お題『すごい哀れみ』
時間制限120分、執筆時間22分。
すごい哀れみって抽象的すぎて物凄くこじつけた内容になっています(というよりお題に合ってないような気もry)
少年は何も無い丘に立つ。地面に落ちる、かつて空を飛び続けた純白だった紙飛行機と共に、立ち尽くす。
その紙飛行機はもう二度と空を舞うことは無い。しっかりとしたフォルムはヨレヨレになり、純白だった翼は折れてしまっているから。何よりも、もう紙飛行機を空へと飛ばす人は居なくなってしまったのだから。
かつて空を飛びたいと願った少女は、僕に言った。紙飛行機になりたい――と。だからずっと飛んでいく紙飛行機を一緒に作ろうって。一緒に作った紙飛行機は数え切れない。それでも楽しかった。例え君と一緒に空へ飛べなくても、その時間は空を飛んでいたんだ。
そして出来た一つの紙飛行機。それはどこまでも飛んでいく紙飛行機。風に乗って、地を離れて、水平線の向こう側まで飛んでいく――それ程までに空に舞ったんだ。
でも少女はそれを見ることは無かった。空を飛びたいと願った少女の夢は、今は足元の紙飛行機と同じ様に地面に落ちてしまった。
もう夢を語ることも、一緒に紙飛行機を作る事も、笑い合う事も出来なかった。一緒に、時間という空を舞う事も出来なくなった。それでも少年は下ではなく上を向き続ける。かつて少女が舞いたいという空を見上げて、忘れない為に。
少年は初めて、足元へと目線をやる。そこには紙飛行機と少女の名が刻まれる石碑――もう少女も、紙飛行機も空を舞う事は出来ないのだ。だが、夢を飛ばす事はまだできる――
少年は紙飛行機を手にして、ヨレヨレだったフォルムをしっかりと伸ばして行く。汚れた翼も汚れや埃を払い取り、限りなく純白へと戻して行く。それから一度紙飛行機を紙へと戻して、もう一度折って行く。後数折りという所で少年は一本のペンを取り出して、紙に文字を刻み付ける。
文字が書き込まれた紙はもう一度、かつての紙飛行機へと姿を戻す。そして少年は空へ向かって紙飛行機を思いっ切り飛ばす。全力で、空の向こうへと飛んで行くように――少女の様に上手くは飛ばせなかった。それでも不安定ながら紙飛行機は飛び続けた。
紙飛行機に刻まれた文字――『Liebe(愛)』と『Dank(感謝)』と『Traum(夢)』と共に。そこで初めて少年は瞳から雫を流す。哀れだと、自分は少女に何も出来ず、想いも伝えられずに情け無いと後悔する。
それでも瞳は空を見上げ続ける。少女が願う空に舞う紙飛行機を見つめ続ける――それが少女と少年自身に対する願いなのだから。いつまでも少女は空を舞える様にと――少年はいつまでも少女と共に空を見続けるのだと――。