今のモコモコ動画は
「さて、と」
黒木伶と名乗った先輩に連れていかれた先はゼミ室という、高校までの教室の半分ほどしかない小さな部屋だった。中央に大きな机が置かれ、両サイドに腰を下ろせるようになっている。
「まず、紹介しよう。我々モコモコ動画革命団の仲間、一年生の綾瀬葉月さんだ」
「は?」
「へ?」
俺も真も、一瞬、なんのことか分からなかった。
部屋には三人しかいないはず。そう思っていたから。
「……っ!」
唐突に、背後に人の気配を感じ、振り向く。
「……」
ぺこり。
女の子が一人、立っていた。先輩とは真逆で、ショートカットの髪の毛に丸顔という少女だ。
幽霊とか、そういう類のものではない。ちゃんとした、人間だ。
「いつからいた?」
「……」
「……?」
「ああ、葉月はほとんど喋らないから、放っておいていい。私も気づいたのはついさっきだが、たぶん、ずっと後ろにいたと思うぞ」
「後ろにって……」
先輩の説明に納得するが、ずっと後ろにいるとか、亡霊かなにかですかあなたは。
しかも喋らないってどういうことよ?
いや、今はそんなことはどうでもいい。綾瀬さんについてはとりあえず流そう。
「ええと、それじゃあこの綾瀬さんと、先輩と、他に仲間はいるんですか?」
尋ねると、先輩は首を振る。
「いないよ。これで全員だ」
「……」
現在二人ですか。
部活とかサークルとか、そういう規模じゃないぞ。
口車に乗せられてここまで来たけど、要は人数が足りないっていうことか?
「とにかく、座ってくれ。話づらい」
「あ、はい」
真と二人、先輩の正面に腰を下ろす。
綾瀬さんは俺の隣に腰を下ろした。
それを確認し、先輩は口を開く。
「私の目的や君たちに声をかけた理由を話したいところだが、まずモコモコ動画についての説明をするべきかな? 芽依君はともかく、真君はほとんど知らないのだろう?」
「あー、そうしてもらえると嬉しいです。動画を撮ったり作ったりして、サイトにあげられるということと、その動画に視聴者が自由にコメントできるっていうことくらいしか知りません」
それだけ分かっていれば、十分ではないかと思う。
実際、真は何回も動画を見ているのだ。たぶん、ある程度は理解しているだろう。
「ふむ。それだけ分かっていれば十分かな?」
先輩も同じように思ったらしい。
「強いて付け足すなら、動画をアップする時、著作権が絡んでくることや、顔を出す出さないとか、そういった問題もあること。それからモコモコ動画は、動画をアップするだけではなく、生放送もできるってことも知っておいて欲しいかな。これも動画と同じく、いろいろなことができるんだが、ま、今は置いておこう」
他にも、動画だけでなく、イラスト等をアップすることもできる。
名前こそモコモコ動画となっているが、本当に『いろいろなこと』ができるサイトなのだ。
「じゃあ、本題に入ろう」
コホン、と咳払いをして先輩は語る。
「私は、今のモコモコ動画は、はっきり言って、なくなってもいいレベルだと思っている」