思う」

 彼女は先程まで、この区域を取り仕切る警察の本部まで出向き、昨晩の事柄についてあれこれ説明していた。そして旦那のマキシは、現場の検分の為、再び出て行く羽目になったのだが。

「思っていたより、早く終わったみたいだけど……」

 恐る恐るヘーゼが言った。彼は昨晩、壁面の爆発に巻き込まれたが、発生地点が彼の立ち位置からほんのわずかに外れていた為、比較的軽傷で済んだ。それでも、包帯や青あざが目立つ。一番ひどいのが足で、右の足首を着地の際に痛めてしまい、しばらくは動かすなと医者に言われている。

「話は、簡単な事だ。カイゼルは、本当に誘拐された。それだけだ」

「   はぁ?」

 彼女の話をまとめると、カイゼルは、ヘスペリアの弟と間違えられ、誘拐された。……と、いうことになる。さらに誘拐犯は、内部分裂を起こし、決裂。その争いの最中、交渉の為に現れた夫婦は、混乱の中でカイゼルを助け出し、誘拐犯の大多数は逃走。

 聞き終わったとき、その場には、何ともいえない沈黙が満ちていた。

「無理がありまくりというか……よくそれで警察が納得したっていうか……」

 カイゼルは、机の上に突っ伏してしまう。

「私の髪が、今は黒いからね、それで犯行グループは、対象を取り違えてしまったらしい。犯人は謎。怨恨か、純粋に金目当ての犯行か……まぁ、そこら辺は、警察が勝手にそれらしい理由をでっち上げてくれるさ。ここまでで、何か、質問は?」

「……めちゃくちゃです」

「警察だって、叩けば埃の一キロや二キロ、出て来るだろ」

「まさか、大姉さん、脅迫したの?」

「話をつけたのは、誰だと思っている?」

 睡眠が足りないのか、彼女の顔は、普段のとろんとした表情に、クマまで加わり、壮絶な様になっている。

「すいませんごめんなさい、堪忍してください……」

「まったくだ。これで、手持ちのネタが減ったじゃないか」

「あのう、昨日話していた、血気盛んな傭兵達はどこに消えたんです?」

 結局、助けに現れたのは、この夫婦だけだった。

 そこは突いては行けないポイントだったのか、ヘスペリアは憮然とする。

「あれはな、没になった」

「没……?」

 カイゼルは、思わずオウム返しに繰り返す。

「皆に話を回そうとしたが、直前に、その倉庫の持ち主が依頼を取り消してな。なんでも、倉庫の一角にたむろしていた若者達を、警察が一斉に補導してくれたから、もう、警備はいらないとかなんとか」

「なんて間の悪い……」

 だが実際問題、事件は起こってしまった。今頃その倉庫の所有者は、青くなっているか、怒りに赤くなっているかのどちらかだろう。

「あのときは焦ったわ。お姉さん達は現れないし、なんだか中はとってもピンチな感じだったし」

 イリスはカイゼルの予想通り、ヘスペリア達を探しに走った。そして夫婦を連れて戻って来たところ、爆発を目の当たりにし、イリスとマキシはヘーゼを救出に走り、ヘスペリアは簡単に状況を聞くと、ためらいもせず倉庫に飛び込んだ。

