これが俺の力だっ!
「とはいえ、どうなるか、分かったもんじゃないぞ」
「ですよね~」
真はどんなものにしようか既に考え始めている。
真剣な顔でルーズリーフになにかを書き込んでいた。
「やる気は買うが、下手なことをすれば逆効果だぞ」
「批判してる人たちはそういう的があればすぐに飛びつきますからね……」
「そうなったら、ブログも荒れる可能性もある。やっぱり止めるか?」
腕を組み、先輩は難しそうな顔で言う。
真のしていることは、たぶん正しい。ネット内にもマナーがあるのだということを主張する動画、ブログを開く。間違っていることではない。ただ、その媒体になるものが同じネット内のものでは、格好の的になるだろう。
だが――
「俺は放置でいいんじゃないかと」
「……それは、自分は傍観者だからどうなろうと知ったことじゃないという意味か?」
「違いますよ。真の言ったように、やってみなければ分からないこともあるんじゃないかってことです。そうやって動画をアップしたらどうなるのか、ブログを開設したらどうなるのか、一度やってみることは、必要だと思います」
多くの人間が既に訴えていることだ。
大学の教授や、大人たちはネット社会になるにあたって、以前から懸念していた。けれど、俺たちのような、大学生が訴えたらどうなるのか。それも、動画サイト内という相手の本領発揮しやすい場所で。それを見てみることは、価値のあることだと思う。
傍観者とか、そういう立場は関係なく、次の一歩を踏み出すためには、いつかしなければならないことだ。
「真がやってくれるっていうんですから、乗っかりましょうよ」
「……芽依君は案外ドライな性格なんだな」
先輩も、意図が分かったようだ。
「そうでもないですよ。頑張ってくれれば頑張ってくれた分だけ、相手がどのくらい本気で潰しにくるのか、見えていいじゃないですか。犠牲ではありません」
「生贄か?」
「人聞きの悪いことを言わないでください。真ならたとえ叩かれても大丈夫ですよ。あいつの打たれ強さは半端じゃないですから」
「……おっかないな、君は」
「そうでもありませんよ」
先輩と二人、笑い合った。
◆
その二日後。
真に呼び出され、モコモコ動画革命団(通称MDK)はゼミ室に集合した。
「どうしたよ?」
「聞いてくれ!」
「聞いてるよ」
真はスマホを取り出し、ばっと見せてくる。
「これが俺の力だっ!」
開かれていたのは、モコモコ動画のマイページ。真のネームは『シン』だった。
「おお、お前、ゴールド会員になったのか!」
一番最初に目についたのはそれだった。
ゴールド会員は、投稿できる動画の数が増えたり、今は関係ないが、生放送をする時に特典がついたり、結構便利な機能が多い。
「違う! そこじゃない!」
が、見て欲しいところはそこではなかったらしい。
綾瀬も含めて三人で覗き込むと、
「ああ、動画アップしたのか」
「投稿日時は、昨日か」
仕事の早い男だった。
一昨日動画を撮ろうという話が出たばかりだというのに、もう撮ってアップしたらしい。一昨日、カメラを貸して欲しいと俺の家までくっついてきたから、もしやとは思っていたが、この早さは驚いた。この分だと、ブログの方も既に開設しているのではないだろうか。
「で、注目の再生数は、と」
視線を滑らせて、再生数が表示されているところまで持っていく。
そこに表示されていた数字は、
「一○○○!?」
「まだ一日経ってないぞ……」
画面を凝視する。
音楽系、特に有名な人が作ったボーカロ○ドの曲や、歌ってみたの動画、その他、評価に値する完成度の動画や、各分野で人気がある人ならともかく、初めて動画をアップした人間が、いきなり一日も経たないうちに再生数一○○○をマークするのは珍しい。
一体どれほどのものを作ったのだろうか。