これは、私が
先輩は眼を画面に向け、思案顔になる。
「ある、と、私は思ってる」
「……」
「別に、このまま投稿してしまっても、構わないのかもしれないがな。それなりの完成度にはなってると思うし。……ただ、どれだけ優れていても、見ている人間のことを考えない作り方をしているモノは駄目なんだよ。そういう意味では、真君がアップしたあの動画はむしろ面白いのかもしれないね」
「どういう形にしろ、視聴者に興味を持たせたという意味で、ですか?」
「そういうことだ」
話は終わりだと言うように、先輩はそのまま作業に戻る。
「……」
その姿を見て、やはり気になるのは先輩の動機だ。
先輩はどうして、モコモコ動画の現状を許せないと思っているのだろうか?
ここまで一生懸命に編集している理由と、なにか関係があるのかもしれない……。
明日は土曜日。全員に告知してあるが、午後からテストも含めて生放送をすることになっている。それに合わせて、真の二度目の動画アップもする予定だ。先輩の動画に関しては決めていないが、この様子だと、合わせようとしているのかもしれない。
できれば、本格的な活動が始まる前に、先輩がどうしてこんなことを始めようとしたのか聞いておきたい。綾瀬さんも謎だらけだが、発起人は先輩だ。
「……よし」
ジャグリングの練習を再開させつつ、思う。
この後、もし聞けるようなタイミングがあれば、聞いてみよう。
◆
と、思っていたら、本当にその機会が訪れてきた。
俺は超能力者かと突っ込みいれそうになったが、そんなことはない。単なる偶然だ。
真が明日、動画を投稿するに当たって、撮りなおすことが決まったらしい。俺との生放送の段取りもそこそこに、真と一緒に綾瀬さんが帰ってしまったのだ。
結果、現在、部屋には俺と先輩だけが残されている。
「……疲れた」
玉を五つに増やしてジャグリングをしていた俺は、ちょっと休憩しようと先輩の正面に腰を下ろした。
先輩は相変わらず、ずっとPCに向かいっぱなしだ。こちらのことなどまるで気にも留めていなかった。少し前から、長い黒髪をポニーテールにまとめている。
「……」
ぼんやりと思う。
やっぱり、すごい美人だ、と。
別にそれがどうこうということはないが、同年代のなかでは群を抜いていると思う。実際年上だから、そう感じてもしょうがないが、見た目も、それから中身も、お姉さんタイプだ。スタイルもいいし、きっと、ミスコンに出たらまず間違いなく優勝候補筆頭になるだろう。
比べてしまって申し訳ないが、小柄で童顔な綾瀬さんとは対照的だった。
「なんだ? 人のことをじろじろ見て」
「あ、っと、すみません」
気が付くと、先輩はPCから顔を上げて、じと目で俺を見ていた。
「なにか気になることでもあるのか?」
いえ、大丈夫です、と返しかけて、止まる。
聞いてみよう。先輩と二人きりなんていう機会は、そうそう訪れるものではない。
「先輩」
「なんだ?」
「先輩は、どうしてこんなことをしているんですか?」
「……」
一秒にも満たない短い時間だったが、先輩は詰まった。
そして、聞くんじゃなかったというように深いため息をつく。
「そんなことを聞いてどうする?」
「どうもしませんよ。ただの興味本位です」
「興味本位、か……」
はい、と頷き、続ける。
「先輩に誘われてここに来てますけど、当の先輩自身がどうして頑張っているのか俺たちは聞いていません。先輩が動画編集の技術を持っていることも、生放送の機材を持っていることも、なにか理由があるんじゃないですか?」
「ストップ。ちょっと待て」
先輩はイスの背もたれに寄りかかって、天井を見つめる。
話して良いものか、迷っているという雰囲気だった。
じっと待っていると、先輩は「ちょっと待て」と言って、PCを操作し始める。
カチカチというクリック音が響く。
「これを見ろ」
その後、くるっとPCを回転させて、こちらへ画面を向ける。
「あ、これって……」
見覚えがあった。
何年か前のものだが、モコモコ動画内で有名になった動画だ。
今現在、先輩が作っているのと同じく、曲に合わせてアニメの動画が流れるという、そこらにありそうなものだ。しかし、シーンの選び方や、画質の良さ、それから間奏時に入るアニメキャラたちの台詞、その他もろもろ、全てが高レベルで、一万どころか十万再生までいった動画だ。俺もお気に入り登録して、何回も見ていた記憶がある。
「知っているか?」
「はい」
「これは、私が投稿したものだ」