「けど、それにしたところでちょっと遅くなかった?」

 恐る恐るヘーゼが尋ねると、ヘスペリアはちょっと目をそらす。

「……武器をな」

「は?」

「色々と、選んでいたら……時間がかかって……」

 どうやら、旦那が背負っていた荷物の選定の為、遅れたらしい。

「…………大姉さん……?」

「……えーと、その……」

「悪かったな」

 彼女は、憮然としながら言った。

 だが、カイゼルとヘーゼは、その事実に頭を抱える。

「もしかして、俺の命は間一髪どころか、むしろ崖から転落している状態だったのか?」

「大姉さん……もう少し早く来てくれたら、僕は吹っ飛ばなくてもよかったんじゃないの……?」

 少年二人の痛い視線に、ヘスペリアは息を吐く。

「遅れたのは、悪かった。けど、相手がチンピラか……少なくとも、普通の人間相手なら、どうにでもなると踏んでいた」

 場に、重い沈黙が落ちる。

 普通の人間。

 その言葉が示す意味を、カイゼルは考える。

「あの、男は……その、何だったんだ?」

 撃っても、切っても、倒れなかった。そして人間を瞬く間に塵に変え、最後には己の姿まで消してみせた。

「さてね。あの名前も、本名かどうか怪しい。正体や、妙な力なんて、探るだけ無駄だろう」

「やっぱり、マテリアなのかな?」

 ヘーゼの疑問は、カイゼルも真っ先に考えた。そして、違うとカイゼルは首を振る。

「マテリア……それらしい物も持っているようには見えなかったし、それに……なんていうか、魔法とは、違うように見えた」

 カイゼルにも、うまく説明はできない。感覚は、違うと告げているが、その差をはっきり言葉で表すことができなかった。

 ヘスペリアは、逡巡の後、ぽつりと言った。

異能者クイード、って奴かもしれないね」

「なに、それ?」

 イリスだけではない、三人とも聞きなれない単語だった。

「マテリアを使って起こすような現象。魔法を、生まれつき持っている特殊な人間のことだよ。種類や、強さも、それこそ個人で違う。当人しか扱うことのできない、誰も真似できない力。そんなのを振り回す人間は、確かに存在しているのだからね」

「そうか、それなら妙な力の説明はつくね」

「けど、あの不死身というか、恐ろしい頑丈さはどうなるんだよ」

「奴は、異能者とちゃうやろ」

 かかった声は、リビングからだった。ソファの上で、ギーヴルが足を組んで座っている。

「ギーヴル。何か、知っているのか?」

「わからへん。けど、なんか引っかかるんや」

 ギーヴルにしては珍しく歯切れの悪い返答だった。彼は知っていてはぐらかすことはあるが、こういう、微妙な言い方をすることはあまりない。どうやら先程から黙っているのも、その引っかかる何かを思い出そうとしているのだろう、多少いらだっているようだ。

 そこでヘスペリアが、お手上げとばかりに話題を変える。

「考えようにも、今は情報が不足している。それよりも、先にやっつけておくことはまだあるからな。で、次。今後の行動についてだ」

「と、言うと?」

「早い話が、ボロを出さない為にはさっさと出て行った方がいいというわけだ。まぁ、今すぐとは言わないが。けど、とりあえず、これからお前達がどこに行こうとしているのか、知りたい。行った先でまた騒動なんて、こっちはごめんだからね」

