重荷と覚悟
一体これは、どういう事なのか。
多くの少女や女性が恋い焦がれ、眠れぬ夜を過ごさせる男。
その人が今、自分の使っているみすぼらしいバッグを片手に自室の中を案内している。
「伯父貴などは使用人がいないと自分の着替えもできないが、私はたいていの事を自分でこなす。私が君に望むのは、下男下女では対応できない事柄の処理だ」
大きい暖炉がしつらえられた居間。
赴きの異なる、大小四つの応接室。
天蓋付きの巨大なベッドが鎮座する寝室。
十人は余裕で入れる浴槽のある風呂場……と隣接するトイレ。
「例えば私の元を訪ねてきた貴人のあしらいや連絡員の取り次ぎ。細かい所だと、食卓のコーディネートなども相談を受ける事になるだろう」
相談を受ける。
その言葉に、セリフィスの足が止まる。
「で、殿下……」
恐る恐る声をかけると、ディルハードは立ち止まって振り向いた。
深海の瞳が、彼女を捕らえる。
「私の好みを理解して、それに合わせてくれればいい。慣れない人間に、多くは望まない」
裏を返せば、慣れたら王子に関する裁量が自分の両肩にかかってくるという事である。
気軽な気持ちで引き受けた仕事だったが、どうやら予想以上に重要なお役目を背負う事になりそうだ。
「……はい」
しかし、引き受けた以上はベストを尽くす。
頷いてみせると、ディルハードは目を細めた。
「期待している」