どう思う?
「さて、話を戻そう。動画を投稿したことのある君に、是非、聞いてみたい。今の、モコモコ動画をどう思う?」
「それを答えると、どうなるんですか?」
「別に? どうもならないさ」
肩をすくめてみせるが、今までの言動を考えると、怪しすぎる。
たぶん、この人の思った通りの答えをしてしまったら、『モコモコ動画革命団』とやらに勧誘されるはずだ。
「思ったととおりのことを言ってくれて構わないぞ?」
「……」
こういうひねくれた感じの人間相手に、捻った答えを返しても無駄だろう。逆に論破されて終わる可能性がある。ここはあえて素直に、正直に話した方が得策かもしれない。
できれば、関わりたくない人種だ。
「思っていることをそのままでいいんですよね?」
「ああ。構わないぞ」
女性はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
はあ、とため息をつき、答えた。
「今のモコモコ動画をどう思うか、ということですけど、どうとも思いません。投稿したことのある人間視点から言わせてもらうと、正直、粗を探して駄目出ししているユーザーの皆さんには腹が立ちますけど、そんなの見なければいいだけです。それをどうこう言ったところでなんの意味もありません。それから、単純に視聴者側からの意見ですけど、それこそ、どうでもいいの一言に尽きます。自分の好みの動画を探して見る。それで終わりです。なにか、問題がありますか?」
女性はふむ、と顎に手をやりちょっと考える素振りを見せた後、言った。
「では、不満は特にない、ということでいいのかな?」
「いえ、不満がないわけではありません。ただ、そんなことを気にしていたらどうしようもないのでは? ということです」
実際、今のモコモコ動画に対しては、疑問を感じている。
動画の内容とは関係ないことまで突っ込みを入れたり、そこまで気にする必要はないのではと思うことまでコメントする。視聴者としても、投稿者としても、気分が悪くなるだけなのだ。だから、最近は動画を投稿していないし、する気もなくなった。
だが、だからといってそれに反抗してどうなるというか。何人いるのかも、どんな相手なのかも分からない相手に、どうやってその意思を伝えろというのか。反抗できないし、下手なことをすれば逆に煽ることになってしまう。
俺はそう思って、今では適当に流している。そういう技術が、身に付いてしまっている。
「ふむふむ。不満は一応ある、と」
「本当に一応、というレベルですよ」
俺がもういいですかという感じで言うと、女性はクスクスと笑う。
なにかを面白がっているような、そんな雰囲気だった。
「うん、芽依君については分かった。じゃあ、参考までに、真君はどう思う?」
問われた真は、俺のように詰まることはなかった。
「分かりません!」
うん、本当に、真は分かってないはずだ。
真はたまに俺がはまった動画を見せたりしているだけで、動画サイトなどにはほとんど関心がないはずだ。答えられるはずがない。
ところが、予想に反して、真はでも、と付け加えた。
「芽依が投稿した動画が、どうでもいいようなところでケチつけられてたのはちょっと納得いかなかったです」
その言葉は、ちょっと嬉しかった。
「なるほどな」
女性は、期待通りだと言うように、さらに口角を吊り上げる。
そして、言った。
「二人とも、もし、その不満や疑問を解消できるとしたら、どうする?」
これが、モコモコ動画革命団団長、黒木伶との出会いだった。