「…………」

「…………」

「なんだ、どうした?」

「あの~。じゃあ、予定を考えるので、もう少し時間をください」

 カイゼルの引きつった笑顔に、ヘスペリアは首を傾げたが、それ以上突っ込んではこなかった。

「まぁ、好きにしな。それじゃあ、こっちは夕食の買い出しだ。ヘーゼはあんなだから……カイゼル、荷物持ちにつきあえ」



 昼下がりの市場は、同じように夕飯の買い出しに出た主婦達がごったがえしている。

「さすがに人数が多いと、買ってもすぐになくなるな」

 ヘスペリアは人混みをものともせず、するりと器用に抜けていく。カイゼルはそんな彼女の後をついて歩き、立ち止まっては荷物が増えていく。

 こうして、両手がふさがり、足もやや重くなってきた頃のことだった。

「カイゼル、あのなぁ」

「はい?」

 彼女は、手に持った青野菜と、値段を見比べながら、言った。

「シンフォルンに、行くらしいな」

「えっ」

「……そこで、何の事ですか? くらい言えるようになれ」

「ヘーゼだな……」

「違う、イリスだ。あいつは、この銃で脅しても、しゃべらなかったよ」

 言って、彼女はちらりとコートをめくる。その腰には、昨日の二丁拳銃がぶら下がっていた。

 おそらく、そのホルスターがヘーゼと一緒に注文した物の正体なのだろう。女性用らしく、小型で、表面に流麗な彫刻が施されているのが見えた。

「謎を解明しに行くのは結構だが、あそこはやめておけ。二度と帰って来られなくなるぞ」

「どうして、そんな事が……」

「わかるさ。こういう職業だからね、妙なうわさ話はしょっちゅう耳に入る。それに、もっと簡単に見つかる謎も、ある」

 ヘスペリアは、青野菜の束を抱えて店主に金を払うと、またもやカイゼルに持たせる。

「お前は、シンフォルンに行った事がある者に今まで会ったか?」

「え……?」

 思わず、抱えた荷物がぐらつく。

「あそこは妙な国でな、移住者の受け入れには寛容すぎるくらいらしい。話に聞くと、罪を犯して逃亡してきた者でも、区別無く市民権を与えるそうだ。だが逆に、移住希望ではない、ただの観光目的の者は、シンフォルンの市壁内に入ることはできない」

「そんな……」

「どうやら、相当程度勉強不足だったらしいね。そんな訳のわからない場所に行って、お前さんは何を探すつもりだったんだい?」

「……なんで、俺が追い回されるのか、その理由が知りたかっただけです」

「ふぅん。まぁ、イリスの話だと、|<球状の楽園>(ジャスパーガーデン)がからんでいるらしいね。あそこが動いているとなると、事は相当でかいよ。あそこは宗教が国を動かしているようなものだからね」

「宗教国家……」

「それを踏まえて考えると、答えは何となく予想がつくよ」

「えっ! 本当ですか?」

「昔、あの国……いや、ここら辺一帯は、昔はひとつの国だったらしいから、ちと違うが、とにかく何百年か前の話だ」

「聞いた事があります、確か、ノードとかって名前で、軍部とその宗教的な部分との価値観の違いで対立して分裂したとか」

 相変わらず、教科書の受け売りだった。もっとも、その教科書程度の知識で、ここまで来てしまったのだが。

「そうそう、そんな話だ。で、その分裂する前、この国は、子供を集めていた……神の名を使って」

「何の為に、そんな真似を……」

「さぁ。それは向こうの極秘事項ってやつだ。けど、当時は村の中で子供が連れて行かれる度に、神の子が出たと大騒ぎで祝ったらしいよ。もっとも、これもありがちだが、連れて行かれた子供達は、二度と親元には戻らず、神籍に名を連ね、神の使いとなったとさ」

「今でもそんなことをしているんですか?」

「さてね。こっちもある意味部外者だから、記録を読んだだけだし。けど、案外こっそり続いているのかもね。   これが、私の予想だ」

 これで終わり、といって。ヘスペリアはいつの間に品定めしていたのか、丸々としたカブをカイゼルに手渡した。

 しかしカイゼルは増えた荷物の事など気にもとめていなかった。

「神の子……」


    円の定めた御子よ

    汝の血が示す理を今こそ……


 東側の港町ルチル・オーバル。そこでカイゼルはガーデンの人間と出会った。そのうちの一人が言った言葉が、不意に甦る。

 そして……


    君は、シンフォルンの子なのですよ


 昨日の青年は、はっきりとそう告げた。


    デリス


 決定的だったのが、その名を告げられた瞬間だった。そのルチル・オーバルで出会った少年が、カイゼルをそう呼び、彼らもまた、彼をシンフォルンへ連れ帰ろうとしていた。

(俺は、シンフォルンで生まれたっていうのか?)

 カイゼル自身、今の両親と血縁関係はなく、養子だという事実は早いうちから知っていた。しかし彼を両親の元に連れてきた男は、カイゼルを自分の子供だと言っていたらしい。

 男……アンセムは、養父の弟に当たる人物で、当然出身は皇都になる。

 その辺りの件に何かあるのは確実なのだが、肝心の男は獄中で既に死亡している。そして男の死を境に、カイゼルの周囲で何かが変わっていった。

「まぁ、本気でお隣に行くにしても、あきらめて家に帰るにしても、早めにした方が良いよ」

「あ……?」

 カイゼルはうっかり考えに没頭し、前を歩くヘスペリアの話を聞いていなかった。それでも彼女は気にした様子もなく、先を続ける。

「彼女が事実を口にすれば、そこでこの脚本はパーだ」

 彼女とは、あの赤毛の女性の事だった。

 唯一の実行犯として、今は警察に身柄を拘束されている。だが、昨日から今まで、一言たりとも口を開いていないそうだ。

「それに、向こうさんもまだしぶとく何か仕掛けてくるかもしれないし。正直、あの妙な男の相手だけは、勘弁してもらいたいね」

 眼鏡の青年も、警察が捜索中だが、見つかったという話は聞かない。それに警察も、刺しても撃っても死なない男の話など、半信半疑であまり真剣に探している様子もなかったのだが。

