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モコモコ動画革命団  作者: 彩坂初雪
第二章
20/58

「……」

     ◆



 自分の部屋、いや、実家に、初めて女の子を入れた。

 きっと、普通の男子、女子の関係なら、ナニカを期待することのはずだ。

「……」

「……」

 が、しかし、それはあくまで、普通の、男子女子の話だ。

 頷くことと、文字でしか意思表示をしない綾瀬さんが相手では、そんな気は全くと言っていいほど起きない。

「どんな?」

「……」

 グッと親指を立てて返してきた。

 前言撤回。親指を立ててオーケーを示すという意思表示の方法もあるらしい。

「部屋も掃除したし、親にも言ってあるから問題なし。ま、こんなもんだろ」

 今日は生放送第一回の当日だ。

 俺は綾瀬さんと共に着々と準備を進めていた。

 綾瀬さんが家に来た直後、母親が「まあまあこんな可愛い子が着てくれるなんて! 芽依も大人になったのね、嬉しいわ~」云々、という感じで暴走したが、事情は説明してある。俺の部屋に暫くの間来ないようにと厳命しておいた。

「……」

 綾瀬さんの方へ視線を向ける。

 比べる相手が先輩のせいで、どうも感覚が鈍っていたが、こうしてみると、綾瀬さんは綾瀬さんで十分すぎるほど可愛い。先輩とは真逆で、守ってあげたくなるような感じだ。

 今日は四月にしては気温がかなり高く、綾瀬さんはショートパンツをはいている。その結果、素足が見えている。これがまた、良い感じに細い。会った時から小柄で体の線が細いとは思っていたが、ガリガリというわけではなく、ちょうどいい感じの――

「――痛っ!?」

 なにかが飛んできて、額に見事ヒットした。

 見ると、綾瀬さんがぷいっとPCの画面へ向かうのが確認できる。

「……」

 怒らせてしまったか。

 というか、この人、案外ちゃんと意思表示するんだな。

 いや、そんなことはさて置き。

「先輩と真は来てくれるんだっけ?」

 聞くと、こくりと頷かれる。

 モコモコ動画に何年も浸っているから分かるが、生放送というのは、注目されるようなことをしていたり、それなりに長い日数やっていたりしない場合、ほとんど人が来ないということがよくあるのだ。

 モコモコ動画の生放送は時間にもよるが、千~三千くらい放送している。そのなかで見てもらうとなると、固定で来てくれる人が何人もいないと全く盛り上がらないのだ。

 だから、最初のうちは、仲間内の人間にこの時間にやると知らせておいて、あたかも人が何人も来ているような状態を作り出した方がいい。

「カメラとかは大丈夫?」

 こくり。

 俺も、ボールと、マイクのセットは済んでいる。あとは、

「蒸し暑いから嫌なんだけどな……」

 結局、顔を全て出すようなことは避けたいと思い、マスクをすることにした。お面という選択肢もあったのだが、ジャグリングは頭を使うこともあるので、しょうがない。

 ちなみに、マイクは服につけるタイプのもので、たぶん、高価なものだ。借り物だから、うっかりボールをぶつけて壊したりしないように気をつけないと。


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