表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モコモコ動画革命団  作者: 彩坂初雪
第三章
31/58

決まりだ

「よっと」

 ほいほいほいと簡単にジャグリングをしてみせる。

〈音楽に合わせて!:あげは〉

 一分ほど、サッカーボールでジャグリングをしていると、綾瀬さんがストップのサインを出してくる。画面を確認し、

「は? え、やらなきゃ駄目ですか?」

 本日二度目のため息。

 今、生放送で流れている音楽はスピーカーで俺にも聞こえる形になっている。

 音楽そのものは聞こえているし、合わせようと思えば合わせられるかもしれない。が、

「それ、何回かやってますけど、結構難しいんですよね……」

〈生主ファイトっ!:ドS〉

〈君ならできる!:黒鳥〉

〈お前ならできるさっ!:シン〉

「あ、シンさんいらっしゃい。そして、無責任な発言ありがとう」

 この人たち、無駄にノリがいいから、誰かが面白いことを言い出すと全員が乗っかる。放送している側としては、喜んでいいのか嘆くべきなのか分からない。

〈リア友さんたちも言ってるし、いけるんじゃね?:あげは〉

「いや、黒鳥さんたちは完全にノリで言ってるだけだと思いますけど」

 本日三度目のため息をつく。

 当初、黒鳥さんたちは、普通に見ている視聴者として振舞っていた方が身内放送に見えなくて良いと他人の振りをしていた。しかし、最近になって、「もう盛り上がってきたし別にいいんじゃね」ということで、リアルで関係のある人というレベルには公表している。

 結果、黒鳥さんたちは遠慮することなくズケズケコメントするし、それに応じてドSさんもあげはさんも乗るから、一旦流れに乗り始めると止められない。

「じゃあ、やってみますけど……」

 今流れているのは、結構テンポの速い曲だ。

 有名なアニメソングなので、サビだけでなく、AからCメロまで全て覚えている。

 ボールの数は、四つにした。大きさはいつも使っているもので統一した。

「っと」

 曲に合わせて、ジャグリング開始。

 テンポに合ってしまえば普通にやるだけだからなんとかなるが――

「あ……」

 曲に合わせて、テンポよくやろうとした瞬間に落としてしまった。

 乗ってしまえばそれまでだが、乗るまでが難しい。

「しょうがない。もうい――ん?」

 もう一度、集中してやってみようとボールを構えたところで、綾瀬さんがまたストップをかけてくる。

 ドSさん辺りが失敗したことをいじりにきたかと思いきや、



〈わこ ※AMIRU〉



 初めて見る名前が画面に表示されていた。

 たぶん、新参者だろうと判断し、対応する。

「あ、初見さんですかね? いらっしゃいませ。名前は、そのまま、あみるさんで――」

 いいでしょうかと言いかけて、止まる。

 AMIRU。

 その名前に、見覚え、いや、聞き覚えがあった。

 一度しか聞いていないし、誰もその名で呼んでいない。

 だから、気づくのが遅れた。



 ――椎谷あみる。



 確か、椎谷先輩はそう名乗った。

「……」

 別人かもしれない。

 ハンドルネールに本名を使う人は少ない。

 それに、MDKの活動へ来てから何週間も経っている。

 椎谷先輩本人という確証はどこにもない。

 だが、意識せずにはいられなかった。

〈生主、どうかした?:ドS〉

「あ、なんでもないです」

 不自然に硬直するのは良くない。

「じゃあ、初見さんも来てくれたことですし、改めてリクエストでも取りますか?」

 AMIRUと名前を付けた人が、椎谷先輩ではないことを祈りつつ、聞く。

 直後、

〈卵でやって:AMIRU〉

 そんなコメントが流れた。

「いやいやいや! 落としたら割れますし、無理ですよ」

〈じゃあ、電動ノコギリで☆:AMIRU〉

「そんなもの家にありませんし、絶対怪我しますって!」

 コメントは止まらない。

 他の視聴者がコメントする間を与えまいとするかのように、次々と書き込まれる。

〈フライパン? :AMIRU〉

「落としたら絶対近所迷惑になりますよ。できればもうちょい普通のモノで――」

〈包丁:AMIRU〉

「悪化してます!」

〈しょうがない。漫画でジャグリングしてみてください:AMIRU〉

「絶対、痛みますよね。下手したら表紙かどっかが折れますって……」

〈ゲーム機でどうぞ:AMIRU〉

「落として壊すパターンですね」

 対応に困っていると、

〈なんでもいいから、普通にやれば? :黒鳥〉

 助け舟が来た。

 黒鳥さんが普通のコメントをくれた。

「そうですね」

 俺は頷く。包丁だのゲーム機などでできるわけがない。

 適当にヘディングしながらジャグリングしようかとボールを用意し始める。が、


〈普通にとか(笑) なんか面白いことやってよ:AMIRU〉


「……」

 決まりだと思った。

 今までのコメントだけなら、ネタかなにかだと思って流せるが、これは、違う。悪意が見て取れる。たぶん、椎谷先輩だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