それにしても
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それから、俺はジャグリングの練習を重ねた。
生放送をするにあたって、まずはある程度腕を上げておかなければならない。難しい技を練習するにしても、そうでなくても、とにかく人に見せられるくらいの実力が必要なのだ。
「え? まだダメ? うーん。結構いい感じだと思うんだけどな……」
座ってデジカメを綾瀬さんと覗いていた真ががっくりうなだれる。
ここのところ、それぞれの講義が終わり次第、空き教室を確保し、全員で集まって作業をすることが日課になっていた。
俺はひたすらジャグリングの練習。真は綾瀬さんにアドバイスをもらいながら、動画の撮影や原稿作り。先輩はノートPCを持ってきて、動画の編集をしていた。
「痛っ!」
集中が途切れた。
妙なところにボールをぶつけ、落としてしまう。
俺が挑戦しているのは、ヘディングしながら、普通にジャグリングをする技だ。詳しい技名は知らないが、なにかの動画でやっていた人がいるのを見た記憶がある。ジャグリングをただしているだけでは、見ていてつまらないし、そのくらいできるわと言われて終わりになる。なにか大技の一つでも持っていないと生放送などとてもできないだろう。
「……」
それにしても、と思う。
今、俺が立っている位置から、ちょうど先輩が編集している動画見えるのだが。
異様にクオリティーが高い。
「……ん」
時折、伸びをしながら、先輩はPCに向かい続けている。
全員でなにに取り組むか決めてから二日間。
どのくらいの時間をかけて作っているのかは分からないが、既に十分見れるレベルにまでなっている。現時点で動画をアップしてもそれなりの評価が得られると断言できるほどだ。
先輩は有名なアニメ作品の曲に、そのアニメのシーンをいくつか合わせているようだった。俺も一通り見たことのあるアニメなのだが、曲と映像がマッチしていて、まだ完成していないのに、感動を覚えてしまう。
「ん? なんだ?」
と、視線に気づいたのか、先輩が顔だけこちらに向けてくる。
「いえ、すごいな~と思って……」
「そうか? すごいというなら芽依君の方がすごいさ。どうやったらヘディングをしながらジャグリングができるんだ? 今度是非教えて欲しいな」
それには、あははと苦笑いで返しておく。
「今、なにをしているんですか? ぱっと見、もう大分完成に近いように見えますけど」
「いやいや、まだだよ。映像の切り替わるタイミングと曲のタイミングを合わせるのはなかなか大変だ。もうちょっと微調整が必要だよ。それに、曲に合わせて作っているつもりではあるが、他人が見た時にどう感じるかは分からない。シーンを選ぶのも動画編集の難しいところだ。曲に合わせて、緩急をつけないと、見ている人が疲れてしまうしな」
「……そういうものですか?」
「ああ。芽依君のような、一気にばーっと撮って終わりっていう動画も、失敗が許されない分難しいとは思うけど、こういう作業も大変だよ」
疲れているのか、いつもより声に張りがなかった。
それが少し気になって、疑問がそのまま口から出る。
「そこまで、やる必要がありますか?」




