見ます?
「……」
「……」
先輩と二人、その様子を眺めながら、小声で話す。
「芽依君」
「なんですか?」
「君の動画は一度しか見ていないんだが、なにかあったのか? 会った時から真君はそれに固執しているように思えるんだが」
「あー、ちょっと、いろいろありまして……。見ます?」
ポケットからスマホを取り出し、モコモコ動画を開く。
席を立ち、先輩の方へと回る。
「ジャグリングの動画だったか?」
「そうです」
俺は昔からジャグリングが得意で、それなりにできるつもりだ。
技名とか、そういう詳しいことは分からないが、個人的に練習していた。その後、ある程度上手くなったので、撮影して動画をアップしてみたのだ。
「再生数は……ほう? 二○○○超えてる?」
「そうなんですよ……」
「特に知名度の高い人間でもないのだから、結構なものじゃないか? 音楽とか、そういう関連のものならともかく、こういう動画でここまで再生数が伸びるのはそこそこ良いんじゃないかな?」
「何年も経っているっていうのもありますけどね。ただ、コメント数の方を見てください」
「む?」
先輩に促すと、
「あー……」
なんとなく、察してくれたようだ。
コメント数が、五○○を超えているのだ。
要は、荒れたのだ。
「じゃ、再生しますよ」
再生ボタンを押すと、凄い勢いでコメントが流れていく。
ほんの数分間の動画なのに、五○○もコメントがあれば当然のことだ。
確か、最初は『こんなクズみたいな動画あげるな』というものが原因だったと思う。当然だが、そのコメントに俺はぐさっときたし、動画自体を消去しようかとも思った。しかし、次にきたコメントが『あげるなとか言ってるやつ、自分でやってみろよ』というもの。これは正直、嬉しかった。だから、残しておこうと思ったのだ。
ところが、そこからどんどんコメントが荒れ始める。
他に同じジャグリングの動画をあげている人の名前が出て、比べられたのだ。そのコメントに対してそれはマナー違反だろうとか、内容はともかく、コメント数が増え、見てくれる人が増加した。その結果、動画でやっているジャグリングの技に間違いがあるとか使っている球の大きさがどうとか、もうとにかく、事細かにいろんな指摘があった。なかには、「そこまで気にする必要あるか?」というコメントもあったのだが、それに対して、さらに批判コメントが流れ、最終的には、投稿した俺自身がどうでもよくなってしまった。ちなみに、一番どうでもいいコメントは、ジャグリングとか関係なく、服装がどうとかいうものだった。
「これは酷いな……」
「これのせいで他のも若干コメントがアレな感じになりまして。たぶん、純粋に動画を見てくれている人なんてほとんどいませんよ」
「なんというか、悲惨の一言に尽きるな……。真君がやる気になるのも頷ける」
「俺は別にいいって言ってるんですけどね」
この結果を見て、一番怒ってくれたのは、真だった。
俺が動画サイトにアップしてみるかと練習していた時、脇で見ていたのもあったのだろう。一生懸命撮った動画を、関係ない人間が当然のように『クズみたいな』とか言うのが我慢ならなかったのかもしれない。