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モコモコ動画革命団  作者: 彩坂初雪
第三章
30/58

生主は

「俺も真の案に賛成です。今はまだ様子見の段階だと思います」

「……」

 俺の意見を聞いて、黒鳥さんは難しい顔をする。

 理解はできるが納得はできない。

 そんな感じだった。

 なにか、理由があるのだろうか。

「じゃあ、二人はこれ以上なにか起こったら、対処する、ということでいいのかな?」

「はい」

「そうなります」

 それがベストだろう。

 椎谷先輩は先ほど、わざわざ乗り込んできて嫌味を言ってきたけれど、今のところはそれだけなのだ。彼女が、俺たちがアップした動画を荒らしたという証拠もなければ、これから荒らすという確証もない。ここで椎谷先輩にくってかかったら、それこそ無自覚な荒らしになる。

「……まあ、いいだろう。私もそれが最も理にかなっていると思う」

「じゃあ、とりあえず現状維持ですか?」

「ああ。真君はブログの更新、芽依君は生放送、私は動画投稿を続ける。葉月はそれぞれのバックアップに回ってくれ」

「分かりました」

 全員が頷くと、黒鳥さんは改めて言う。

「よし、じゃあ、当面は現状を維持、やつがなにか動きを見せたら各自、速やかに報告すること。いいな!」

 俺も、真も、綾瀬さんも、再度頷く。



 なにも、起こらなければ良いのだが……。



     ◆



「おーっし、こっちの準備は大丈夫だよ」

 現状維持を宣言してから三週間。ゴールデンウィークも過ぎ、蒸し暑い季節がやってきた。

 あれ以来、椎谷先輩はなにも動きを見せていなかった。活動場所へ乗り込んでくることもなければ、投稿した動画に目立った荒らしもない。

 生放送の回数も二桁に乗り、かなり慣れてきていた。

 ドSさんだけでなく、あげはというネームの人も頻繁にきてくれている。その他、ちょくちょく顔を出してくれる人もいるし、当然、時間が合えば黒鳥さんも真も来る。

 放送内容がジャグリングのため、コメントに反応するのが少し遅れてしまいがちだが、綾瀬さんが答えるべきコメントがきた際にはサインを送ってくれるので問題ない。

「……」

 綾瀬さんがカウントダウンを始める。

 ジャグリングは一種のスポーツだ。マスクをしているせいでいつも暑くなる。

 今日は最初から半そで姿で放送を開始する。

「やりますか」

 綾瀬さんの指が折りたたまれ、放送開始となる。

 とりあえず隣の台に置いてあったボールを四つ掴み、ジャグリング開始。

「……」

 コメントが来ないとなにを喋ってみようもない。

 というより、放送開始約三分から五分はそもそも、人が集まらない。なにかを喋ったところで誰も聞いていないのだ。

〈わこつ:黒鳥〉

〈やあ:あげは〉

〈わこ。今日は半袖か。イヤラシイな:ドS〉

 開始から三分ほどが経過したところで一旦ジャグリングをストップ。

 画面に目を向けると、既に三人来ていた。

「黒鳥さん、あげはさん、ドSさんいらっしゃい。あと、半袖になったのは暑いからです。イヤラシクありません」

〈生主は男の娘:ドS〉

「違います」

 ため息をつく。

 五回目の放送辺りで、あげはさんが来た時、どういう流れか忘れたが、俺の顔がどうのという話になったのだ。

〈生主は可愛い:あげは〉

「……その話、いつまで引っ張るんですか」

〈生主がおじさんになるまで:黒鳥〉

「あんたは黙っててください」

 まったくもう。

 黒鳥さんは素顔を知ってるだろうに……。

「じゃ、なにかリクエストあります?」

 一通り、無駄話が終わったタイミングで、聞いてみる。

 最近では、自分でなにをするか決めるのではなく、視聴者の皆様にどんなプレイをして欲しいか聞いている。ただ見ているだけよりも、参加してもらう形にした方が楽しいだろうという綾瀬さんからのアドバイスだった。

〈サッカーボールでジャグリング:ドS〉

「サッカーボールは今三つしかないですけど、それで良ければやりますよ?」

〈おk:ドS〉

 大きいモノ、小さいモノ、掴みにくいものでジャグリングをすると本来の大きさに戻った時とてもやりやすく感じる。

 俺は普段からいろんなボールを織り交ぜ、時には消しゴムやボールペンなども取り入れて練習している。それに比べれば、大きいとはいえ、全て一定の大きさであるボールでジャグリングすることくらい容易である。


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