「とりあえず、今はヘーゼも怪我で動けないしな。雪が降るまでに考えてくれ」



 夕食は、ロールキャベツだった。だがカイゼル達にそんな小手先の技はない。ヘスペリアの作品である。

 食事が終わり、片付けも大まかに終わると、それぞれ自分のしたいことをする為に散って行く。ヘスペリアは部屋で仕事の続き、イリスは風呂を入れに行く。もちろん、自分が一番に入りたいからだろう。ヘーゼは、今晩も遅くなるマキシの為に、簡単な夜食を作る為に台所に引き返した。

 そしてカイゼルは、お茶を片手にリビングにいた。

 珍しく、ギーヴルも同席している。常なら、一人で行動することが多く、こんな風に大人しく座っている姿など滅多に見ないのだが、どういうわけか、昨日の事件の後からは、出かける様子もなかった。

 カイゼルは、何となく不思議に思いながら、それでもギーヴルの分も茶を入れると、彼の前にカップを置いて、自分は新聞を片手にソファに座る。

 しばらく、カイゼルが新聞をめくる音だけが、その場にあった。ギーヴルは出された茶には手をつける様子もなく、椅子に身体を預けている。

(冷める前に、飲めばいいのに……)

 まぁ、いるかどうかも聞かず、勝手に出したのはカイゼルの方なので、思っても口には出さなかった。

 そしてしばらくの沈黙の後、口を開いたのはギーヴルの方だった。

「お前、まだシンフォルンに行きたいか?」

「行きたい……と、思うけど」

「思う、程度なら、やめとけ。今すぐ荷物まとめて家に帰るんや」

「なんだよ、唐突に」

「このままやと、確実に殺されるからや」

 ギーヴルは憮然とした顔で言い放つ。

「……なぜ、そうなるんだ? 言っとくけど、ちゃんとした理由を話さないと、納得しないからな」

 多少言葉尻がきつくなってしまったが、その様子を見て、ギーヴルはあきらめたように息を吐く。

「ファルゼン……四公までからんで来たんや、話がでかすぎる」

「四公だってぇ!」

 台所から轟いた悲鳴に、カイゼルはうんざりした顔を向ける。見ると、ヘーゼはカップと茶菓子を手にカタカタと震えている。ミルクティーが手を濡らす、その熱さにも気づいていないらしい。

「さすが博学やな。知っとるなら、手早くこいつに説明したってくれ」

「いや……なんとなくは知ってるから。確か、シンフォルンの政治を仕切っている奴らだろ」

「うん、そうそう。あそこはガーデンの……宗教の力が強いから、逆に政治には介入できないように分離する政策をとっているんだよ。で、その代表格が四公。国の有力貴族らしいけど、名前、全部言える?」

