ちょっと待て
「驚いたかっ!」
漫画の決め台詞かなにかのように、真は自慢する。
これは、素直に驚いた。
「うん、驚いたわ」
「だろう?」
「いや、ちょっと待て」
が、真を褒めていると、ちょいちょいと先輩に肩を叩かれ、視線を画面に戻す。
「これ」
「あ……」
コメント数、二○○。
たぶん、これは――
「真」
「なんだ?」
「コメント、見てるか?」
「いや? なんか沢山きてるなとは思ったけど、まだ見てないぞ?」
あちゃーと思う。
一日も経たない内に、これだけの再生数を数えたのは、コメントの多さが原因だろう。そして、一日も経たない内にこれだけのコメントがきているということは、荒れてる、だろうな。
違う意味で、どんな内容になっているのか、気になる。
「真、とりあえず、コメントはいいから、動画を見せてくれないか?」
「ん? そうか。了解した」
真はバッグからカメラを取り出し、ほれと渡してくる。
その動作を見て、一つ、突っ込ませてもらう。
「真」
「なんだ?」
「編集、したよな?」
動画を見せてと頼んで、カメラを渡してくる。
別におかしいことではない。撮ったものがそのまま残っているのだから、これを渡してきてもいい。家のパソコンかなにかで編集したのなら、データがなくて当たり前だ。
それは分かる、分かるのだが――このコメント数を見ると、どうも、動画の内容以外に原因があるような気がする。
「編集?」
「ああ」
「したぜ?」
あ、したのか――
「圧縮ってやつだろ? ていうか、それしないと動画アップできないじゃん」
「……圧縮以外は?」
「は?」
「は? じゃなくて、撮った動画に手を加えたかってこと」
「いや? 別に」
「……」
「……」
俺も、先輩も沈黙した。
つまり、撮ったものをそのままアップしたと。
それは、動画サイトにアップする上では――い、いや、まだ判断するべきではない。もしかしたら、とても評価できる映像が撮れているかもしれないのだ。期待して、見てみるべきだ。
「じゃあ、見させてもらうわ」
「おう」
自信満々という感じで、真は再生ボタンを押した。
「ぶっ!」
「うわっ!」
直後、俺と先輩は顔をカメラの画面から離さざるを得なかった。
たぶん、ちゃんと撮れているのか確認するためなのだろう。いきなり画面一杯に、鬼の顔が現れたのだ。
見ていると、それを被った真が画面上に現れる。
背が高く、体格の良い真が鬼のお面を被るとリアルに恐い。
「……」
「……」
その後、数分間、俺と先輩は黙った。
理由は簡単。あまりにも、内容が残念だったからだ。
言っていることは間違っていない。もっと皆で楽しく動画を見ようではないかということを喋っているだけだ。個人的な感情をぶつけているわけでもないし、悪くはない。
問題は、その姿と、喋り方だ。
鬼のお面を被っているせいで、どうしても話している内容よりも、そっちに目が行ってしまうし、これまたお面を被っているせいか、時折、聞き取りにくいところがあるのだ。それに、最後の方になるにつれて、それはもう熱く、熱~く語っているため、完全に痛い子だ。
決して、間違ったことを言っているわけではないのだが、あまりにも残念だった。