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お題『死にぞこないの能力者』

 あぁ、また生き残ってしまった。少年は痛む体を横たえながらそう思うのだった。

 少年は何があっても死ねない、どんなに体が傷つこうと、削がれようと、焼かれようと死ぬことは無かった。少年自身の能力の影響で。

 少年は触れるもの全てを殺す能力――それは万物どころか、時間も、概念も、生も死も。少年が願いさえすれば全て殺されてしまう。

 故に少年は生き続ける。人としての生きる本能が為に、生き続けてしまう。人と言うのは死に恐怖する。例外として狂ってもいない限り、誰であろうと死からは逃れようとする。いずれ死ぬ病気に掛かったとしても、目の前の馬車に踏まれて、ひき殺されたく無いと思うのが普通だ。

 だからこそ少年は生き続ける。人が生き続けたいと言う本能が故に、少年の意志に関係なく能力が発動する。寿命を迎えて死ぬのが怖いならば、寿命と言う概念すらも殺す。この身が傷つき、息絶えようと言うなら、傷ついたという概念を殺す。死ぬという事実を殺してしまう。

「…………僕は、いつになったら死ねるのだろうか」

 少年は無表情に呟く。少年は生きすぎた、知りすぎた。その能力が故に死ねない、死にぞこない。少年には最早感情も心も無く、ただの虚無であり空虚だった。

 今日も今日とて、噂を聞きつけて、名声の為にと、少年の能力を研究しようと、少年に襲い掛かる。だがどれも全て無駄に終わる。例え少年が虚無で空虚であろうと、人である事には変わりない。

 生きるという本能がその能力を発動させてしまう。少年はそのことをいつしか当たり前と思って諦めている。生きるから殺す。生きたいから殺す。少年に普通の生活などもう無いのだ。

「………………」

 少年は立ち上がる。受けた傷は既に能力による概念の殺害で自然に消え去っていき、自然回復していく。

 少年は歩く。目的も無く、ただ空虚に歩き続ける。暖かな死に場所を求めながら今日も歩き続ける。死にぞこないじゃなく、死ねる能力者として死ぬ為に足を止める事はない。

 いつか、何千、何万という時が過ぎようとも、安らげる死を求め――いつまでも。振り返れば少年の後には死を迎えた亡骸達。いつか、自分もあのように亡骸になれると信じて――

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