 ヘーゼは少し落ち着いたのか、茶と菓子を持ってカイゼルの隣に腰掛ける。

「え……お前、急に問題出すなよ。あーと、レムルス、アサイラム……カーライル……」

 そこまで指を折って考えた後、カイゼルははたと気づく。

「ファルゼン」

「はい、正解。これあげるよ」

 差し出された焼き菓子を、カイゼルはひとつつまんで口に放り込む。

「あいつは、その四公の者か……」

「まぁ、あのねーちゃんも言っとったしな」

「ねーちゃん……? 誰のことだよ」

「誘拐犯の一味。赤毛の女がおったやろ。あいつがあの男のことで、ずいぶん文句垂れ流しとった」

「妙なところから情報仕入れて来るんだね……」

「まぁ、ワイも、名前は知っとるけど、顔は見たことなかったからな。あいつが名乗るまで、そうとはわからんかった」

「で……すっかり前置きが長くなったけど、その四公が出て来ると、どうしてまずいんだ?」

「お前……賢そうに見えて、案外アホやな」

 ギーヴルの、さも呆れたといわんばかりの態度に、カイゼルは引きつった笑みを浮かべる。

「いや、あの、危ないんだな~くらいは理解できるんだけど、具体的に何がどう危機なのかがわからなくて……その、話が大きすぎて」

「説明は苦手なんやけど……」

 口中でぶつぶつ文句をつぶやきながら、焼き菓子をいくつかつまむと、テーブルに並べ始めた。計六個。その中の、一番大きな菓子を指さす。

「|<球状の楽園>(ジャスパーガーデン)には、その直属に|<慈悲深き蝶>(フェアリー)って呼ばれとる部隊があるんや」

 大きな菓子の下に、一番小さなものを並べる。

「これは、なんちゅうか、あんまり表に出しとうないことばっかり扱うところでな、今までは、そこがカイゼルを狙うとったんや。もちろん、命令を出しとったんは、ガーデンやけど。まぁ、他にも教会の警備隊に戦乙女ヴァルキリーなんてのもおるけど、こいつらは逆に表舞台に活躍する奴らで、今は特に関係あらへん」

 そして最後に大きな菓子の周囲に、残りの四つを並べる。

「問題は、こっからや。ちょっと前に、ガーデンの一番偉い奴が亡くなったらしくてな、今は、その跡目争いにもめにもめとる最中やねん」

「じゃあ、西側に渡っても、相手が特に何も仕掛けてこなかったわけは、これなのか?」

「らしいで。得したな。相手が元気やったら港についた途端に捕まっとったかもしれへん」

「そのおかげで今まで話が進まなかったという考え方もできるけど……」

 権力争いで自分の存在が放置されていたと聞かされ、カイゼルはげんなりした。

「知るか。ま、とにかく何時までももめとるわけにもいかんから、早急に話をまとめなあかんわけで、そこに四公がからんできたんや。今は、それぞれが勝手に推す代表を、なんとかして大将の椅子に座らせようとして、躍起になって裏工作を繰り返しとる。で、その中の一派は、ガーデンが執拗に狙っとった存在に目をつけた」

 そこでギーヴルは、カイゼルに目をやる。彼は急に話を振られ、わずかに身じろぎする。

「……俺を土産にしようっていうのか」

「そうやけど、別の考えをした者も、当然出てくるわけや。向こうがそんなものを用意しようとするなら、こっちは先回りして、その土産を処分してやるってな」

「な……」

 あまりの内容に、カイゼルは絶句する。

 自分の存在が、勝手にゲームの景品にされている。しかも、自分の与り知らぬ場所で。

「それが、あの誘拐犯だったっていうのか?」

「あぁ……あいつ   マナールは、フェアリーの一部や。今回の騒ぎで、あいつらも相当打撃を受けたんで、お前をだしに使って生き残ろうとしとった」

「それを邪魔しようとしたのが、例の眼鏡……ファルゼンか」

「いや、それもようわからん。なんや、口では保護するとか言うとったし」

「色々派閥があるんだね……」

 ヘーゼは、諦念の境地に達したとばかりに、呆然と茶をすすっている。

「そこまで話が来たなら、いい加減に何でカイゼルが狙われるのか教えなさいよっ!」

 叫ぶ声の発生源は、イリスだった。風呂上りなのか、頭にタオルを巻いている。

 それに対してギーヴルの答えは、あまりにも冷たかった。

「知らん」

「ここまできて、そんな嘘が通用すると思っているわけっ!」

 肩をいからせながら、イリスはギーヴルに詰め寄る。

「そうだ。そこら辺は、俺もはっきりさせておきたい」

「本当に、知らんのや。いや、まったく知らんいうんは違うか。そう、なんでお前が必要なんかがわからんのや」

 二人に眼前まで迫られ、ギーヴルは観念したとばかりに両手を挙げ、降参のポーズをとる。

「ワイが知っとんのは、お前が何かの継承者やってことや。特別らしいで、ガーデンが追い回す、最後の欠片……。奴らがお前を何の目的に利用しようとしているのかは、正直わからへん。けど、まぁ、あそこまでこそこそするんや、あんまり世間的によく思われんようなことは間違いないやろうな」

