お題『プロの挫折』
制限時間30分、執筆時間ほぼ30分。
プロを学園に置き換えて、プロ=生徒会長と無理矢理こじつけて書いてみました。
後半、時間制限ギリギリで無意識に執筆して無茶苦茶になってしまった……
「どう、してよ……なんで、よ!」
先輩は泣いていた。地面に膝から崩れ落ちて、周りの事なで気にもせずに泣き続けた。まぁ、この場に居るのは俺だけだから周囲を気にする必要も無いのだが。
「………………」
俺はただ先輩のその姿を見ながら立ち尽くすだけだった。慰めの言葉も、フォローの言葉も俺は持ち合わせていない。そもそもこれは先輩自身の問題だ。俺が口出しするようなもんじゃない。
「ひっく、なんで、よ……どうして……」
先輩は学園の生徒会長であり、相談役でもあり、完璧な存在だった。そんな先輩が泣く理由はそこにあった。
そんな先輩だからこそ今は泣くのだ。完璧すぎて頼り甲斐があるからこそ。優秀すぎる存在と言うのはいつも疎まれるもの。人と言うのは醜く、優秀な物を蹴落としたくなる存在だ。だが、優秀すぎる先輩はそんな事は分からず、目の前にある数々の中傷文の手紙を前に泣き続ける。
「私は、ずっと皆の為に、楽しい学園生活の為に、頑張ってきた。なのに……どうして、こんな……」
無論、これは極一部の奴がやった事だ。大半の生徒達は先輩を慕っている。少なくとも表面上は。人間の奥など他人には分からない――しかし世は、極一部の人と人の奥の闇で変わってしまうものだ。
現に先輩はその少数が原因で泣き崩れ、自身のして来た事を否定され、アイデンティティが崩れてしまっている。
「ねぇ、教えてよ…………私は、間違った事、していたの」
先輩は俺に答えを求めてくる。自分を保つ為に、逃げ場所を見つける為に。だが俺は先輩の求めには応えない、応えられない。そんなの他の奴と同じ事だ。結局表面で何かを言ったって、現実は何も変わらないのだから。
「そんなの、自分が一番知っている事じゃないんですか」
「え…………」
ぐしゃぐしゃになった顔を上げて、俺を見つめてくる先輩へと続けて言葉を投げつける。
「他人がどうこう言おうが、中傷されようが、結局は先輩自身が良いか悪いかを決めることだろ? それとも先輩は中傷される為に今まで生徒会長を頑張って来たんですか?」
「そんな事、無い!!」
「じゃあ、それが答えじゃないんですか。自分が正しいと思って尽くしてきたならそれで良いじゃないですか。他人がどうこう言おうと、自分がして来た事は正しいと思うなら」
「でも、でも……!」
「そんな先輩だから、俺は傍に居て、ずっと手伝って来たんですよ」
正直、俺も中傷の手紙に対しては腸が煮えくり返る程むかついている。でも結局怒ったって、こんな事する奴らは言葉なんで届く筈が無い。届くならばこんな関節的なことをするわけが無い――人というのは本当にどうしようも無い存在だ。俺も含めて……。
「先輩は生徒会長でしょう? だったら胸を張って言えば良い。こんな事するなら目の前に出てきて明確な理由と共に文句言えって」
「………………っ!!」
「それで明確な理由と一緒に文句を言われたら、正せば良い。結局してしまった事は消せないし、戻れないなら、前に進む方がよっぽと良いと思いますよ」
「どうして……どうしてそこまで…………私なんかの為に」
「…………どうして、か」
ただ傍で手伝って支えてやりたいと思って、俺も生徒会に入っただけだ。ただそれ以上に理由なんて無かった。
この人は完璧すぎる。だから本当の意味で理解して、支えてあげる人が居ないといつか折れる――そう思っていた。
気付けば先輩と一緒の時が多い。俺自身、毎回迷惑な事も振り被る事もあったけど、それ以上に楽しく充実していた――あぁ、そうか。簡単な事じゃないか。
「先輩が好きだから」
「えっ…………」
「先輩を傍で支えたかったから……だ」
気が付けば想いは一瞬でハッキリとして、形として彩って行く。
「だから先輩には先輩らしく居て欲しい」
先輩に向かって手を差し伸べる。その手を先輩は戸惑ってから、ゆっくりと握り締めてくれた。
「私も……私も、貴方の事が好き……です。やっと、言えた……!!」
先輩は俺の手を引っ張って抱きしめてきた。嫌じゃなくされるがままだったけど、先輩のぬくもりは暖かく優しかった。
「これからも傍で支えてください――」
それは挫折からの恋の始まりだった――