「あれだけもったいぶっといて、それだけ?」

 イリスの冷淡な突っ込みに、ギーヴルは珍しく耐えていた。本音は、言い返したくてたまらないのだろう。

「…………復活」

 ギーヴルは、憤然とするイリスを無視し、ぽつりとつぶやく

「はぁ?」

「前に、聞いた。必要だから、散らばった欠片を集めとるってな」

 そうして彼は、今気づいたとばかりに少し温くなった茶に手を伸ばし、口元に運ぶ。

「……誰に? そもそも、なんの復活なの?」

「そこまで、聞かんかった。いや、奴がものすごく言いたくなさそうな顔をしたから、聞きそびれたんや」

 そこで終わりだ、とギーヴルは茶を飲む。その様子に、カイゼルはあきらめのこもった息を吐く。

「まぁ、それは置いといて。継承者っていわれても、俺は何も持ってないぞ」

 考えても、その継承者という単語に当てはまるようなことは、今まで生きてきた中で経験していない。

「だから、そこや。向こうは、生きてさえいれば、腕や足がなくとも問題はないらしいで」

 マドカも、似たような言葉を口にしていた。あのときは……まぁ、冗談で済んだが、今はそれを笑い飛ばすことはできなかった。

「まぁ、俺のことはともかく、なんでそこまで内部事情に詳しいんだよ」

「ねーちゃんに聞いた」

「って、もしかして、前々から知り合いだったのか?」

「やっぱりそうなんだっ! さっきの言動からどうも怪しいと思っていたんだよっ!」

 カイゼルとヘーゼの叫びに、ギーヴルは、さらに恐ろしいことをさらりと言った。

「知り合いなんは、間違いないな。それに、情報を貰う為に、カイゼルを売った」

「売るなっ! てか、真犯人はあんたかっ!」

「ひどいわっ! ここまで落ちていたなんてっ!」

「うぁぁぁぁっ! 鬼畜っ非道だぁっ!」

 三人にわめかれ、ギーヴルはうんざりとした顔をする。だが、まったくその行為を反省している様子は見受けられなかった。

「誤解すんな。ただ、お前を呼び出すから、黙って見ていろといわれただけや」

「同じことだろ……」

「助けてやったんやから、これで帳消しや」

 ギーヴルは詫びれもなく言い切った。

「騙されちゃダメよ、カイゼル! この男は、自分の欲求の為なら平気で仲間を売り、さもヒーロー面して私達に恩を着せようとする、極悪非道の生ゴミみたいに最低な奴よ!」

「な、生ゴミ……?」

 さすがにその言葉は聞き捨てならなかったのか、ギーヴルは口元を引きつらせる。

「騒がしいな」

「あ、大姉さん! ごめんなさいっ!」

 突然の来襲に、ヘーゼは慌てふためく。だが彼女は、そんな弟をきれいに無視すると、窓辺に向かい、閉じていたそれを外側に向けて開く。

「外だ」

 耳をすますと、時折甲高い笛の音が聞こえてくる。

「警察の……呼び笛?」

 正確な名称は知らないが、救援を呼んだり、自分の位置を知らせる為に使われるものだ。

「どうやら、何かあったらしいな」

「何かって……それで、なんで大姉さんが出て行くのさ。しかも、銃の残弾数なんか確認しちゃって!」

「勘だ。それに、警察が動き回るような騒ぎなら、ギルドにも情報が入っているはず。お前達は、ついてくると色々面倒そうだからな、先に寝ていてくれ。そのうちマキシも戻って来る」

「ワイも行かせてもらってええか?」

 彼は立ち上がると、壁に立てかけてあった段平を取る。

「その勘ってやつ、ワイも混ぜてくれや」



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